第3話

『ヒビキ…いたい…』

ポツリと零すシヲン。早く…っ早く…自分を正気に戻さなければ…気が狂う!

『イタイよぉぉぉっ!!!!!』

狂気的な声と共にシヲンがドォ…と顔を近づく。

「!!」

瞳孔の開いた狂気的な目と避けた口に、両腕が止まる。それは目の前の彼女を自分から突き放さなければならないと本能が叫んだからだ。しかし、コイツにはそんなものは効かないのはよく知っている。

 シヲンはヒビキの肩を掴み取り、イカレタ性奴隷のように激しく揺すぶった。

『痛いよぉおっ!ヒビキのせいだっ!!ヒビキのせいだっ!ヒビキのせいだっ!!ヒビキのせいだああああぁあっっ!お前なんか殺してやるっ!!私の人生を返してよぉおぉっ!!』

両腕は完全に止まり、互いを傷つけることさえ出来なくなった。

揺すぶられながら、狂気的なシヲンの顔が離れたり近づいたりするのを見ながら、自分の体が考えとは別に無抵抗になっていくのを感じた。ギリギリと腹にキリを押し込まれているような痛みだけがヒビキの感覚に残っていた。

『ヒビキは死にたかったくせにっ!なのにっ!なのにっ!私を庇ってはくれなかった!!』

「…」

 ヒビキはシヲンに問い詰められながら、自分に説いていた。

死にたかった…確かに…死にたかった。

でも…

それは…

「!」

ヒビキの目に生気が宿り、過呼吸で痺れあがった両腕を力任せに動かした。

右手の爪で左腕を思い切り引っかく。

『!』

シヲンの左腕から流れ星のような亀裂が三つ入り、そこから蛆虫が何匹も這い出した。

『あぁーあ…残念でしたね…』

シヲンの声で死神が言う。蛆虫は時期に蛾になり、次々に飛び立っていく。

『まだまだ…甘いですよ?貴方は…』

死神の声にヒビキは引っかいた傷に爪を押し込んだ。

「…」

死神はスッと最後の言葉を発さないまま消えていった。

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