第3話:ロマンチックな誤解
「今日はここで野宿だな」
俺は静かな森の中で焚き火の準備をしながら、セリーナに告げた。日が沈みかけていて、これ以上進むのは無理だ。野宿は慣れているし、どこでも寝られるが、問題は…彼女だ。
「そうね、夜空の下で二人っきりなんてロマンチックだわ!」
…出た。やはりこうなる。俺は無言で焚き火に火をつけ、炎がぼうっと燃え上がるのをじっと見つめた。セリーナの頭の中が、どんな魔法よりもファンタジックだということは、この短期間で十分に理解している。
「アルト、これってデートみたいじゃない?」
彼女は目を輝かせて俺に近づいてくる。まるで何か特別なことでも期待しているかのように、焚き火を見つめながら微笑むその姿に、俺は心底疲れを感じた。
「これはただの野宿だ。デートじゃない」
「でもでも、空には星がいっぱいで、二人っきりで…」
俺は彼女の言葉を聞き流し、リュックから寝袋を取り出して準備を進める。セリーナの妄想は置いておくとして、明日も長い道のりだ。今は少しでも体を休めておくべきだ。
「星が綺麗だわ…」
セリーナは空を見上げて感動している。だが、俺はそんなことよりも、いかに早く眠るかを考えていた。無駄話をしている暇はない。
「俺は先に寝る。お前も休め」
「えー?もう少し一緒に星を見ましょうよ!」
セリーナは明らかにがっかりした様子で俺に迫ってくるが、俺は迷わず寝袋に入った。何も言わずに、ただ寝る。これが一番だ。
「明日も早いからな」
無理やり目を閉じ、聞こえないふりをする。少しでも彼女と会話を続ければ、夜が終わらない気がするからだ。セリーナは不満そうにため息をついたが、すぐにまた楽しそうに星空を見上げていた。
「本当にロマンチックだわ…」
…俺にとってはただの静かな夜だ。
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