第3章 第4話:怒れる騎士
「お前、どういうつもりだ?」
遺跡から離れた場所で、俺はセリーナを睨みつけた。記憶が戻り始めた今、俺の胸にあるのは怒りと失望だった。彼女は俺の視線を受け止め、じっと立ち尽くしている。まるで罪を告白する子供のように。
「…アルト、私はただ…」
「ただ?ただ、俺の記憶を封じて、自分だけを見させようとしたって言うのか?」
怒りに震える声が出て、自分でも驚いた。普段は冷静でいようと心がけているが、今回ばかりは我慢できなかった。俺の人生、俺の記憶を弄んだ張本人が目の前にいるのだから。
「だって、私は…あなたを失いたくなかったの」
セリーナは泣きそうな顔で言い返してきた。彼女の涙がこぼれ落ちるのを見ても、俺の怒りは収まらない。むしろ、それが余計に火に油を注いだ。
「それが理由だって言うのか?お前のエゴで俺の記憶を奪って、勝手に旅に付き合わせていたんだな?」
「エゴでも何でも、私はあなたを愛してる!それだけなの!」
彼女が叫ぶように言った。いつもは明るく笑っている彼女が、今は必死で感情をぶつけてきている。その姿を見ると、少しだけ胸が痛んだ。だが、それでもこの怒りは簡単には消えない。
「お前が愛してるのは、本当に俺か?それとも、記憶を失った俺という“都合のいい存在”か?」
俺の言葉に、セリーナは一瞬だけ怯んだ。彼女は何かを言い返そうとしたが、言葉が出てこないようだった。彼女は顔を伏せ、拳をぎゅっと握りしめている。
「違う…私は、アルトが本当に好きで…ただ、それだけで…」
彼女の声は小さく、消え入りそうだった。俺は大きく息を吐き、少しだけ冷静さを取り戻した。このまま怒りに任せて彼女を責め続けても、何も解決しない。
「…お前の気持ちはわかった。でも、それとこれとは別だ」
俺は静かに言った。セリーナは顔を上げて、必死に涙を拭った。
「これからどうするの?」
その問いに、俺は答えられなかった。記憶が戻り、彼女が何をしたのかを知った今、この旅の意味が変わってしまった気がする。だが、同時にこの旅で彼女が俺を守ろうとしていたことも事実だ。
「とりあえず…進むしかないだろう。だが、これからはお前の勝手な判断で動くな」
「うん…わかった」
彼女は小さく頷き、俺の後ろに立った。いつものように俺に付き従っているが、その姿はどこか頼りなげだった。
俺はため息をつきながら歩き出した。この旅の結末がどうなるのか、今はまだわからない。ただ、俺の中で何かが変わり始めているのを感じていた。それが怒りか、それとも別の感情か――それは、もう少し進んでみないと分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます