第4話 恋とは
まだまだ暑い日が続く金曜日の放課後。長かった1週間も後は休みの土日だけだ。
僕は冬李と一緒に土日の予定を話しながら下校しようと教室を出るとそこへ慌てた様子の小春がやって来た。
「冬李ちょっと待ってーっ!」
「どうした?」
「1階の資料室にある資料を4階の生徒会室に運んでほしいのよ。運搬用のエレベーターが止まっちゃったみたいで」
「うわぁ、めんどくせぇ」
「あんたのその力が必要なのよ。と言うわけで琉夏、ちょっと冬李借りるわね」
「うん良いよ。後で返してね」
「おい琉夏、親友を売るのか!?」
「手伝ってあげたら? 僕は図書室で待っているから」
「ったく。さっさと終わらせるか。行くぞ小春」
冬李と小春は1階の資料室へ行き、僕は資料室とは反対側にある図書室へ向かった。
図書室を覗くと誰もいない。流石に金曜日の放課後に来る人は居ないみたいだ。
「(待つ間に数学の宿題でもしよう)」
テーブルに今日出た宿題のプリントを広げた。
静かで集中が出来る。窓の外からは運動部の掛け声が微かに聞こえる。
黙々と宿題をしていると図書室のドアが開き秋吾が入って来た。
「やっぱり琉夏だったか。ここに居るなんて珍しい」
「冬李が小春の手伝いに行ったから宿題して待って居るの。秋吾も一緒に宿題どう?」
「いや、俺は昼休みにもう終わらせたから」
「えっ、早すぎでしょ。だったら少し教えてくれない? 数学が苦手で」
「良いよ。どこ分からないんだ?」
「えっと、ここなんだけど」
秋吾は椅子に鞄を置くと僕の横に座り一緒のプリントを見た。
「ここはこの式を使って―――」
「なるほど! それじゃぁこっちも?」
「それも同じやり方だな」
「ありがとう。助かったよ。後はどうにか自分で出来そう」
「そういえば2人はここに来るのか?」
「終わったら来るけど何か用事でもあるの?」
「別にないけど俺も2人が来るまで本読んで待つよ」
「うん。……?」
そう言って秋吾は鞄から小説を取り出し読み始めた。
僕はその横で黙々と宿題の続きをした。
秋吾は小説に夢中になると周りが少し見えなくなるくらい熱中するらしくよく冬李に呼ばれているのを気づかない時がある。
現に今も廊下で女子生徒が秋吾を見つけて何やら話している。
背も高く勉強できるクール系メガネ男子って感じの秋吾は女子の間でもかなり人気らしい。正直僕もカッコイイ思ってしまうときがある。
女の子になってから女子たちに秋吾の事を聞かれることが度々あった。
そろそろ宿題も終わるころに冬李がやって来た。
「琉夏お待たせーって秋吾も居たのか。てか珍しい組み合わせだな」
「さっきまで秋吾に宿題教えてもらってたの。小春は?」
「あいつはまだやることがあるんだってよ。秋吾も途中まで一緒に帰るか?」
「今日は親が迎えに来てくれるから。もう少しここに居るよ」
「それじゃ先に帰るね。宿題見てくれてありがとう。またねぇ」
「じゃぁな、秋吾」
僕は宿題を鞄に仕舞い冬李と共に図書室を出た。
いろんな生徒が部活動に勤しんでいる。
それを横目に学校を出て家に帰った。
週末、僕は1人で電車に乗って少し遠出をすることにした。
今日発売の小説を買うと限定カバーが貰えるが地元の書店では対象外のため渋々大型書店へ向かっていた。
本当は冬李か小春と行きたかったけど2人とも予定があるらしい。
女の子になってから1人で遠くに外出は初めてだ。
電車乗っていると学校最寄りの駅で秋吾が乗ってきたのが見えた。
秋吾の所へ行くと秋吾もこちらに気が付いたみたいだ。
「やっほ、秋吾。一昨日ぶりだね」
「一瞬誰かと思ったよ。……あれ? 今日は1人?」
「うん。冬李も小春も用事でね。秋吾はどこへ行くの?」
「俺は大型書店に今日発売の小説買いに行くところ。今日買えば限定カバー貰えるみたいだし」
「もしかして探偵物の?」
「知ってるのか?」
「知ってるもなにも僕もその小説買いに行くところだからね」
「琉夏も小説読むんだな。読んでるの見たことないけど」
「そんなには読まないんだけど今日買う小説の作者が好きなんだよね。ほら一昨年に映画化した作品あるじゃん」
「男が女なっちゃうやつ?」
「そう、それ。なんだか親近感があるというか、観ていて確かにって思っちゃうんだよね」
「まぁ今の状況と同じだからな。それにしてもこう見ると琉夏ってマジで女子なんだな。私服初めて見たけど似合ってるよ」
「あ、ありがとう」
秋吾はこう言うことをサラッと言うので時々ドキッとしてしまう。
今思えば秋吾と2人きりになることはあまりなく、こうして2人だけで出かけるのは初めてだ。なんだか変に緊張してきた。
目的の駅に着き電車を降りた。駅前の道は休日一部歩行者天国になっている。
僕たちは目的地まで歩行者天国になった道を歩いた。
「なんだかいつもより人多いね。何かあるのかな?」
「向こうにある広場でイベントがあるってニュースでやっていたからそれだと思う」
「本買ったら行ってみようよ」
「うん、行ってみるか」
人混みを避けながら僕たちは大型書店に着いた。
店内は外と違って店内は静かだ。そして冷房が効いていて最高。
僕たちはすぐに新作コーナーへ向かった。
「えーっと……あったあった」
「残り5冊か。ギリギリだったな」
「そうだね。取り敢えず確保してっと」
僕たちは目的の小説を手に取った。
せっかく来たついでに何か他の物でも買うとしよう。
お互い店内を巡った後、選んだ数冊の本を購入して大型書店を出た。
「ここ結構品揃え良いよな」
「だね。僕も欲しかった小説とか雑誌買えたし満足だよ」
「それじゃ公園でやっているイベント行くか」
「うんっ」
僕たちはイベントがやっている広場へ向かった。
広場では色々な場所でマジックやスゴ技などのパフォーマンスをしていた。
あちらこちらから歓声が聞こえる。どうやら何カ所かでやっているみたいだ。
僕たちは適当に近くでピエロの格好をした人がやっているマジックを見ていると突然参加型のマジックが始まった。
「さて、お客さんの中からこのマジックに参加してもらいますよ。それじゃぁ……そこのカップルさんこちらへ」
そう言ってピエロは僕たちを指名した。
傍から見たらカップルに見えなくも無い。だけど……。
秋吾は特に気にせずに「行こう」と言って、僕の手を引きステージへ向かった。
でも僕はなんだかモヤモヤした気持ちになった。
もし一緒に居たのが冬李だったら……。
「それではこのトランプの中から1枚適当に取って数字を覚えてください。そうしたらお互いの右手でそのトランプを挟んでください」
「琉夏が選んでいいよ」
「うん。それじゃぁ――」
僕はトランプを1枚取り確認した後、そのトランプをお互いの右手で挟んだ。
この身体になってから男性を少し意識してしまう時があり今もすごくドキドキしている。それと違って秋吾はマジックに興味津々だ。
無事マジックも終わりピエロからは参加してくれたお礼にとオリジナルストラップを貰い会場を後にし駅へ向かった。
「あのマジックは凄かった。確かにスペードのキングだったのに後で見たらハートの5になっていたし。気になるよな?」
「えっ? あ、うん。そうだね」
僕はカップルと言われた時になぜか冬李の事を思ってしまったことを考えていた。
もしかして……。
いや、いつも一緒に居るからただ思い出しただけ。
自分にそう言い聞かせた。
「ところで秋吾は他になんの小説何買ったの?」
「えーっとこれとこれかな?」
秋吾は袋から買った2冊の小説を取り出した。
どちらもドラマ化や映画化している恋愛小説だ。
「秋吾って意外と恋愛小説読むんだね。ミステリー系が好きかと思っていたよ」
「最近恋愛って何だろうって考えるようになってさ。こういうの読めば分かると思ったけどなかなか分からなくてさ……琉夏は恋愛とかは詳しい方?」
「僕は全然だよ。そう言うの小春が好きそうな話題だよね」
「確かに。小春さんモテそうだし」
「秋吾だってモテるじゃん。僕もカッコイイと思うよ」
「そうかな? ありがとう」
秋吾がニコリと照れ笑いをした。
そういえばこんな風に笑ったのを見たことが無い気がする。
その笑顔に僕はついドキッとしてしまった。
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