(08)猟師と銃の行方

 最後尾さいこうびを進むシソクの足取りは重かった。

 足を動かそうにも、なかなか前に進んではくれない。


「シソク……」

 心配したようにナジーが声を掛けた。

「大丈夫? 本当に、何があったの?」

「いや、それは……」

 モゴモゴとシソクは口篭くちごもってしまう。そして、先頭を歩くレージョに目を向ける。

 助けを求めるべきなのだろうが──口に出してしまったことで、ナジーたちにまで危害がおよんでしまうことも考えられた。

 そう考えるとなかなか勇気が出ず、伝えることが出来ずにいた。


「あの、ところで……」

 前を歩くレージョは、後ろの二人に問い掛けた。

「その猟師様は何処どこへ行かれたんですか?」

「さぁ? 一緒に歩いとったんだけれど、いつの間にか消えてしまってなぁ。きっと、獣でも見付けたんじゃろう」

「獣……ですか……」

 前を向きながら、レージョはおじさんの言葉を反芻はんすうした。

「あぁ。まぁ、あいつ猟銃を持っとったから大丈夫じゃろう。いざとなったら、自分の身は自分で守るじゃろう」

 おじいさんは笑った。

「……おや?」

 そして、視線を下に落としたおじいさんは──レージョのロングスカートのたけについた汚れに気が付いた。泥汚どろよごれとは違う。赤色の液体が付着ふちゃくして、汚れていた。

 おじさんも、それに気が付いたようである。

「おじょうちゃん。それ、血ぃ……」

 思わずそう口に出そうとした。


 瞬間しゅんかん──レージョが後ろを振り返る。

 振り返ったと同時に、おじさんは顔にレージョから何かを突き付けられた。

 一瞬のことで、それが何であるか理解するのに反応が遅れた。


──猟銃だ。


 おじさんは口元をゆがめて笑うレージョと目が合った。


 恐怖や怒りを感じるひまもなかった。

 容赦ようしゃなく、レージョは手にしたその猟銃の引き金を引いたのであった。

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