第22話 犯人は捕らえられる
時久は東郷に電話をすると、数コールで出た彼に「講堂に入る許可をください」と開口一番に告げる。
その勢いに東郷は少し驚いた様子だったが、何か分かったのを察したように許可をとってくれた。
講堂前に立っていた警察官に声をかけながら中に駆け込み、真っ直ぐに小道具置き場となっている倉庫へと向かうと前島が鍵を開けた。相変わらず雑多に置かれた物たちをかき分けながら時久は探す。
「何を探しているの?」
「鍵の入った箱です。何処にありますか?」
「えっと、あれだよね。小道具に使うっていってたやつ」
時久に言われて飛鷹も探す。鍵の入った箱は事件当時、現場に無かった。けれど、時久たちは中休みの時に白鳥葵が持っているのを確認している。あったはずのものがなかったのだ、あの時。
現場以外に無いのであれば、隠されたあるいは被害者本人が別の場所に置いたとなる。隠すのに適しいている、または被害者が入って仕舞うのに違和感のない場所はどこか。
小道具置き場で話を聞いた前島は「それなら、いつも置かれているテーブルの上にあるのでは」と見遣るも無く、首を傾げていた。
現場で見つかったという報告はない。時久も東郷に確認してみるが、無かったと返事が返ってきた。
ならば、隠されている。小道具置き場の小物や小道具を漁っていると、飛鷹が「あったよ!」と声を上げた。彼女が持っている箱は間違いなく、葵から見せてもらったものだ。
箱は張りぼてが置かれていた隅に置かれていたようだ。時久は飛鷹から箱を受け取って中を開いた。沢山の鍵がじゃらじゃらと入ってるのを見ると、時久は一つ一つ確認していく。
「先生、小ホールの鍵を見せてください」
「えっと、これだよ」
前島に渡された鍵を見比べて、何本か見てからあっと飛鷹が声を上げた。
「え、これ……」
一本の鍵に皆が注視した――それは小ホールの鍵と同じものだったから。
「前島先生、いくつか聞きたいのですが」
「なんだろうか? わたしに答えられることなら答えるよ」
「この鍵たちを使う演劇はみんなでアイデアを出し合って決めたと聞いたのですが?」
「そうだね。会議を開くんだが、その時にアイデアを出し合って決めたよ。わたしもいたから間違いない」
正式に決まったのは新学期が始まってからだったが、春休み前から部員たちと話し合っていたものだと前島は答える。みんなでアイデアを出し合って決めたのは間違いないと。
「では、最初にミステリーを提案したのは誰でしょうか?」
「提案した人?」
鍵を巡る密室殺人事件を最初に言い出したのは誰だ。その問いに前島は確かと言いかけて黙る。気づいたのか目を開いて固まっていた、そんなはずではないと言いたげに。
「他に誰がいるのでしょうか?」
「いや、しかし……」
「これらを準備した人も同じでしょう?」
これができる存在、そんな人物などもう残されてはいないと時久は断言する。それを否定できるような意見を誰も持ってはいない。
「犯人が分かりました」
静まる室内に響くその声は終わりを告げるようだった。
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