第2章 第6話:村の祭り

旅の途中、立ち寄った村が今日は特別な賑わいを見せていた。どうやら、年に一度の収穫祭だという。村の広場には出店が並び、村人たちが楽しそうに踊ったり歌ったりしている。久しぶりに平和な雰囲気を感じた俺は、少しだけ肩の力を抜いた。


「ねえアルト、あれ見て!祭りよ!」


セリーナが興奮した声で駆け寄ってくる。彼女の目は子供のように輝いていて、まるで何か面白いものを見つけた猫のようだ。俺は少し面倒に感じながらも、頷いた。


「少しだけ立ち寄るか」


「やった!二人でデートみたいね!」


…もちろん、彼女はこう言うと思った。俺は苦笑いしながら、村の広場に向かった。セリーナはあちこちの出店を楽しそうに見て回り、俺にいろいろと押しつけてくる。綿菓子や焼き鳥、まるで子供のお祭りデビューのようだ。


「アルト、これ食べてみて!おいしいよ!」


彼女が差し出してきたのは、見たこともない形の揚げ菓子だ。俺は渋々一口かじったが、案外悪くない味だった。セリーナは嬉しそうに笑い、次々と別の食べ物を勧めてくる。


「本当に食い意地が張ってるな…」


俺がぼそりと呟くと、セリーナは笑いながら手を引っ張ってきた。


「さあ、次は踊りよ!アルト、一緒に踊りましょう!」


「踊りだと?俺はいい。勝手に踊ってこい」


だが、彼女は聞き分けが悪い。俺の手を強引に引っ張り、踊りの輪の中に連れ込もうとする。広場の中央では村人たちが楽しそうに手を取り合い、音楽に合わせて踊っている。俺はそれを見て、一瞬だけ逃げ出したくなった。


「さあ、行くわよ!」


「待て、本当にやるつもりか?」


俺が抵抗する間もなく、セリーナは俺の手を取ってくる。仕方なく、俺は不器用にステップを踏んだが、すぐにバランスを崩し、足がもつれて転びそうになった。


「わあっ!」


俺がつんのめると、セリーナが俺の腕を引っ張り、二人で倒れ込むように地面に転がった。広場の皆がこちらを見て、一瞬静まり返る。俺は恥ずかしさに顔をしかめながら、なんとか立ち上がった。


「ご、ごめんねアルト!でも、楽しかったでしょ?」


セリーナは笑いながら言うが、俺は怒りを抑えきれずに言った。


「楽しいわけがあるか!」


だが、彼女の楽しそうな笑顔を見ると、それ以上言い返す気も失せた。どうやら、この村の祭りも、俺にとっては思いがけない試練の一つだったらしい。


祭りが終わるころ、俺たちは再び旅路についた。セリーナはずっと楽しそうに笑っている。俺は少し疲れたが、まあ、こんな日も悪くないのかもしれないと、ほんの少しだけ思った。

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