第5話:騎士の忍耐

「…限界だ」


旅が始まってまだ数日だが、俺の忍耐が試される日々が続いている。今日もまた、セリーナの妙な発言と行動に振り回されっぱなしだ。もう何度「俺は一人で十分だ」と言ったか覚えていない。


「ねえ、アルト。疲れてない?休憩する?」


セリーナは満面の笑みで俺に近づき、勝手に肩を揉み始めた。手つきは妙に力強く、逆に肩が凝りそうだ。俺は無理やり彼女の手を振り払った。


「別に疲れてない。黙って歩け」


「えー、でも、せっかく一緒に旅してるんだから、もっと仲良くしようよ!」


俺は無言で前を向く。彼女の「仲良く」という言葉の意味が、どうにも俺には理解できない。いや、理解したくもない。彼女は一途に俺に尽くしているつもりだが、その行動のすべてが俺の神経を逆なでしている。


「それに、旅の途中で休憩って、大事でしょ?疲れたら効率が下がるわよ」


「俺の効率を気にする前に、お前が黙ってくれる方が助かる」


それでもセリーナはめげない。次に彼女が取り出したのは、なぜか手編みのマフラーだった。どうやら俺のために作ったらしいが、この季節にはまったく必要ないし、そもそも俺はこういうものを身につけるつもりもない。


「これ、私が作ったのよ!どう?可愛いでしょ?」


「いらない。暑いし、そんなに可愛いとも思わない」


それでもセリーナは嬉しそうにマフラーを押しつけてくる。俺が断っても断っても、彼女はまったく引き下がらない。


「アルトが気に入るように、もっといろいろ作ってあげるね!」


…どこまでもしつこい。俺は再びため息をつき、心の中で静かに忍耐を誓った。少しでも彼女と話をすると、こうして振り回されるのが目に見えている。


「もう少し、黙ってついてきてくれ。それだけでいい」


「はーい!アルトのために頑張るわ!」


…この旅、いつまで俺の忍耐が続くのだろうか。

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