RANDALL

烏城 彰

第1話

 今起きている出来事を説明するには『現代文明エボルヴ』について説明するべきだろう。

 まず、現代文明エボルヴとは西暦十四万年頃に生まれた『エボルヴ・ヒューマン』によって築かれた最長文明の一つである。

 まぁ単に最長と言ってもただ長く続いている訳ではない。この文明は始まってから息をつく間もなく、恐ろしい速度で技術などが発展し、宇宙上に存在し得るあらゆる物事を少しの思考で答えまで導いてしまった。良く言えば天才、悪く言えば化け物と言えるだろう。それが『エボルヴ・ヒューマン』であり『現代文明エボルヴ』なのだ。

 

 さて、そんな天才たち率いる『惑星エガート』は西暦十四万八七一六年を境に衰退を見せる。その原因はとある生物の飛来と、それによる被害だった。

 飛来した生物の正式名称は『イーラ』と言い、意味としては時代や時という大まか言えば時間についての意味を持っている。そしてこのイーラと言う名が付いた理由の一つがイーラの特性にあった。

 その特性とは、物の時を止める又は時を戻すというもの。

 実際に研究所で行われた研究内容は、老マウス5体にイーラの細胞を埋め込み、一週間生活をさせるというもの。

 その研究結果は三体が若返り、二体は細胞を埋め込んだ時点の年齢で止まっていたと言う。まさしくときを操る者と言えるだろう。

 さぁ、そんなイーラはエガートに訪れどのような事をしたのか。それについては■■■■の調査部隊がまとめた報告書に全て記載されている。

 

『惑星外生命体飛来による被害報告書』

 太陽暦五九三二年、惑星外生命体(以下、アルファと称する)がガッド大陸に飛来。

 アルファは、多くの人や動物、建物などの無機物にも寄生したが故障などは無く特に異常は無かったと現地民は言う。

 実際に寄生されたという人に状態を伺ったが普段と変わりないと主張した——

 

 と言った具合に、イーラは時を操る者であり、決して破壊などをして回る生命体ではないことがこの報告書で分かったであろう。

 だが、政府はこの得体の知れない生命体が環境を破壊し得るものとして、全住民に惑星エガートからの撤退を命じた。

 そこからエガートは撤退する者と星に残る人間で分かれ、徐々に衰退していくのであった。

 ここまで聞いて何か感じた事や、気になることはないかい?

 

ぇよ。てかそんなことより、何処どこなんだよここは』


 私は目の前に座る一人の青年へ問いかけるが、そんなことよりと一蹴されてしまった。

 最近の若者はこう何というか、取っつきにくく感じる。

 

「そうだな、ここは倉庫……いやライブラリと言うべきか」

『ふーん。あとおっさん誰?』


 お、おっさん。

 口の悪い若人だ。最近の若者は皆こうなのか?

 私は深いため息を吐き、半分怒ったような口調で名を名乗る。

 

「タリテだ。本名ではないがな」

『へぇ、かっけぇ名前。俺は——』


 青年の口がぴたりと止まる。

 

『えぇっと、あれ』

「どうしたのだ青年」


 青年は青ざめた顔で言った。

 名が思い出せないのだと……。

 

「名が思い出せない。そうか……」

『記憶がないわけじゃねえんだ。名前とか年齢とかそういう個人情報﹅﹅﹅﹅? が思い出せねえんだよ』


 青年は辺りを見回し、何かを探すような仕草をしている。

 

『あ、あれだ。メンキョショウ! なあタリテさん、メンキョショウ落ちてなかった?』


 知らない単語だ。どこの言語だろうか。

 

『あー無ぇか。マジで……くそっ』


 青年は大分イラついた様子で、頭を両手でかきむしっている。

 そして私は忙しなく動く青年の両手を制止し、こう提案した。

 

「私は言ってみれば語り手だ。そして君は聞き手。だからここではキキテと名乗ってみないかい? 良い提案だと思うがね」


 青年は私の言葉に納得したのか、両手を下ろし、近くに転がっていたペンを拾い上げた。

 何をするつもりなのか様子を見ていると、青年は自分の手のひらに「キ」「キ」「テ」とお世辞にも綺麗とは言えない字で書いて見せた。

 

『へっ、これで忘れねー』


 そうだ、若者はこうでなければ。

 私は、先程まで悪態をついていた青年の笑顔を見て、自分が若者だった頃を思い出す。

 若い頃は破天荒で、何をしてもいいと無茶をし、他人の大切にしていた物を壊して回っていた。

 有象無象だった私にとって、キキテという青年の姿はどうも輝いて見える。

 これが——なのかと。

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RANDALL 烏城 彰 @Ujo_akira

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