第8話 学校にて


前回のバイトから二週間ちょっとが経過し、そんな本日月曜日も昼休みの時間が訪れていた。


俺はルーティン通りイヤホンを取り出し、三日月うさぎ様のASMRを聴きながら机に片肘をついてグラウンドを見下ろしていたのだが、最近そんな時間は長くは続かない。


はぁ、片耳のイヤホンが使えなくなるとASMR聞く意味ないんだよな…、没入感が無くなるし何よりノイズキャンセリングの効果が半減するから周りの雑音が邪魔になるんだよ。


なんて右耳のイヤホンを眺めてから遙日はイヤホンをケースへとしまう。


耳かきバイトでお金貯まったら新しいの買おうかな…


それはそうと、結局前回のバイトで学校でも仲良くしてねというお願いは今の今まで果たされずにいる。

今日までの二週間、わざわざ仲良くしてって言われたのにも関わらず学校で天音さんと接することはなかった。

接することは無かったというか、陰キャでモブな俺がクラスで天音さんに話しかけるなど無理な話なのだ。


しかも天音さんのバイトは毎週金曜日では無いらしく、初めて耳かきされた日はバイトの一人の子が出れなくて代わりに入っていただけだったらしい。

そのため、『ごくらく』で会うことはあれ以来1度もなかった。


そんな状況において、自分で言うのもおかしいが義理堅い俺でもさすがに陰キャでモブな俺が天音さんに話しかけると天音さんのイメージダウンに繋がりかねないなと思い、話しかけられずにいた。

ただ、その贖罪としてたま〜にLIMEでは会話するくらいのことはしているので天音さんもそこまでは怒ってないと思う、たぶん…。


逆にその間天音さんからの接触があったかと言えばなかった。


昼休みに訝しげな表情でちらちらと見てくることはあったが…。


それに関しては如何せん謎のままである。


「ねぇねぇ、御坂くん」

「は、はい、なんでしょう…」


なんて思考していると、遂に天音さんがわざわざ俺の席へと御足労頂いていた。


天音さんは俺の前の席の椅子をくるりと回転させ、対面して話せるようにと場をセッティングしている。


セッティングしてから話しかけろよ…


もちろんそんな言葉を口に出すこともできない。

チラリと天音さんの顔へと目線をやると若干ぷんとしており、少々ご立腹の様子であり、ようやく場のセッティングが終わったのかこちらを向いて席についた。


「なんで話しかけに来てくれないのですか」

「…だって、いきなり俺みたいな陰キャが学内カースト最上位の天音さんに話しかけてみろ、目立っちゃうだろ。考えただけで鳥肌もんだわ」

「でも約束してくれましたよね仲良くしてくれるって」


二週間も放置ってあんまりです、と天音さんは付け加えた。


「でもその代わり贖罪としてLIMEでたまに話してたじゃん?」

「じゃん?じゃないです。LIMEでじゃなくて学校で、です。あと、贖罪としてLIMEされてたの何気に悲しいんですけど」

「それは悪かったし、それはそうだが俺と天音さんが友達のように振舞っても釣り合ってないって周りが思うだけだろ?俺のせいで天音さんのイメージを悪くしたくなかったんだ」


現にもう既にちらほら俺の方「なんでお前が?」みたいな目で見てきてる奴らがいるし…


「別にイメージが悪くなったとしても、私が誰とつるむかなんて私の勝手じゃないですか。なので私の事を慮ってくれるのは嬉しいですが話しかけて来て仲良くなろうとしてくれる方が私はもっと喜びますよ?」


 はぁ、と少しため息をつき、しっかりと目を見て伝えてくれる天音さん。

その瞳からは真剣さと若干呆れたような感情が見え隠れしているように感じられる。


「…まあ天音さんがそう言うならそれでいいんだが…」

「あ、また人任せになってます。御坂くんは私と仲良くしたいと思わないんですか?」

「仲良くしたいとは思ってるよもちろん」

「そう思ってくれてるなら明日からよろしくお願いしますね?」

「わ、わかった」


それだけ伝えて帰るかと周りの目を気にしていた遙日は少し安堵していたが、どうやら違うらしくずっと目の前に座り続けている。


「…あの、天音さん。自席へ戻らないんですか?」

「ちょっと御坂くんに聞きたいことがありまして」

「どうした?答えられる範囲でなら答えるが」

「あのですね、なんで最近の昼休みは十数分したらイヤホンを外してるんですか?」


どうやらそれを不思議に思ってたからここ二週間の昼休みに天音さんの視線を感じることが多かったらしい。


 この高校に入学してからずっと昼休みはイヤホンとともに過ごしてきたから疑問に持たれることも無理はないだろうが、それはずっと俺の動向を見てきた人にしか分からないと思うが…。


 ふと疑問が浮かび上がってきたが追求しても天音さんの性格からしてはぐらかされるだろうと言う結論に至った俺は何も聞かないことにした。


「あー、いや普通にバッテリーが劣化しちゃっててな。もう十数分しか電池が持たなくなったんだよ」

「あっ…」


思い当たる節があるのか天音さんは辻褄があったような声を出す。


「それって多分私のせいですよね…」

「えっ…、いや、なんで?」


なんで勘づかれているのだろう、という衝撃から素っ頓狂な声が出てしまった。


「だって御坂くんイヤホンを仕舞おうとする度に物寂しそうに私に貸した右耳の方をじっと見つめてるじゃないですか。今日だって…」

「それもまああると思うけど割と長い年月使ってきたものだからそれの影響の方が大きいと思う」


人のものを壊してしまった、までとはいかないがそれに値することをしたと考えて申し訳なさそうにしている天音さんをフォローしたが、それでも本人の気持ちは収まらないようで、


「でも、私がトドメを刺しちゃって、壊したようなものだから今日の放課後にもし予定無かったら御坂くんのイヤホン買いにいくのに付き添わせてくれませんか?」


なんて提案をしてきた。


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