天上院時久の始まり
番外:天上院時久の関わった事件
第30話 最初の事件とは何か
「天上院くんってどうして警察の捜査に参加できるようになったの?」
昼休み、教室で昼食をとっていた時久は前の席に陣取っている由香奈に質問された。これまた隣に座っている飛鷹はもぐもぐとおかずを頬張っている。
隙を見ては演劇部の勧誘をしてくる由香奈の行動に慣れてしまっていた時久は、そんなことを聞かれて目を瞬かせた。いつもならば入部してくれないかといった言葉が先に出るものだから。
なので、「どうしたのですか」と逆に聞き返してしまった。そんなことも気にせずに由香奈は「いや、興味本位なんだけどね」と答える。
「天上院くんって高校二年生じゃん。警察の人からしたら子供でしょ? なのに警部さんとコンビ組んで事件を解決してるからさぁ。ちょっと気になって」
「別に恭一郎さんとコンビってわけではないですよ。保護者枠じゃないでしょうかね」
東郷警部は何かあった時のために間に入ってくれているだけにすぎない。時久の返しに由香奈は「でも、事件の捜査をできるよね?」と問う。
時久はその質問にどう答えようかと困ってしまった。これに関しては少々、特殊だったからだ。なんと言葉にすればいいのかと眉を下げる。
解決した事件の話であるので多少のことならば言っても問題はないだろう。けれど、どの辺りから話せばいいのやたと時久は頭を悩ませる。
「あれ、言えないことだった? もしかして、他言しちゃ駄目とか?」
「詳細な捜査情報を話すことはできませんが、報道されている範囲のことと、私自身がやったことならば問題はないかと」
「じゃあ! 教えてよ!」
きらきらとした瞳を由香奈は向けてくる。これはと時久が飛鷹を見遣れば、彼女は「ミステリー好きが発動してるから逃げられないよ」と慣れたように言った。
確かに彼女の眼力というのは逃がさないといったふうだ。別に逃げるつもりはないけれどと時久は一つ、息を吐く。
「今から一年前、私が高校に入学した時ぐらいの時に起こった事件からになりますかね。関わりだしたのは」
「どんなもの?」
「私の父が担当した通り魔事件です」
ニュースにもなりましたよと時久が言えば、由香奈はあっと思い出したのか手を叩いた。去年の春先に連続通り魔事件が起こっていたと。
一年経ったとはいえ、まだ新しい事件ではあるので覚えている人はいるだろう。「あれって天上院くんが解決したんだ!」と、由香奈はますます興味津々といったふうに見つめてきた。
そんな期待の眼差しを向けられても大したことはしていない。時久は「難しいことはやっていません」と前もって伝えておく。ドラマや小説のようなことはしていないので、期待されても困るだけだ。
「これといった目立ったことはしていないのですよ」
「でも、事件を解決に導いたんでしょ?」
「まぁ……そうですけど……」
「聞きたーい!」
由香奈はお願いと手を合わせる。さて、どうしたものか。時久は片眉を下げながら横目で飛鷹を見た。彼女はお弁当を平らげて片付け始めている。視線には気づいたようで飛鷹は顔を上げながら大丈夫だと思うよと答えた。
「ゆかっちは口は固いから言いふらすようなことはしないからさぁ」
「あ! そうか、此処じゃ話がしづらいってことね!」
飛鷹の言葉に察したようで由香奈は「そうだよね、事件の話だもんね」とごめんと謝った。
時久が探偵だとかそういったふうに囃し立てられるのが好きではないことも、由香奈は知っていたのでそうだったと頭を下げる。
その辺りの気配りはできる子なのだなと時久は由香奈に、そこまで謝らなくていいと返す。迷惑をかけられたわけではないので、時久自身もあまり気にはしていなかった。
「そうだよねぇ……事件のことだもんね……。捜査内容は話せないだろうし……」
「警察がどういった捜査をしたのかまでは言えませんね。ただ、私がどうやって解決する手助けをしたかまでは話せますが」
あれは一部のニュースでは報道されていましたからと、時久は食べ終えたお弁当を片付ける。
話せる範囲はあるというのを聞いて由香奈は手を合わせる。そこだけでいいからと言うように。
「話せる範囲でいいから!」
「はぁ……わかりましたよ。でも、場所を移させてほしいですね」
「よし、小ホール使おう!」
「うわぁ。部員特権乱用だぁ」
演劇部の部室でもある小ホールは部員であれば、昼休みに使用できるようになっている。昼練をする部員が少なからずいるからだ。
誰かが昼練で使うのではという時久の疑問に由香奈は「その点は大丈夫」と胸を張った。
「今日は三年生も一年も使わないって調査済み! しかも、鍵閉め担当はわたしだから先生に声かければ問題なーし!」
だから、大丈夫と自信満々に言う由香奈に時久はこれは仕方ないかと席を立つ。話を聞くまでずっと頼んできそうな雰囲気を感じて。
飛鷹が「よかったね、ゆかっち」と笑ったのを見て、話してくれると理解した由香奈は、それはもう期待に満ち溢れた表情をしていた。
本当に大したことではないのだけれどなと、期待に応えられるか少しばかり不安になる。けれど、時久は話を盛るつもりも、嘘をつくつもりもない。もちろん、秘密を話すことも。
さっそく行こうと先導する由香奈の背に時久は着いていく。さて、どう話そうかと考えながら。
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