どう見てもステータスです
「では、正式にあなた方は魔王を倒す勇者になったということで、これからあなたたちにステータスを確認してもらいます」
ファンタジーゲームが大好きな人にとって、現実にステータスを見ることができるというのは、夢に近いものだろう。憧れのようなものだろう。
実際、クラスの中でよくゲームの話をしているグループが、「うおおおお!!」という雄叫びをあげている。もちろん、うるさくならないように小さな声にするという配慮をしている。
第一王女リリーフィアの後ろで待機していた騎士が、恵美たちに金属製のプレートのようなものを配っていく。
全員に広がった後、リリーフィアはそのプレートについて説明を始めた。
「この金属製のプレートがステータスを見るための道具です。皆さんは鑑定があるのでそちらでもいいのですが、この世界の人はこのプレートを使っているので、今回は用意しておきました。プレートを持って『ステータス』と唱えると、現在の皆さんの能力がわかります」
数人のクラスメイトが唱え、嬉しそうな歓声を出した。恵美もその周りの様子を見てから、ステータスと唱える。
すると、まっさらなプレートが錆びたように、赤茶色の文字が浮かび上がってきた。そこにはこのようなものが書かれていた。
名前:
年齢:14歳
種族:異世界人
称号:異世界の勇者
ジョブ:聖女
レベル:1
魔法:風、水、氷、光、聖
スキル:鑑定、異世界言語、杖術
聖女の祈り、天の祝福
こうして自分の能力を見ることができるというのは、新鮮だ。これを見ることで、こちらの世界での自分の素質を知ることができる。
ステータスプレートのような地球では存在しなかったものを見ると、改めてここが異世界なんだと実感する。
「王女様。これって、具体的な数値とかはわからないのか?」
「具体的な、数値……ですか?」
クラスの男子の質問を聞いたリリーフィアは、自分のステータスプレートを取り出して少し考える。
そして、すぐに結論を導き出した。
「数値とかはステータスプレートではわからないですね。感覚でやれば大抵わかるものなので。あくまでプレートは確認用のものですから」
その答えに、質問をした男子・
だが、リリーフィアは話を続けた。
「ですが、召喚された勇者が持っている鑑定というスキルならば、本人の見やすい形で表示されるらしいので数値で見られる可能性もあると思います。ただ、他の人のは見ることができないと思います」
それを聞いた水月たちは、そそくさと自身と友人のことを観察する。
そして、大きくガッツポーズをした。とても嬉しそうに、楽しそうにしながら。
きっと彼らは数値で見ることができたのだろう。わざわざ言われなくても、あれだけ喜んでいれば察することができる。
「王女様。教えてくれてありがとうございます」
見ることに夢中になっている水月の代わりに、水月の友人・
「皆さん、自分のステータスは確認しましたね。ステータスの中に、ジョブというものがあります。鑑定するためのアイテムを使うので、ジョブだけ調べさせてください」
次の瞬間、クラスメイトたちの間にピリついた空気が流れた。
職業というのは、やはり強いものと弱いもの、自分が望んでいなかったものと色々ある。優劣をつけることで、劣等感や嫉妬はたまっていき、限界まで溜まった後に爆発する。
それを最初から察していたのか、
「安心してください。ジョブというのはあくまで目安で、スキルでも変わってきます。それに、私たちはジョブだけで優劣をつけるつもりはありません。どの勇者を軸とし、活動していくか。その計画を立てるためだけに使うので」
リリーフィアは補足した。
第一王女リリーフィアは話し方がうまかった。不満が出ないように話すことを調整して、納得できるようなことにしていた。
とりあえずクラスメイトたちは、流されるがまま流れに乗って、やってきた鑑定アイテムの鏡に触れていく。
触れると、そこにジョブが浮かび上がる。
恵美の場合は聖女。
誠司の場合は聖騎士だ。
そして、最後に触れたのが委員長の金竜。期待の目を向けられながら、金竜は鏡に触れた。
鏡に写されたジョブは、【勇者】。
ほとんど全員がザワァっと盛り上がる。
そして、そのまま金竜がクラスをまとめる方針につながっていく。反対する人など、誰もいない。
一時期グループごとにバラバラに別れていた三年一組は、金竜を中心に、まとまりを取り戻していた。
「なあなあ、恵美。恵美のステータスって見てもいいか?」
誠司が何の遠慮もなく聞いてきた。
聞かれなくても恵美は見せるつもりだったのだが、どうせならと交換条件を持ちかける。
「いいけど、その代わり誠司のステータスも見せてね」
「それくらいは構わないぜ」
お互いに了承を得たため、お互いのステータスプレートを周りから見えないようにしてから見せる。
名前:
年齢:15歳
種族:異世界人
称号:異世界の勇者
ジョブ:聖騎士
レベル:1
魔法:無、地、火、雷、聖
スキル:鑑定、異世界言語、剣術、天の祝福
「すごいね誠司!」
「恵美こそ、すごい強えじゃねえか」
「完璧に後ろでのサポートになりそうだけどね。それにしても……」
恵美は、誠司のジョブを確認してから、吹き出しそうになるのを我慢しながらそれについて指摘した。
「誠司が聖騎士って似合わないね。似合うのは傭兵とか戦士とかなのに」
「ああ〜……。それは俺も思ったわ。確かに俺みたいな脳筋には似合わねえよな」
「自分で脳筋って言っちゃうんだ」
「事実だしな。話は変わるが、恵美のジョブ聖女はピッタリだな。みんなの癒し手って感じで」
「やめてよ、私が本当に癒したいと思うのは仲のいい人だけ。みんなじゃない」
恵美と誠司はお互いのジョブのことで笑う。
そこには、危惧していたギスギスとした雰囲気は存在していなかった。
鑑定アイテムを片付けた後、リリーフィアが立ち上がって礼をいった。
「ジョブを見させていただき、ありがとうございました。スキルに関しては、隠したいものなどもあると思うので、言いたいと思ったタイミングで教えてもらえると嬉しいです。なっているジョブによって、スキルも似た系統になっているので、絶対に言わないといけないというものはありません」
「こちらこそ、全てを教えなくていいと言ってくれてありがとうございます」
「では、みなさまは正式に勇者となりました。本格的なことは明日から始めるので、今日はゆっくり休んでください。用意した部屋は、騎士の方に案内させます」
恵美は、女騎士に案内されながら、部屋に向かう。
リリーフィアが用意させた部屋は、学校の教室以上の広さがあった。
その広さに圧倒され、内装を見るまでに時間がかかった。
内装も、同じく豪華だった。
ただ、絶対割ってはいけなさそうな壺などは置いていなかったため、恵美はほっと安心する。
部屋に恵美が入った後、女騎士はもう一人の人を連れてきた。
「あ〜!! 恵美ちゃんだ! よかったよぉ〜、仲良い人だったよ〜!」
「同室は穂乃果だったんだ! 仲良い人だと安心するね〜!」
恵美と同室だったのは、
彼女は、恵美の小学生の時からの友人だ。
お互いに同じ部屋同士だったことを喜ぶ。
「ねえ、穂乃果」
「なあに、恵美ちゃん?」
用意されていたベッドに二人で腰掛けて外を見る。
部屋の窓越しに見える景色は、やはり自然豊かで、色とりどりの街が広がっている。地球で過ごしていた頃は、見ることができないような景色だ。
「異世界にきちゃったね」
「ねぇ……。まさか私たちが、小説みたいに召喚されるとは予想もできなかったよ」
「ふふ、予想できたら逆にすごいよ」
「…………」
「…………」
少し黙り込んだ後、穂乃果が恵美に話しかけた。
「恵美ちゃんは、涙くんが見つからなくて焦ってるんだよね?」
「……!! なんで気づいてるの?」
わかりやすく動揺している恵美をみて、穂乃果はケラケラと笑った。
「だって恵美の様子がおかしいんだもん」
「他のクラスメイトたちは?」
「もちろん気づいてない。私は気づかない方がおかしいと思うんだけどね」
それについては恵美も同意である。
クラスメイトが一人いないことに気づかないなんて、本当にこの一緒に召喚された人たちは同じ教室でに授業を受けていたのだろうか、と疑いたくなる。
「大丈夫。男子が気づいてなくても、るいくんは私が見つけて見せるから」
「そっか。じゃあ一緒に頑張ろうね」
「うん」
こうして、異世界に勇者として召喚された恵美の1日はあっという間に終わってしまった。
穂乃果と話をした後、そのまま眠ってしまったのだ。おそらく、張っていた緊張も和らいできているのだから。
ここから、異世界から召喚された勇者たちの、魔王を倒すまでの物語が始まる。
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鑑定スキルについて
ステータスに表示されているレベルの差が大きければ大きいほど、開示される情報も増えていく。
同レベルの場合は、見える項目が少ない。
召喚されたばかりのレベル差がない状態では最低限の情報のみ。
<例>
名前:金竜 聖也 年齢:15歳
種族:人族
称号:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
ジョブ:勇者
レベル:1
魔法:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
スキル:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
詳細を見るためには、お互いにステータスプレートを見せる必要がある。
そもそも鑑定スキルを持っているのが召喚された勇者くらいなため、基本的にステータスを見せるときは、見せたい項目だけ表示してプレートを見せるのが主流。
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