第2章 第1話:料理対決

「今日は私がご飯を作ってあげる!」


その一言が、俺の不安を呼び覚ます。旅が始まってからしばらく経ったが、セリーナは毎日のように「アルトに何かしてあげたい!」という熱意で突っ走っている。そして今日は、どうやら俺に手料理を振る舞う気らしい。


「いや、自分で作るから大丈夫だ」


俺は断ろうとしたが、彼女はニコニコとしたまま、聞く耳を持たない。さっさと鍋やら食材を取り出し、さっそく調理を始めてしまった。俺は仕方なく、少し離れた場所に座り込む。どうやら止めるのは無理らしい。


「楽しみにしててね!」


セリーナは意気揚々と腕を振るい、謎の呪文を唱えながら鍋をかき回している。その光景を見ていると、俺の心の中には不安しか浮かばなかった。魔女の料理というのは普通の料理と違うのか?いや、そもそも彼女に料理の腕前があるとは思えない。


「できた!はい、どうぞ!」


やがてセリーナが差し出したのは、異様な色をしたスープだった。何が入っているのか、全く想像がつかない。俺はそのスープを手に取ると、まず匂いを嗅いでみた。


「……」


言葉が出ない。正直、匂いだけで危険だとわかる代物だった。だが、彼女の期待に満ちた視線が俺を見つめている。俺は渋々スプーンを持ち、少しだけすくって口に運んだ。


「どう?おいしい?」


セリーナの期待に満ちた声が耳に届く。だが、実際の味はというと…口に入れた瞬間に舌が拒絶するほどの強烈な味だった。何かが、何かが間違っている。しかし、ここで正直に言えば、彼女の機嫌を損ねるのは目に見えている。


「…ああ、まあ、独特だな」


なんとか言葉を濁し、彼女の目を見ずに言った。セリーナはそれを喜びと受け取ったのか、さらに笑顔を輝かせる。


「よかった!アルトが気に入ってくれて!」


そう言って、彼女は自分の分を食べ始めたが、俺はその間にこっそりとスープを地面に捨てた。後で動物が食べなければいいが…と少し心配になったが、これが俺の命を守る唯一の手段だ。


セリーナが満足そうに食事を終えたあと、俺は心の中で静かに誓った。


「次は、絶対に自分で作る…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る