第5話 答えの行方
女の子の身体になって1ヵ月半ほど経った。生活も大分慣れ友達も増えた。
そんな中、僕たち学年は来週から京都へ2泊3日の修学旅行に行くことになっている。
本日の午後授業は修学旅行前のミーティングだ。
「えー、来週から京都へ修学旅行なので自由行動時の4人班を作ってもらう。出来た班から机を移動して自由行動の予定を立て始めるように。それじゃ始めっ」
先生の号令と共にみんなは席を立ち机を移動し始めた。
僕たちのメンバーはもうすでに決まっている。もちろん僕、冬李、小春、秋吾だ。
さっそく机をくっつけ自由行動の事を話し合った。
机の上には小春が持って来た京都旅行雑誌が広げられた。雑誌にはお店や観光名所など色々書いてある。
小春はその雑誌にあるスイーツ特集のページを開いた。
「私はここに行ってみたいのよ」
「この前テレビでやってた所だ。僕も気になってたんだよね。冬李と秋吾はどこか行きたいところある?」
「ん~……俺は特に場所とかの希望は無いな。秋吾は?」
「行きたいところって言うかいつか紅葉の時期に行ってみたいところがあってさ」
「紅葉の時期はまだ早いわね」
「そうなんだよ。だから俺の事は気にしなくて―――」
「それじゃぁ下見ってことでどうかな? 僕たち京都の事あまり知らないし秋吾が行きたいところに僕たちも合わせるよ。良いよね?」
「おう」
「良いわよ」
「ありがとう。それじゃまずは―――」
秋吾が行きたいところをピックアップしてそれを冬李がマップを見ながらルートを決め、僕と小春は道中にあるお店や雑誌に載っている抹茶スイーツのお店なども候補に入れた。
女の子になってからなんだかスイーツにも興味が出始めてきたのだ。
話し合いも順調に進みあっという間に自由行動の予定が決まってしまった。
まだ時間もあり話しているとそこへ先生がやってきた。
「東屋さんの班はもう予定決まったか?」
「はい、先ほど決まりました」
「それじゃちょっと北山と西原。修学旅行のしおり用のプリントを運ぶの手伝ってくれるか?」
「いいっすよ」
「分かりました」
冬李と秋吾は先生と共に教室を出て行った。
周りを見ると他の班はまだ予定を決めているみたいだ。
「いよいよ修学旅行だね。僕、京都初めてだから楽しみだよ」
「琉夏って昔から旅行とかどこかに出かけるの好きよね」
「だって行ったことない場所とかテンション上がるでしょ?」
「その勢いで修学旅行で付き合う人が多いって聞くわよね」
「確かに多そうだね」
「彼氏良いわよね~」
「小春は彼氏欲しいの? もしかして気になってる人が居るとか?」
「えっ!? 私は……―――い、居ないかな~。そういう琉夏は?」
「僕はそう言った感情はまだ―――」
何だろうこの気持ちは……。
ここ最近恋バナなどをすると心の奥で何かモヤモヤした感情が生まれる。
そしていよいよ修学旅行当日。僕たちは新幹線で京都へ向かっていた。
車両内の席は自由のため僕は冬李の隣、窓側の席に座った。
「着いたらお昼食べてその後に清水寺だっけ?」
「そうだな。金閣寺とかは最終日だし」
「金閣寺見てみたかったんだよね~。冬李はどこ楽しみ?」
「俺は京都の事良く分からねぇからな。秋吾はそう言うの詳しいだろうな」
「意外と知識あるよね。ところで秋吾は? さっきから見当たらないけど」
「あいつはゆっくり本読みたいからって一番後ろの席に居るぞ」
覗いて視ると秋吾は一番後ろの窓側席で小説を読んでいた。
相変わらず小説を読むのが好きらしい。
「秋吾らしいね」
「そういえば小春も居ないよな? 最近お前たちよく一緒に居るだろ?」
「小春は女子グループの所にいるよ」
「琉夏はそっち行かないのか?」
「何で?」
「だってほら、お前今は女子なんだし。男の俺と居るよりは向こうの方がいいんじゃねぇのかなって」
「僕は好きでここに居るから気にしないで良いよ。冬李と話している方が楽しいからねっ」
「そ、そうか」
その後も冬李と話しているとあっという間に京都に到着した。
駅を出るとすぐにバスに乗り近くのお店で湯豆腐などを堪能した。その後すぐに最初の目的地清水寺へ向かった。
この時期は普段より空いているらしい。
秋の京都も一度行ってみたいけど旅行者がピークを迎えるらしく激混みになるらしい。
バスを降り集合時間まで自由行動のため僕は冬李、小春、秋吾の4人で回ることにした。
「やっと着いた。さてとまずはどこ行くか?」
「俺はやっぱり定番の清水の舞台かな」
「私はその近くの音羽の滝ね」
「僕はみんなについて行くよ。誰か道案内出来る?」
「調べて来たから俺が案内するよ」
僕、冬李、小春は秋吾の後について行き清水寺を回ることにした。
どうやら秋吾は意外にも京都が好きらしく色々調べてきたらしい。
出会って一年半だけどまだまだ知らない事も多かった。
清水の舞台に続く道を歩いていると冬李が何かを見つけた。
「なぁこの鉄の棒はなんだ?」
「これは
「僕は小さいのでも持ち上がらないと思うけど冬李なら大きい方持ち上がるかもね」
「流石に俺でも無理だと思うが……」
「冬李なら行けるよ。頑張れーっ」
「私も冬李なら持ち上げられると思うわ。頑張れ筋肉バカー」
「今、罵声も聞こえた気がするが……よしやってみるか」
冬李は大きい方の錫杖を持つと全集中をして一気に持ち上げた。
錫杖は少し浮き上がったが冬李の体力が持たずガタンと音を立て落ちた。
「はぁはぁ……少しは……持ち上がった……だろ……」
冬李は息を切らしながらその場に屈んだ。
僕と小春も一緒に大きい錫杖を持ち上げようとしてみたがピクリとも持ち上がらなかった。
そして次はその先にある本堂の清水の舞台へ向かった。
そこでは大勢の人たちが下を眺めたり遠くに見える京都の街並みを撮影していた。
「すげー眺めだな」
「清水の舞台って思ったより広いわね。床もしっかりしているし」
「でもなんか少し傾いてない?」
「少し傾斜を付けることで雨水が溜まって床が腐らないようにしているんだよ。ちなみにこの下に小春さんが行きたいって言っていた音羽の滝があるよ」
僕は柵の所に居る冬李に掴まりながら恐る恐る下を覗くと音羽の滝には列が出来ていた。
この先から降りる場所があるみたいだ。
すると小春は僕の腕を掴んだ。
「琉夏、次の所行きましょっ!」
「ちょっ」
連れていかれたのはすぐ隣にある縁結びの神で有名な場所だ。
階段を上ると僕たち学校の女子生徒が大勢居た。
「一度ここに来てみたかったのよ。御守りも買って行かないとね」
「いや、僕は別に……」
「琉夏も女の子ならこういうのに興味出てくるわよ」
「そう言うものなのかな……?」
小春お勧めの御守りをいくつか買いついでにおみくじも引いた。
「私は末吉だったわ。琉夏は?」
「僕は―――大吉だ」
「どれどれ? えーっと、待人はこちらから動くべしねぇ」
「こちらからってことは僕の方から?」
「そう言うことね。まぁおみくじだしそこまで考えなくていいともうわ」
「おみくじ引いておいてそれ言うのね……」
僕はおみくじを折りたたみ財布に仕舞った。
そのままその場を後にすると音羽の滝へ続く道を小春と共に降りた。
音羽の滝に着くと冬李と秋吾が待って居た。先に並んで水を飲んだらしい。
僕と小春は列に並び冬李と秋吾は正面から僕たちをスマホで撮影していた。
「3本滝があるけど何か違いがあるの?」
「ご利益が違うのよ。正面から見て右側から延命長寿、恋愛成就、学業成就ってなっているの。私はやっぱり真ん中ね」
「意外だね。学業成就にすると思っていたよ。」
「私だって恋愛に興味ないわけじゃないんだからね。そういう琉夏はどうするの?」
「えっと、僕は……」
列に並んでいる女性陣を見るとほぼ全員が真ん中の恋愛成就の滝を選んでいた。
どれにしようか迷っているとあっという間に順番が来てしまった。
僕は場の流れで真ん中の水を選んで水を一口飲んだ。
「やっぱり恋愛成就にしたのね」
「流れで選んだだけだよ。別に深い意味は―――」
「ホントかな~?」
「ほら、後の人が待っているから行くよ」
ニヤニヤしている小春を今度は僕が引っ張り冬李と秋吾の所へ向かった。
音羽の滝を後にした僕たちは清水の舞台の下の道を通り仁王門前へ向かった。
もう少し見て回りたかったがお土産の時間などを考えると時間が足りない。
「集合の時間までお土産見ながらバスに戻りましょう」
「そうだね」
僕たちはお土産屋を見ながらバス専用駐車場へ向かい歩いた。
冬李はスマホで撮った写真を秋吾と見せ合いながら僕たちの前を歩いた。
「ねぇ小春。もし僕が男の人と付き合ったらどう思うかな?」
「さっきのおみくじの事? そうね、私は普通だと思うわね。だって今の琉夏は女の子なんだし」
「そうだよね……」
「まぁ今後戻れるのかどうか分からないけど今を楽しむべきよ。てか気になる男子が居るの?」
「気になるというか思い出しちゃうというか……」
「ふーん、なるほどねぇ」
小春は何かを察しニヤニヤしていた。
なんだか嫌な予感がする……。
すると突然秋吾の元へ向かった。
「ねぇ、秋吾君。向こうのお土産屋見に行きましょ」
「良いよ。それじゃ2人も―――」
「ほらこっちこっち」
「ちょっと小春さん!?」
小春は無理やり秋吾を連れてお土産屋に向かっていった。
僕と冬李はその場に残されてしまった。
小春は意図的に僕と冬李を2人きりにしたみたいだ。
しかし冬李はそのことを全く気にして居なかった。
「なんなんだ小春の奴。俺たちもお土産見ていくか」
「う、うん」
僕は冬李と一緒にお土産屋に入った。
店内は和風な小物などが売られている。
どれも装飾品が細かくキラキラしていて可愛い。
男の子の時はこういうの見ても興味が無かったけど今は心まで女の子になっているんだと改めて実感してしまった。
このまま性格や趣味も変わって行ったらいつか冬李との関係も無くなってしまうのだろうか?
そう考えると胸の奥が痛くなった。
「俺はここでお土産買っていこうかな? あっ、でも荷物になるし……どうした方が良いと思う? ……おーい、聞いている?」
「えっ、ごめん。何?」
「ここでお土産を買うかどうか」
「良いのがあれば買った方が良いと思うけど、荷物になるから小物が良いんじゃないかな?」
「それじゃ小さい何かを買っていくか」
冬李はいくつかのお土産を選び買っていた。
僕は店内を見て回り冬李の買い物が終わると一緒にお店を出でた。
すると冬李はお土産の入った小袋を僕に渡してきた。
「ほらこれやるよ」
「僕に?」
「なんかさっきから元気ない気がしてさ。親友なんだし悩みがあるなら言えよな」
「ありがとう。開けて良い?」
「おぉ」
袋を開けるとそこには桜の装飾品が付いたヘアピンが入っていた。
冬李は少し照れた様子。
「女子ならこういう方が良いのかなって思ったんだけど、ダメだったか? 本当は秋っぽいのにしようと思ったんだけど楓のがちょうど売り切れみたいでさ」
「そんなのことないよ。すごく嬉しい」
僕はそのヘアピンを髪に着けた。
今まで貰ったプレゼントとは違う何か特別な気持ちになった。
気が付いた時には胸の痛みが消えていた。
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