第24話 スポットライトは静かに消える
講堂の小道具置き場に集められた皆が皆、顔を見合わせている。斗真は突然、呼び出されて少しばかり苛立っているようで足を揺すっていた。
裕二は警察官に両脇を固められながら周囲を見渡し、陽菜乃や由香奈は不安げで、前島は少しばかり震えていた。
全員が揃ったところで時久は「急にすみません」と一言、謝る。それに斗真が「本当にそうだよ」と棘のある返しをした。
「もう日も暮れるっていうのに呼び出してなんですか」
「犯人が分かりましたので」
「ならさっさと捕まえればいいじゃないか」
斗真は「人を集めずにさっさと逮捕すればいい」と腕を組む。それもそうなのだが、時久は「犯人に聞きたいことがあったもので」と返した。
探偵の推理ショーなんて見たくもないと毒を吐く斗真に「でも、気になりませんか?」と時久は問う。
「疑われている身なら知っておきたいと思いませんか?」
「……まぁそうだけど」
「では、話しましょう」
時久は最初の事件である白鳥葵の殺害から話し出した。
白鳥葵は小ホールの舞台上で首を吊って死亡していた。昇降バトンにロープを括りつけて引き上げられており、一見すると自殺にも見える。
手には昇降バトンを操作するリモコンが握られていて、小ホールの鍵は閉まっていた。鍵は白鳥葵の足元に転がっていて、誰かが潜んでいた形跡もない。窓は格子がついており外からの出入りはできなくなっている。密室のような状態であった。
それは第一発見者である斗真たちも見ているので覚えていて、「あの場には他に誰かいた形跡はなかった」と彼は証言した。
「あれは密室ではないです」
「じゃあ、何かトリックでもあったって言うのか?」
「トリックと言えば、トリックです。密室だと思い込ませることができたのですから」
時久はそう言って手に持っていた箱を皆に見せながら「これに見覚えは?」と問うと、斗真が「次の演劇の小道具」と答える。
「鍵の入った箱だよ」
「これは部員たちなら知っていてもおかしくはないものですよね?」
時久の問いに斗真は頷き、裕二も「俺も知ってる」と二人の返答に時久は箱を開けて中身を見せた。多種多様な鍵が入り混じる中、時久は一つの鍵を取り出した。
「見覚えないですか?」
そう見せられて裕二と斗真、陽菜乃、由香奈が見つめる。黙る四人に時久はもう一つの鍵を取り出して並べて見せた。
「あ、小ホールの鍵」
斗真の言葉に裕二もあっと声を上げる――そう、紛れもない小ホールの鍵だ。鍵は二本しかないはずだ、斗真はなんでといったふうに時久を見る。
「えぇ。小ホールの鍵です」
「え、でも鍵は二つで……」
「数年前に鍵を紛失していたことは知っていますか?」
おそらくこの鍵はその時に紛失した鍵だろうと時久は言う。鍵が同じなのは取り替えていない証拠だと。
「木を隠すなら森の中と言いますか。鍵はこの多種多様な鍵が入っている箱に隠されていました。鍵を無くしたのは数年前なのだから、それが使われているはずはない。使える鍵は二つだけという思い込みを利用した密室トリックですね」
心理的トリックというべきか、人間の思い込みによってこれは密室だと認識させた。トリックというならばそういう位置づけになるだろう。
犯人は白鳥葵を殺害後、小ホールの鍵を閉めてそのままこの小道具の箱の中に隠しておいたのだと時久が推察すると、斗真は「どうして」と疑問をぶつける。
「隠さなくても捨てればいいじゃんか」
「何処にでしょう? 警察が見つからない場所に捨てられますか?」
事件当日は全員が持ち物検査をされ、学校内だけでなく周辺にも怪しいものがないか捜索されているのだ。迂闊に捨てることなどできないのではないか、そう指摘されて斗真はなるほどと頷く。
「講堂の鍵は開いていて、小ホールの鍵は閉まっていた。それは小ホールの鍵しか持っていなかったからです」
「じゃあ、それを使って犯人が小ホールの密室を偽装したとして、誰なんだよ」
「一人だけ怪しまれずにできる人がいるではないですか」
これは小道具置き場に隠されていたのだからと、一人と時久は目を向けた人物にあっと皆が気づいた。
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