【I】
槻白かなめ
beginning
9年前。
中央区では、無差別通り魔事件が勃発していた。
午後14時32分。
被害者はのべ25人にも及ぶ大事件で、年齢は │
軽症で済んだ者、体の部位を深く切り付けられた者、さらに犯人と接触し転倒など、怪我の状態も様々。
現場に飛び散った赤い斑点と塗料を零したような濁った水溜まり、辺り一帯から上がる号哭、立ち込める畏怖、充満する噎せ返るような鉄の生臭さが、事件の凄惨さを物語っていた。
死者が出なかった事だけは、不幸中の幸いと言えるだろう。
中央区を騒然とさせたこの事件は、その日のうちに新聞の号外が配られ、テレビやネットではニュース速報で放送された。
警察は人員を総動させて検証に当たったものの、甲斐も虚しく、行方を晦ませた犯人への手掛かりは僅かにも見つかることはなかった。
何日経っても足取りは掴めず、やむなく調査は中断となる。
一時的警戒区域に指定された中央区からは雑踏が消え失せ、以前のような無数の人で溢れ返っていた騒々しい光景とは打って代わり、人気のない殺伐とした閉鎖都市へと変わり果てた。
通勤や通学、買い出しなどに仕方なく通る人は時折現れたがこぞって皆、どこか気も漫ろな様子で浮き足立っていた。
だが、空が移り変わるように、この歴史的な大事件も風化していく。
犯人が行方知れずのまま、また再び事件が起こる気配もなく数ヶ月が経過した頃。
警戒は解除され、そんな警察の判断の元に、不安を覚えていた住人や事件以前にはよく足を運んでいた人々もぽつりぽつりと戻ってきて、次第に元の賑やかさを取り戻していった。
こうして、無差別通り魔事件は、静かに幕を下ろしたのであった。
【I】 槻白かなめ @Tsuk1sh1r0
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