第2章 第5話:魔女の暴走
「アルト、ちょっと聞いて!」
セリーナが突然駆け寄ってくる。嫌な予感がしたが、俺はため息をつきながら振り向いた。彼女の表情はいつものように満面の笑みだが、その裏に何か危険なものが見え隠れしている。
「今度こそ、ちゃんとアルトに感謝してもらえる魔法を披露するわ!」
…またか。俺はすでに数え切れないほど、彼女の「感謝してもらえる」魔法でひどい目にあってきた。少しでも断ろうとしたが、セリーナは杖を掲げ、詠唱を始めている。
「やめろ。そんなことしなくてもいい」
だが、彼女はまったく聞く耳を持たない。呪文の詠唱が進むにつれ、空が暗くなり始めた。俺は一瞬で理解した。これはまずい。非常にまずい。
「待て、止めろ!」
「大丈夫!今度は完璧なはずだから!」
その言葉と同時に、セリーナの杖から強烈な光が放たれ、空に向かって一閃された。次の瞬間、空全体が暗く覆われ、雷鳴が響き渡った。彼女はどうやら天候を変える魔法を使ったようだが、その威力が尋常ではない。
「お前、何をやったんだ!」
「え?ロマンチックな雨を降らせようとしたのよ。二人っきりの雨の中、素敵なひとときを過ごせると思って!」
ロマンチックだと?俺はその言葉に呆れて、頭を抱えた。今の状況は、ただの嵐だ。風が吹き荒れ、木々が揺れ、雨はまるで滝のように降り注いでいる。
「こんな嵐、誰が望んだんだ!」
俺は必死で叫び声を上げたが、セリーナはそれに気づかないのか、楽しそうに笑っている。彼女は手を広げ、雨の中で踊り出した。
「ほら、素敵でしょ!二人で雨に濡れて…」
「素敵どころか、災害だろ!」
俺が叫ぶと同時に、大きな雷が落ち、俺たちのすぐそばの木が真っ二つに裂けた。セリーナはその光景に一瞬驚いたようだが、すぐに「まあ、これも思い出よね!」と笑顔で言う。
…もう俺は何も言えなかった。呆れて物も言えず、ただ雨の中で立ち尽くすだけだ。雨は止む気配がなく、空にはまだ暗雲が広がっている。
「どう?アルト、少しは私のこと見直した?」
「見直すも何も、次はもう少し控えめにしてくれ…」
俺は心の中で静かに誓った。次に彼女が何か「感謝してもらえる魔法」を披露しようとしたら、全力で阻止すると。
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