第47話 魔女と魔導書の新居内覧会
『ほぉぉぉ! こぉうなっているのだなぁ! 中央に通路ぉ! 右側に玄関とバス、トイレぇ! 左側に寝室とウォークインクローゼットぉ! 正面にダイニングキッチンとリビングぅ! そしてその横が和室ぅ!』
『いいですねいいですねー! 先代の家は洋室ばかりでしたから、和室って憧れてたんですよねえ! 私ここが気に入っちゃいました主様ー!』
「そっかー。じゃあ即決してもいいかもなあ。即決できますか?」
「は、はい、もちろんです!」
不動産の人が色々準備を始めた。
このあと、店に戻って手続きをしたりするんだろう。
で、こちらも何日かかけて用意するものがある……と。
ではその間に、新居となる屋内をもう少し見させてもらおう。
防音用に壁を厚くした関係で、ほんの少しだけ間取りが狭くなってるんだそうだ。
大丈夫?
壁の中に何か塗り込めたりしてない?
ま、塗り込められていても平気だろう。
配信者が住み着くということは最強のセキュリティらしいし。
フロータとイグナイトがびゅんびゅん飛び交いながら、『ベッドはあっちですね!』『配信は二部屋でやれたほうがいぃぃ!』『窓から外が見えますねぇ!』『んんん燃えやすそうな家ばかりだぁ!』とか言ってる。
そうだね、ちょっと古めの町並みだから、イグナイト的な感想はそうなるね。
燃やすなよ。
今はスパイスの姿ではないから、念話ができない。
表情で分かってもらおう。
さて、キッチン。
なかなか広くて使いやすそうだ。
料理しながら、ダイニングからリビングまでを一望にできる。
広いな……!
この空間だけで俺の部屋が一つ半入る。
普通に買うとこんな田舎でも中古で二千万とかしそうな物件なのだが、ダンジョン化という究極の事故物件化を経過したので、五割引くらいまで安くなっているのだ。
リフォーム代考えたら赤字じゃない?
か、買うか!
買ってしまうか!!
人生最大の買い物だ!
俺はなんかうずうずしながら、物件の中を歩き回った。
和室。
畳は張り替えられている。
い草のいい匂いだ。
ここに寝転ぶのもいいな……。
そして、エアコンが掛かってない一月だというのに、室内はほんのり暖かい。
壁が分厚く、防寒性能も高いお陰だ。
夏は暑さを通さないだろう。
素晴らしい。
電気代もお得だ。
『おやあ~? ちょっとだけ下級霊がうろついてますねぇ。えいっ』
『ウグワーッ!』
フロータが本のヘリで、何も無いところを叩いた。
そうしたら悲鳴が上がり、半透明のものがプシューッと空気に溶けて消えていく。
『こっちにもいるなぁ! ぶらぁっ! ティンダー!』
『ウグワーッ!!』
イグナイトが謎の雄叫びとともに放った火花が、やっぱり下級霊らしきものを浄化する。
「まだまだ寄ってくるものなんだな」
『ですねー。これ、ダンジョン化が解けたあとに節約してお祓いやんなかったっぽいですね。リフォームしてるけど怪奇現象が多発して、だからこんなに安いんですよきっと』
「なるほどなあー。俺は下級霊程度じゃもう怪奇現象とも思わないもんなあ」
自ら浮かんで喋る魔導書二冊に、意思を持ったAフォンを持っており、俺自身が魔女である。
四階の四号室で、霊がちょこちょこ出入りするところ。
魔女の隠れ家としてちょうどいいんじゃないだろうか?
『あっ、ここ、なんか霊的な死角になってて外からはどうやっても中を覗けないみたいですね! ダンジョン化がちょっと残ってるみたいです!』
「フロータ、次々に新事実を発見していくな……。奥で不動産の人が真っ青になってるじゃないか」
どうやらダンジョン化が残っていることまでは知らなかったらしい。
あと少しお安くなるかな……。
結局、その物件で決まった。
ただ、自由業の俺では銀行からローンの許可が降りなかったので、今月中に迷宮省が銀行を殴ってくれるらしい。
それでローンは通るだろうということだった。
入居は今月半ばから。
引っ越しの準備をしないとなあ。
物件紹介のお礼がてら、ターミナル駅の前でお菓子などを買い、マシロの家に挨拶に向かった。
インターフォンを押すと、マシロのご母堂が顔を出す。
挨拶をすると奥に通された。
「先輩、物件決まったんスか!」
「決まった決まった! マシロとマシロのお父上のお陰だよ。お礼しようと思って」
「いやー、あたしなんか別になんもしてないッス」
マシロが仲介してくれたから、こんないい物件に出会えたのではないか。
リビングに通されて、そこでマシロ父にお菓子を手渡した。
おお、なんか高級そうな紅茶と茶菓子が出てきたんだが?
「いや、なに、君には娘が世話になっているからね。羽振りもいいと聞く。持てる者のもとには、良いこと、いいものが集まってくるものだと思うからね」
なんか奥歯にものが挟まったような物言いをする人だな。
「それで……どうだね? マシロとはどこまで……」
「お、お、お父さん!! ノンデリ行為やめてっ!!」
「ウグワーッ!」
マシロがお父上を蹴り倒した!
椅子ごとぶっ倒れるお父上。
ご母堂がニコニコ笑っているのだった。
「なんと賑やかな人々だろうか」
俺は内堀まで埋められてしまった予感を覚えながら、美味しいお茶と茶菓子をいただくのだった。
本当にいいんですかね、この流れ……!?
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