第2話:初めての戦い

「魔物か…」


旅に出てまだ一日も経っていないというのに、さっそく厄介な状況だ。目の前には、獣のような姿をした魔物が現れ、鋭い牙をむき出しにしてこちらを睨んでいる。俺は剣を手にし、一息ついて戦闘態勢を整える。こういうとき、無駄な動きは命取りだ。静かに状況を見極め、動きを見切る――それが戦いの基本だ。


「さあ、私が守ってあげる!」


俺の背後から聞こえてきた元気な声に、全身の力が一気に抜けた。セリーナだ。まだ戦いも始まっていないのに、彼女は大げさに杖を掲げ、派手なポーズを取っている。俺は一瞬、剣を握る手を緩めそうになった。


「いや、俺がやるから大丈夫だ。黙っててくれ」


「大丈夫!任せて!」


聞いてない。完全に聞いてない。セリーナは、俺の言葉をまったく意に介さず、すでに詠唱を始めている。これは、まずい予感がする。


「見てなさい、アルト!私の力を!」


そう叫んだ瞬間、彼女の杖が光を放ち、強烈な風が巻き起こった。次の瞬間、魔物が吹き飛んでいった。いや、魔物だけじゃない。周囲の木々や地面までもが、その風に巻き込まれている。


「お、おい…」


俺は呆然とその光景を見つめるしかなかった。魔物はもちろん倒れたが、それ以上に周りの景色が一変している。あっという間に森の一部が壊滅し、辺りには土煙が舞い上がっている。


「どう?すごいでしょ!」


セリーナは誇らしげに振り返り、にこやかな笑顔を浮かべている。その自信満々の顔を見た瞬間、俺は心の中で叫んだ。


「…お前が一番の脅威だろ!」


もちろん、口には出さなかったが、セリーナの「守護者」としての力は、俺にとってはむしろ迷惑極まりない。俺は再びため息をつき、剣を収める。この調子では、戦いどころか、旅そのものが危険だ。


「これからも、私に任せてね!」


セリーナの笑顔を背に、俺は心の中で静かに誓った――次は絶対に、自分で戦うと。

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