第29話 愛しき人へ別れを告げて、エピローグは終わる
わたしがやってしまったことに後悔も反省もない。だって、殺したいほど憎かったのだから。今更、後悔と反省をしたところで誰にも許してもらえない。許してほしいとも思わないのだけれど。
白鳥葵と半沢美波が死んで清々した気持ちを抱いたのは本当だ。殺すことになんら躊躇いなどなかった。怖くもなかったし、死んだ瞬間のことなんてあまり覚えていない。
二人を殺して、平原裕二に罪を着せて、成し遂げたという喜びが胸に広がっていた。きっと、わたしは未来が死んでから壊れていたのだ。だって、そうでしょう。人を二人も殺したというのに喜びを感じたのだから。
これを壊れていないと言えるだろうか?
これが正常だと誰も認めないでしょう?
わたしだってそう思うのだから、世間はそうでしょう。
あぁ、きっとあることないことニュースで言われているのだろうな。二人の遺族はきっとわたしに呪詛を吐いている頃だろう。べつに何を言われようとも、恨まれようともどうでもいい。
恨まれる覚悟の上でわたしは二人を殺したのだ。好き勝手に言えばいい、ご自由にどうぞ。でも、未来は何も悪くない。彼女に矛先がいかないか、それだけが不安だった。
どうして気づかなかったのだろう。天上院くんの言う通りだ。未来はわたしに復讐の代行なんて望んではいない。
わたしが人を殺すことを嬉しく思うような子ではない。わたしが死ぬことを許してはくれないはずだ。もっと、もっと早く気づきたかった。天国で未来が見守ってくれているならば、きっとあの子は泣いている。
泣かせたくなかった、悲しい思いをさせたくはなかった。わたしは狭い檻の中で生きるしかない、死ねばきっと悲しむから。
生きて、罪を償っていくしかない。償える気などしないけれど、それでも。
「未来」
届かない彼女へと手を伸ばす、空を掴む手を握り締めて瞼を閉じる。思い浮かぶのは未来の明るく元気な笑顔。可愛くて、優しい優しい表情はもう思い出のなかにしかない。
未来の死を受け入れよう、彼女がいない現実を受け止めよう。
「ごめんね、未来」
彼女への謝罪を口にする。許してくれるとは思っていないけれど、それでも謝らずにはいられなかった。
「あなたの〝最愛〟でいられてよかった」
愛しい人へと別れを告げるように陽菜乃は囁いた。
END
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