第2章 第2話:宿屋の事件

旅を続けるうち、日が沈みかけてきた。遠くに宿屋を見つけ、俺は心の中でほっとした。やっとまともな屋根の下で休める。セリーナと旅を始めてから、まともに眠れた日など数えるほどしかない。


「今日はここで一泊するぞ」


「わあ、宿屋なんて素敵ね!もちろん相部屋よね?」


その一言に、俺は即座に首を振った。


「いや、お前は別の部屋を取れ」


「えー、どうして?だって、アルトを守るために一緒にいるのに!」


その「守る」という言葉が、俺の神経を逆撫でする。守護者だの相部屋だの、彼女の言う「守る」は俺にとって迷惑以外の何物でもない。俺はきっぱりと彼女の提案を断り、二人分の部屋を取るよう宿屋の主人に頼んだ。


しかし、セリーナは案の定、不満げに俺を見つめている。


「一緒の方が安全だと思うのに…」


「俺は一人で十分安全だ。お前も自分の部屋で休め」


部屋に向かうときも、彼女は何かしら文句を言いながら俺の後ろをついてきた。だが、俺は無言で自分の部屋に入り、扉を閉めた。やっと一人になれる、そう思った瞬間、今夜はゆっくり休める気がした。


しかし、そんな安堵も長くは続かなかった。しばらくして、扉がノックされる音が聞こえた。


「アルト…まだ起きてる?」


俺は返事をせず、ベッドに横たわったまま無視する。静かな夜を少しでも満喫したい。しかし、彼女の声が再び聞こえてくる。


「ちょっとだけ、一緒にお話ししない?」


完全に無視を決め込んで目を閉じたが、しばらくして彼女があきらめたのか、ようやく静かになった。俺はそのまま深い眠りに落ちようとした…が、また扉を叩く音が聞こえた。


「アルト、鍵がかかってて入れないんだけど!」


俺は心の中で深くため息をつき、布団を頭までかぶった。この旅は本当に、俺の忍耐力を限界まで試すためのものなのかもしれない。

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