(14)恥じらいの力

 ナジーは目を凝らし、キョロキョロと周囲に視線を走らせた。

「うーん……。あの切り株は確か……」

 目印になりそうなものを探し、ブツブツと呟きながら脳内マップと照らし合わせる。

 暗闇もあって情報量は少ないが──しばらくした後、ナジーはシソクに頷いてみせた。

「……そうね。まだ、来たことのある範囲だわ。村は……向こうの方ね」

 ナジーは高い雑草が生えたしげみの方向を指差した。


「そっか。良かった……」

 ナジーが知っている場所ということは、村からそう離れていない。それが分かっただけで、シソクはホッとしたものである。


──しかし実際、ここからが問題である。


「村に戻って助けを呼んで来るよ。ナジーはどうする?」

 無闇に歩いてもレージョや獣と遭遇する確率が上がるばかりだ。シソクからすれば、危険な目に合うよりもナジーには空洞に留まって貰いたいところだが──。


「私も行くわよ」

 当然のように、ナジーは頷く。

 それは、シソクも予想できていたので拒否することはしなかった。

 シソクが微笑むと、ナジーはぶるりと身を震わせた。

「……怖いけどね……」

 言いつつ、ナジーはシソクの手を取った。

「一人じゃ怖いけど、こうしていれば安心できるわ。何があっても、一緒に乗り切りましょう」

 温かいナジーの手に触れ、シソクの心までもほっこりとしたものだ。


「危険だけど……」

──いいのかい?

 シソクはそんな心配を口に出そうとして飲み込んだ。

 内心を見透かしたナジーが答えてくる。

「残ってたって一緒じゃない。離れて殺されてしまうよりは、一緒に居たいな……」

「……え?」

「な、何でもないよ!」

 ナジーは慌てて、シソクから顔を背けて俯いた。その頬がほんのりと朱に染まっているのがみえた。


──ギリリリッ!


「痛っ!」

 恥じらいの表れだろう。ナジーの握力が強まり、手を握り潰されそうになったのでシソクは悲鳴を上げた。


「あっ、ごめんなさい!」

 ナジーはシソクから手を放して離れると謝った。

 数歩進んだ後、ナジーは自身の胸に手を当てて呼吸を整えるような素振りをみせた。

 そして、冷静さを取り戻したらしいナジーは振り返り、ニッコリと微笑んだ。

「早く行きましょうよ」

「あ、うん……」

 少々驚いたシソクであったが、ナジーの後に続いて歩き出す。


 村に助けを求めるべく、森の中を進んで行こうとした──まさに、その時であった。


──ガサッ、ガサガサ……!

 ナジーの側にある草むらがガサゴソと音を立てて揺れた。

 また獣でも潜んでいるのだろうと、シソクは犬笛を吹いたものである。


──ガサッ!


 物音と共に、草むらから何か大きなものが飛び出した。


──人だった。

 豪華なドレスに身を包んだその人影は──レージョであった。

 レージョは飛び出したと同時に、ナジーに向かって重量のある棍棒を思い切り振り下ろしたのであった。

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