(05)不在の疑念
ナジーは木のカゴを抱えながら、村の通りを歩いていた。
中には、
「シソクー! お野菜、持って来たよー」
家の前で呼び掛けるが、中から反応はない。
──寝ているのだろうか?
ナジーは玄関の扉を開けて、家の中を覗いた。
親しい間柄なので、一応ナジーは無許可で家の中に立ち入ることを許されていた。直接的に許可を得たわけではないのだが、勝手に出入りして料理や部屋の掃除をしているが、シソクから
「シーソークー!」
もう一声、呼び掛けてみるがやはり返事はなかった。
どうやら眠っているわけでも居留守を使われているわけでもないようだ。ただ不在であるだけらしい。
「どこに行っちゃったんだろう……?」
ナジーは首を傾げたものだ。だいたい、外出する時はナジーに一声掛かる。畑仕事でナジーが出掛けてしまっていたせいかもしれないが、お呼びが掛からなかったので不思議に思ったものだ
「あっ、おじさん!」
シソクの家から出たところで、たまたま通り掛かった近所のおじさんと出会った。知っているかは分からなかったが気になったので、ナジーはシソクのことを尋ねてみた。
「シソクがどこに行ったか知りませんか? お野菜を届けに来たんですけど留守だったので……」
「さぁ……?」と、近所のおじさんは腕組みしながら首を傾げた。
しばらく考えた後──「あぁ、そういや……」と、思い出したかのように、口を開いた。
「釣り竿持って、釣りに行くとか言っとったかのぅ? 直接、聞いたわけじゃないんだが……。そんな話しをしていたのが、聞こえたような……」
「それっていつですか?」
「昼前じゃったかなぁ」
「昼前って……」
ナジーは空を見上げたものである。
夕焼け雲が浮かび、空はオレンジやピンク色に染まっている。間もなく、日が暮れようとしている時間帯である。
昼間とはもう
「シソクにそんな趣味はなかったはずだけど……」
飽きっぽいシソクの性格を熟知しているナジーからしてみれば、ちょっと気晴らしに行ったとしても随分と帰りが遅く感じられた。
「何もなければ良いんだけれど……」
親しい間柄であるナジーだからこそ、シソクの危機を察したのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます