第3章 第2話:セリーナの告白再び

「アルト、ちょっと話があるの」


夜の野営地で、焚き火の炎が静かに揺れている。俺は剣の手入れをしながら、セリーナの声を聞いた。彼女は真剣な表情で、俺の隣に座っている。普段は明るくしつこい彼女だが、今日は少し様子が違う。


「何だ?」


俺は剣を磨く手を止めて、彼女の方を向いた。セリーナはいつになく落ち着いているが、その目には何か決意が宿っているように見えた。


「…私、ずっとあなたに伝えたいことがあったの」


嫌な予感がした。俺は心の中でため息をつきながらも、無言で続きを促した。彼女は深呼吸を一つしてから、ゆっくりと話し始めた。


「私、アルトのことが大好き。何度も言ってきたけど、あなたにちゃんと伝わってるか分からなくて…」


やっぱりこれだ。また告白か。俺は何度も彼女にこう言われてきた。その度に断ってきたのに、彼女は一度もめげなかった。そして今日もまた同じことを繰り返している。


「わかってるさ。でも俺は――」


「うん、知ってる。アルトは記憶を取り戻して、かつて愛した誰かを探しているんだよね」


彼女は少し寂しげな笑顔を浮かべながら、そう言った。俺は言葉に詰まり、思わず目を逸らした。そうだ。俺は記憶を失い、愛する人を探している。それが俺の旅の目的だ。


「でも、もしその人を思い出せなかったら…もしその人がもういなかったら、私は…」


彼女の言葉が途切れた。セリーナは目を伏せて、焚き火をじっと見つめている。普段の彼女からは考えられないほど、静かな沈黙が続いた。


「お前、何を言いたいんだ?」


俺が問いかけると、彼女はふと顔を上げた。その目には、涙が浮かんでいるように見えた。


「それでも私は、アルトが好き。あなたが誰を探していようと、私はあなたを諦めない。だから…だから、少しだけ私の気持ちを考えてくれないかな?」


俺は一瞬、何も言えなかった。セリーナがこんなに真剣に、自分の気持ちをぶつけてくるのは初めてだ。いつもの軽い調子ではなく、本当に心からの言葉だということが伝わってきた。


「…セリーナ、お前の気持ちは分かった」


それだけ言うのが精一杯だった。彼女は少しだけ笑い、涙を拭った。


「ありがとう。それだけで十分。私はそれでも、あなたを守るから」


そう言って彼女は立ち上がり、少し離れた場所に座り直した。いつものように明るく振る舞おうとしているのが、逆に痛々しい。


俺は黙って焚き火を見つめる。これまで何度も彼女の告白を流してきたが、今日は少しだけ心に引っかかった。俺の記憶が戻る時、彼女のこの想いはどうなるのだろうか?


考えるのはやめようと、俺は再び剣の手入れに戻った。だが、その夜はいつもより眠りが浅かった。

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