第48話 新居からお送りしまーす!
引っ越した。
業者さんを頼み、全ての荷物を運び込んだのだ。
そして敷金は全く戻ってこなかった。
使い込んだ部屋が割と傷んでたからな。
大掃除をしても、そこは仕方ない。
金でどうにかなるポイントでわあわあやり合うのは、時間がもったいなかったのだ。
一応、お隣さんに挨拶だけしておいた。
「ああ、引っ越しですか。寂しくなるなあ」
「いやあ、今までご迷惑おかけしました。夜とか騒がしかったでしょう」
「いえいえ。お気になさらず。妹さんによろしくお伝え下さい」
出来た人だなあ!
俺は感心してしまった。
そして、新居へと移る。
一応、世話になった関係でマシロは呼ばねばならないので、彼女を招いてパーティまがいの事をしたのだった。
そして酒を飲んでダウンするマシロ。
毎度毎度、酒に弱いのに俺と一緒だとどうして飲むのか。
隣が和室で本当に良かった。
布団に彼女を寝かせて、さて、俺は……。
「うぇーい! どーも! こんちゃー! スパイスでーっす! 新居に引っ越しちゃいましたー! 防音完璧! ひっろーい部屋でーす!」
※『うおおおおおおお』『こんちゃー!』『どーも!』『スパイスちゃんテンションたけー!』
「そりゃそーよ! 家の広さは今までの何倍もあるからねー! ここなら色々な配信道具とかも置いておけるし、便利便利! 今まで我慢してたスパイスの趣味もやれるねー」
※『スパイスちゃんの趣味?』『なんじゃろ?』『コスメとかかな……?』
「PCをいじるのと、プラモとフィギュアでーす!」
※『お、男らしい趣味ぃーw!』『やはりおじさん……!?』
「おじさんだって言ってるじゃーん! えー、というわけで、スパイスは色々なガジェットにも興味があります! これを見てる企業さん、案件カモーン! バッチリ宣伝しますよー!」
ここで俺は振り返り、新居を映し出す。
無論、フロッピーが画像を変換してファンシーな壁紙に張り替えてある。
「じゃあ新居……スパイスの新スタジオを案内しちゃうぞー! えーっと、まずここがキッチンとダイニングとリビングが繋がってて、主にこの広いとこで配信しまーす! 配信用PCもここかなー? 食卓もあります! 次にこっちが和室で……今後輩が酔っ払って寝てるんですけどー」
「むにゃ……先輩……就職させてくださいッス……」
※『女子の声だ!!』『スパイスちゃんの家に女子が!?』『俺たちの目にはぬいぐるみが転がっているようにしか見えない』
フロッピー、ナイスフォローだ。
マシロにぬいぐるみのアバターを被せて見せることで、人間だと認識させない!
「後輩を踏んづけないようにして移動しようねー。和室は六畳間なんだけど、十分だよねえ。こたつはまだ買ってきてないけど、そのうち導入予定! ノートを置いてこっちでも配信したいなー」
そして廊下に出て、小さい部屋を案内。
「こっちは四畳半くらいで、ベッドルームだね! なんと三畳近くあるウォークインクローゼットがついてきます! ゴージャスー!!」
※『うおおおおお』『そのクローゼットに住む!』
「あはははは、お肉どもは絶対家に入れないからなー! これはスパイスの使ってるベッドだけど、布団が乗ってませんねー。そうです。多分これからはずっと和室に布団を敷いて寝ます! 一人暮らしだと部屋数持て余すねー! あと、バス・トイレ別なのはスパイス的にポイント高いなー。お風呂? 広いよー! スパイスがゆったり入れるもん!」
※『画面のスパイスちゃんがゆったり入れるサイズだと、そこまで大きい必要ないよなw』『ちっちゃくてかわいいからねえ』『待て! スパイスちゃんが縦にすっぽり入るサイズかも知れない!』
俺がおじさんモードの時のサイズなどを考えたくはないようだな……!
さらにその後、先日の内覧では見ていなかった小さなもう一室を発見するなどした。
玄関のすぐ脇に隠し扉が配置されていたのである。
おかしい。
不動産の人からは説明はなかったし、見取り図にもこの部屋は存在してなかったよな……?
いや、構造的にここ、明らかにデッドスペースだったから部屋がないとおかしいんだけど。
「えー、この部屋はね、今見つけました! なんだこの部屋ー!? 見取り図に無かったんだが!」
※『な、なんだってー!!』『ミステリーすぎるw』『どういう来歴のあるマンションなのw』
「詳しく言うと身バレしちゃうからねー。事故物件でーす! それだけ伝えておくね! えー、では中に入ってみましょう!」
扉は壁と一体に見えるようにカモフラージュされていた。
ドアノブも存在しない。
俺は、フロートの力で扉そのものをちょっと浮かせ、リバースで引き寄せたわけだ。
きしんだ音を立てて開いていく扉。
中からは、ホコリっぽいにおいがした。
「うわーっ、ほこりくさい!」
『ん任せろ主ぃ。焼き尽くすぅ! ファイヤストームぅ!!』
「あーっ!! イグナイト、それまだスパイスが使えない魔法!!」
『魔力をぉ使い果たしたぁ。あとは頼むぅ』
パサッと落ちるイグナイト。
「無茶しやがって」
※『イグナイトーッw!』『ほんとに個性的な魔導書だなあw』『あっ、フロータちゃんが先に行った!』
『んっふっふー。できる魔導書は懐中電灯をこうやって浮かせてですね、中を確認できるんですよー。あー、窓があるけど外から壁をはめ込まれて開かなくさせられてるんですねこれー! あまーい!! 主様!』
「主に指示をしない! そんじゃあ、フロート! リバース!」
錆びついてようが、それぞれの窓や鍵の部分を別々に浮かせて、リバースで動かし……。
「ウォーム! ホットウインド!」
温めたりなどしてガタガタ動かすと……。
ぎしぎしぎしっと窓が開き、塗り込めていた壁はリバースでぶっ飛ばした。
「おー! この窓、外が見えるようになってるんだねー! どれどれー? んー? なんじゃこりゃー!?」
部屋の中はぶっちゃけ何もなかった。
フローリングを剥がした、コンクリ打ちっぱなしの床。
そこにチョークで魔法陣みたいなのが書いてあっただけだ。
だが、問題はその部屋の窓の外だった。
そこは……俺が見知ったこの街の景色では無かったのだ。
窓の外には……朽ちた石造りの都に、紫色の空。
浮かぶ月の数は二つ。
異世界が広がっていたのである!
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