第3章 第3話:過去の真実
「……これは?」
旅の途中、立ち寄った古びた遺跡で、俺は不思議な感覚に襲われた。ここに来たことがある。記憶の中に霞んでいた場所が、目の前に広がっている。まるで、過去の欠片が一つずつはまっていくようだ。
「アルト、どうしたの?」
セリーナが不安そうに問いかけてくる。俺は遺跡の壁に手を当て、目を閉じた。頭の中に、過去の映像がフラッシュバックのように蘇る。誰かとここに来たことがある。だが、その誰かの顔がはっきり見えない。
「ここに…俺は、誰かと一緒に来たことがある」
「誰かって、愛する人?」
セリーナが小さな声で呟く。俺は彼女の方を振り返ったが、彼女は目を逸らしていた。その瞬間、全てが繋がったような気がした。断片的な記憶が、一気に脳内で蘇る。愛する人の正体、そして記憶を失った理由――全てが明らかになった。
「……お前だ」
俺は信じられない気持ちでセリーナを見つめた。彼女の顔が青ざめ、そして悲しげに微笑んだ。
「そうよ、アルト。私が、あなたの記憶を封じたの」
俺はしばらく言葉が出なかった。頭の中で過去の映像が次々と流れていく。俺はかつて、セリーナと一緒にこの遺跡を訪れた。彼女は俺を愛していた。だが、俺には別の愛する人がいた。そのことに耐えられなくなったセリーナは、魔法で俺の記憶を封じ、俺を独り占めしようとしたのだ。
「なんで…どうしてそんなことを?」
俺の問いに、セリーナは涙を浮かべながら答えた。
「あなたが他の誰かを愛しているのが、どうしても耐えられなかった。だから、あなたの記憶を消してしまえば、私だけを見てくれると思ったの」
彼女の声は震えていた。俺は怒りがこみ上げてきたが、それ以上に胸の中に広がるのは、悲しみだった。彼女の歪んだ愛情が、俺の全てを奪ったのだ。
「お前は…俺の記憶を消して、自分のためだけに俺を利用したのか?」
セリーナは黙って頷き、涙を流していた。俺はそれを見て、呆然と立ち尽くした。これまでの旅の全てが、彼女の偽りに満ちたものだったという現実が、重くのしかかる。
「でも…でも、私はそれでもあなたを愛してる。あなたの記憶が戻っても、私の気持ちは変わらない」
セリーナは必死に訴えるように言った。だが、俺は何も返せなかった。怒りと哀しみが入り混じり、言葉が出てこない。ただ、一つだけ分かることがあった。
俺は、これまでの旅で彼女の存在がどれだけ大きかったかを、認めざるを得なかったということだ。
「……そうか。全部思い出した」
俺は呟き、彼女に背を向けた。記憶が戻った今、この旅はどう進むべきなのか、もう自分でも分からなかった。
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