第2話 宝箱と狼
俺の名は、カブト。いつの間にか転生して鎧になった存在だ。
少し前に宝箱に装備中し、スキル取得を行って、スキルポイントは0になった。
後戻りが出来ない状況だが、情報無しのスキルポイント消費なので、3つもスキル取得できて運が良かったと思った後、スキル取得した〈浮遊〉を発動して、空中に浮かんで確かめていたところだった。
スキル使用中のマナ消費量でどんな事が自身に起こるのかを確かめると、倦怠感と疲労感が俺を襲って来たので、〈浮遊〉を止めて一旦降りた。
『なるほどな。スキルを使っていると、疲労感の方が強いってところか』
説明すると、スキル取得する際は倦怠感の方が強く、判断力低下のデメリットになるので、余裕がある時にスキル取得を行わないといけないってことだ。
元からあるスキルの〈自動マナ回復〉のお陰で倦怠感が多少軽くなり、何とかなっているのだが、倦怠感のせいで精神的疲労は残るので意外と辛い。
『今は、我慢だな…』
いずれ慣れるだろうと俺は思いつつ、〈浮遊〉使って、自由な移動をしてみると成功。
他にスキル取得した〈マリオネット〉を自身に使用した場合、変化はない。
ミミック等の魔物の場合は、可能だと思っているが、自分は宝箱なので諦める。
使い続けるのも疲れるので、〈浮遊〉を止めてから、〈マップ探知〉を使用すると、マップ表示が目の前にスクリーンとして映し出され、扉の外側から離れた所に、複数の赤い点滅が映った。
自身の視界の中のマップ表示は、部屋の場所が四角く囲まれている線で表示されており、その先は見えないので不明だが、赤い点滅は魔獣の敵表示だろう。
それから5分程〈マップ探知〉を使い続けた結果、自身の現在地は隠し部屋だろうと確証が取れた。
理由は、赤い点滅が探知できない所まで離れて移動していたからだ。
今いる場所がボス部屋の報酬部屋だとしたら、赤い点滅以外で反応して動かなそうだし、その状況なら誰かが倒すまでこの部屋は開かないだろうなと想像できる。
俺自身がボスに挑むとなると〈マリオネット〉が効かない場合、〈浮遊〉で逃げ回るしか対抗手段しかないし、攻撃力が無いので意味を成さないだろうな。
そう想像しつつ、外の安全確認ができたので、いったん休憩した後、〈浮遊〉スキルを駆使して、移動速度を早くできるか続けていたが、今の状態を一言で表すと。
『翼のない空飛ぶ宝箱…』
宝箱が、浮いて移動してるなんて、シュールな光景かもしれないが、自分の見た目を気にしている場合じゃないよな?
◇
次の日から〈浮遊〉と〈マップ探知〉のレベルをひたすら上げて始めた。
部屋の広さは限られているので、ドローン操作する動作と同じで、壁へぶつかる事なく〈浮遊〉スキルを使いつつ、〈マップ探知〉で、エネミーの動きを探るために使い続ける。
〈並列思考〉も使っているので、マナの限界が来たら休息を取りつつ、ある程度回復するまで待つのを繰り返し続けた。
今の状態は、隠し部屋でブンブンと風を切って暴れる宝箱だろう。
誰かが見てたら、ドン引きする自信がある。
その後は数日間、同じことの繰り返しをしていると、俺に新たな進展があった。
スキルを使い続けていると、ステータスのスキル欄からスキルレベルの欄へ、取得したスキルが移動したのだ。
新たにステータスに追加されたスキルレベルは、使い続ける程にレベルが上がる仕様になっており、全て上がる訳ではなかったが、それでも変化が嬉しかった俺は、精神的疲労に限界を迎えるまで使い続けていた。
気付けばあっという間に時間が過ぎる。
『体感では1か月くらい時間が経ったかな?』
〈マリオネット〉は、近くにエネミーがいないので、未だに使えていない。
使用条件の範囲も狭いらしいので、スキルを使うなら扉を強行突破するしかないという結論に至っていた。
ちなみに俺のステータスは、今こんな感じ。
【黒兜】
種族:鎧(宝箱)
レベル:1/50
耐久:100/100(+0)
攻撃力:0(+0)
防御力:1000(+0)
魔力:100(+0)
俊敏力:100(+0)
幸運:1000(+0)
マナ:308/500(+0)
スキルポイント:0
スキル:〈装着変形〉〈解除〉〈並列思考〉〈憑依〉〈自動修復〉〈自動マナ回復〉
〈マリオネット〉
スキルレベル:〈浮遊〉Lv3、〈マップ探知〉Lv3
称号:自我を持つ鎧、転生者、宝箱もどき
現在に至るまで、部屋の中で取得したスキルのレベル上げの日々を送り続けた。
『〈マップ探知〉!…新たな生体反応もないな。部屋がある扉近くまで、なかなか来ない。スキルレベルも上がり辛くなったら、この部屋から出る頃合いだな』
そう呟きながら、次の行動に移す準備として、確実に成長するという目標を立て、準備を怠らないようにスキルの鍛錬を欠かさないことにした。
今の俺は鎧に生まれ変わっても、自我が残っている限り、自由を求めてしまっているのかもしれないが、本能のままに新たな装備者の出会いを欲しているのかもしれないと思いつつ、なぜ鎧になったのだろうかと考える。
未だに鎧に生まれ変わったのは謎であるが、それを知るのは、神かダンジョンの主だろうなと思いながら部屋の中でブンブンと風を切りながら、スキルの鍛錬を続けるのだった。
その頃、とある一室でクッションでだらけた角の生えた少女が「クシュンッ!…誰か噂してるかの?」と呟いていたという。
◇
更に月日が過ぎた。
外の時間とダンジョンの中は、時間の流れは違うのかもしれないが、俺の体感的に2ヶ月は隠し部屋に籠りっぱなし。
〈浮遊〉と〈マップ探知〉がLv5まで上がり、他のスキルは相変わらず。
ステータス欄の称号に、引き籠りと慎重派が追加されたぐらいだ。
今の日課を繰り返しているとそんな称号が付いてもおかしくないなと思いつつ、〈マップ探知〉を使っていると、赤の点滅が増えたり減ったりしているが、外から来る冒険者的な点滅は、未だに捉えられてない。
それに、点滅を見た感じは魔獣の敵しかいないらしい。
『使えるスキルも上がりにくくなったし、部屋から出ようかな!』
俺は心に決め、外へ行く勇気を出して行動を始める。
本当は、1か月過ぎたあたりで部屋から出るべきだと思ったが、ここは異世界だ。
慎重になるのは当然だし、どんな事も慣れるのに、3ヶ月あれば十分だろうと縛りプレイを続けていたが、流石に同じ景色はもう飽き飽きしていた。
今から扉の外で魔獣に出会ったとしても、俺には〈マリオネット〉があるし、〈マリオネット〉に掛かれば〈変形装着〉させて〈憑依〉で乗っ取れるであろうと思う。
その後は、宝箱から装備先を変更して、レベル上げに専念していく。
成功したらの話だが、失敗しても〈浮遊〉スキルもあるし、何とかなるだろうと思いつつ扉を見つめた。
『最初は〈浮遊〉してと…扉を開くといいなぁ』
そうして俺は、〈浮遊〉の移動で扉を押してみるも開かない。
『なかなか固い扉…これなら突進しても大丈夫そうな扉だな。宝箱壊す勢いで移動速度を上げて、体当たりするしかないな』
3か月間〈浮遊〉レベルが上げたお陰で、速く移動できる。
今の俺の状態なら勢いで体当たりすれば、扉を開けるのは容易いだろう。
ドローンのように速度を上げた後、俺は扉に突っ込んでみると、扉に当たった瞬間、ドンッ!と大きな音と共に俺は外へ放り出された。
『うぉ!?』
〈浮遊〉で体制を整えて、転がりながら地面に着地すると、俺の目の前には、明るい森林が広がっていたのだが、外に出れた感動も束の間、大きな音で周辺の変化が無いか、〈マップ探知〉で確認すると、〈マップ探知〉で赤い点滅が1つだけ、此方に向かって来ていた。
『外に出れたのは良いけど、体当たりの音が大きすぎて、音に敏感なエネミーに気づかれたか…異世界で出会う最初のエネミーは何だろうな』
俺は警戒を怠らず、〈マリオネット〉が発動できるように心の準備をしておく。
少し経つと、嗅ぎ付けた獣の近づく音がだんだんと聞こえてきたので、俺はそのまま来るのを待っていると、樹海の草むらから黒い狼が現れる。
一定の距離はあるが、狼は得体のしれない宝箱に「グルル…」と威嚇を始めた。
『狼か!?ここまで近いなら発動できそうだな。早速だが…〈マリオネット〉!』
〈マリオネット〉を初めて発動したところ、狼の目が見開く反応を示す。
黒狼はすぐに大人しくなり、指示を待つように伏せた。
スキル発動が成功したので、俺は心の中で息を吐いてひと安心する。
『成功だな!…狼に〈憑依〉!』
発動すると視線が移り変わり、狼へ〈憑依〉が完了する。
4足歩行の狼になり、自由に身体を動かす。
俺はふと目線を、自身が装備する宝箱に向けると、黒く染まったフルプレートの禍々しい宝箱の姿が目に入った。
『自分の宝箱姿を初めて見たけど…鎧を装備した宝箱って、ミミックの上位種みたいな宝箱だな…』
そんな事を俺は呟きながらも、俺がこの日に部屋から出た判断は、偶然にも運が良かったと、知る由もなかったという。
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