彼は彼女になった

第6話 いつまでもずっと

　1日目の団体行動が終わり夕方、僕たちはホテルに到着した。

　今回泊まるホテルは駅の目の前なので自由行動で移動するにはかなり楽だ。

　僕たちはバスを降りホテルへ入ると各自事前に決められた部屋に荷物を運び入れた。

　学校側の計らいで僕は小春と2人部屋になっている。

　男子と同じ部屋にする訳には行かず、かといって女子と一緒だと僕がまだ慣れず無理なので1人部屋にする案があった。

　しかしせっかくの修学旅行で独りは可哀そうと言う事で小春が2人部屋を提案したらしい。

　僕は別に独りでも良かったけど小春の好意を無下にする訳には行かず今日に至った。

「良い部屋ね。ここからなら夜景も見えそう」

「せっかくの修学旅行なのに僕と一緒の部屋でなんかごめんね」

「何で謝るの？　私は気にしてないから大丈夫よ。せっかくの修学旅行なんだし楽しまないとね」

「小春……うん、そうだね！　ありがとう」

　僕たちは夕食までの間、部屋で今日回った名所の話しをして盛り上がった。

　お互いスマホで撮影したいろいろな写真を見せ合った。

　清水寺の写真や京都タワーの写真昼食の写真など。

「それで冬李がここに行こうとしたんだよね。どう見ても無理なのに。それにここに行った時も―――」

「本当に琉夏って冬李の事を話すとき楽しそうよね」

「そっ、そうかな？」

「だってその冬李から貰ったヘアピンずっと着けているじゃない」

「え、いや、これはすぐ外すと申し訳ないから着けている訳で」

「はいはい、そう言うことにしておくわ。そろそろ夕食だし行こっ」

「だから違うんだってばーっ」

　僕たちは夕食の会場である1階にある大広間へ向かった。

　エレベーターで1階まで降り男子生徒の部屋がある棟と合流する廊下へ出るとちょうど冬李と秋吾が他の男子生徒と一緒に歩いて来ていた。

「おっ、琉夏と小春じゃん。夕食は自由席らしいから誰かと食う約束してなければ一緒の席で食おうぜ」

「私は大丈夫よ。琉夏も当然いいわよね？」

「うんっ、良いよ」

　僕たち4人は大広間に入り、僕は冬李の横に座りその向かいに小春、隣に秋吾が座った。

　徐々に生徒も集まり賑やかになって来た。

　どんな料理が運ばれてくるか冬李と予想したりした。

　全員が集まり各クラス点呼を取った。

　先生の挨拶とこの後の予定が伝えられた後、料理が次々運ばれ僕たちは食事を開始した。

　料理は京都らしく和食尽くしだ。お馴染みの料理や見たことないおしゃれな料理が多く並んでいる。

「わぁ、この天ぷらすごく美味しい。家でも作ってみたいなぁ」

「今度作ってみるか？　何事も経験は大事だと思うぞ」

「冬李は食べたいだけでしょ？」

「あはは、バレたか。ほら舞茸の天ぷらすきだろ？」

　そう言って冬李は自分の分の天ぷらを僕にくれた。

　付き合いが長いとお互いの好物も知っている。

　僕も冬李が好きな海老天などをお返しにあげた。

　向かいに座っている小春がニヤニヤしていた。

　食事が終わり小春と秋吾は先に部屋に戻り、僕は冬李とロビーのソファで少し休むことにした。

　男女が一緒に居られるのはこのロビーだけだ。もちろん部屋に行こうものなら強制送還されるらしい。　

「食ったなぁ。腹いっぱいだ」

「デザート美味しかったね」

「この後の予定何だっけ？」

「ついさっき先生が説明してたでしょ。19時から各自お風呂で、その後22時には就寝だよ」

「もうそろそろしたら入れるのか。俺はさっさと入って寝ようかな？　なんだか急に眠気が来たし」

「歩き疲れたもんね。僕もご飯食べたら眠くなってきちゃったよ」

「そんじゃそろそろ部屋戻るか」

「だね」

　僕は冬李と一緒に部屋までの廊下を歩いた。

　ホテルのあちらこちらでは同級生カップルが一緒に居る。

　やっぱり修学旅行で付き合い始める人が居るんだ。

　なんだか羨ましいような気がする。

「俺はこっちのエレベーターだから」

「あっ、そうだったね。それじゃお休み」

「おぉ、また明日な」

　冬李はエレベーターに乗り部屋へ戻って行った。

　部屋に戻ると小春は同じクラスの白石さんと中村さんと一緒にお菓子を食べながら話していた。　

「琉夏おかえり～。この後みんなでお風呂行くけどどうする？」

「えっ、僕は部屋のシャワーで良いよ。ほら皆に悪いし……」

「南篠君はもう女の子なんだし私たちは気にしないよ。ね？」

「うんうん。せっかくだし一緒に入ろうよ」

「2人もそう言っているんだし。どうかな？　無理なら良いけど」

「ごめん、やっぱりちょっとまだ……」

「わかったわ。それじゃ私たちは入って来るから」

「うん、行ってらっしゃい」

　小春はバッグからパジャマやタオルを出すと白石さんと中村さんと共にお風呂へ向かった。

　僕はその間に部屋にある浴室でシャワーを浴びることにした。

　でもシャワーだけだと疲れが取れない気がする。

　浴室から出た後、髪を乾かし小春が戻ってくるのを待った。

　なかなか戻って来なくて暇だ。僕は飲み物を買いに1階にある自動販売機へ向かった。

　数台の自動販売機があり飲み物以外にもお菓子やホットスナックまで売っている。

　ペットボトルのお茶を買い部屋に戻ろうとロビーを歩いているとジャージ姿の秋吾と出会った。

「お風呂上り？」

「そうだよ。琉夏ももう風呂から出たのか？」

「僕は部屋のシャワーで済ませたよ。大人数で入るのはちょっとね。大浴場どんなところだった？」

「えーっと、中央に浴槽があってその周りにこういう感じにぐるっと洗い場がある感じ。結構よかったよ」

「人が居ない時間に入ろうかな？　朝なら居なさそうだし。あっ、でも早朝は空いて無いかぁ」

「大浴場は閉まってるけど屋上露天風呂は朝の5時から開いているらしいよ」

「そうなんだね。……」

　僕はキョロキョロと辺りを見渡した。

　それを見て秋吾は何かを察した。

「因みに冬李は部屋のシャワーで済ませて寝るって言っていたからもう寝ているのかも。会えなくて残念か？」

「べ、別に！？　さっき話したしどうせ明日班行動するからね。そういえば秋吾が好きそうな小説があって―――」

　秋吾と立ち話をしているとちょうどお風呂から出た小春がロビーを歩いていた。

　僕たちに気づくと一緒に居た友達と別れこちらにやって来た。

「あれ～？　琉夏が浮気しているわ」

「たまたま会っただけだよ。――って浮気じゃないし。冬李と付き合ってるわけじゃないから」

「私何も言って無いけど？」

「うっ……」

　最近なんだか小春が僕と冬李をくっつけようとしてくる。

　最近この胸の痛みが冬李に対する“恋”なのでは？　と考えるようになっていた。

　でもこの関係が壊れるのが怖い。

　それならずっとこのまま……。

「それじゃ、俺は部屋戻るよ。琉夏、小春さんまた明日」

「うん、おやすみ～」

「また明日ね」

　僕は小春と一緒に部屋に戻り就寝時間まで日々の出来事や明日の事を話した。

　女子トークは尽きる事無く続いた。

　朝、僕は目を覚ましスマホの時計を見ると、時刻は午前5時半を少し過ぎたくらいだった。

「(ふぁ～……。早く起きちゃった。そういえば秋吾が朝からお風呂開いているって言っていたし、行ってみようかな？)」

　僕は小春を起こさないようにそっと起き部屋を出た。

　屋上露天風呂に着き入ると朝早いため誰も居ない。貸し切り状態だ。

　空が薄っすら明るくなっている。

　とても静かで落ち着く。

　露天風呂に浸かりゆっくりしていると竹壁の向こうの男湯に誰かが入って来る音が聞こえた。

「(こんな時間に入る人居るんだ。人のこと言えないけど)」

　すると隣の男性は気持ち良さそうに鼻歌を歌い出した。

　その鼻歌、声は聞き覚えがある。

　僕はもしかしてと思い竹壁に近付きそっと声をかけた。

「冬李？」

「ん？　その声は琉夏か？」

「やっぱり冬李なんだね。こんな朝早くに入るなんてどうしたの？」

「いやぁ、昨日早めに寝たからこんな時間に目が覚めてな。そういう琉夏こそ早いじゃん」

「僕も目が覚めちゃったし、あと人が居ない時間に入ろうかなって。この身体になってもう1ヵ月以上経つけど他の人と入るのは抵抗がね……」

「徐々に慣れるしかないよな。おっ、日が出てきたぞ」

　外側を見ると地平線から太陽が顔を出し始めていた。

　街は徐々に明るくなっていき、湯に朝日が反射して輝いて見える。

　この瞬間はなんだか特別な気分になれるから好きだ。

「綺麗だね」

「あぁ、綺麗だな」