第43話 今年の反省と今年の抱負について

「あっ、ついにきら星はづきちゃんが歌い出したねえ! うーん、なんていうかカワイイ歌い方だ」


※『カワイイ!』『愛嬌がある』『上手くはないけどなんかいいよね』『耳に心地良い』


 俺とリスナーで同時視聴する、配信者歌謡祭もついに終盤。

 年越しそばも食べ終わり、お茶など持ってきてまったり雑談をしているのだ。

 ちなみに俺のそばのすすり方は、『歴戦のおじさんみを感じる』『熟達のすすり』と評判だった。


 きら星はづきが歌い終わり、会場が拍手に包まれた。

 相方の小柄な女の子といっしょに、あちこちにペコペコ頭を下げている。


 あの動きのキレ、間違いなく中身も見た目通りの年齢だと思う。

 ということは、十代にしてトップ配信者への道を駆け上がっているということだ。

 末恐ろしい。


※『スパイスちゃんは今年どうだったの?』


 ふとコメントを見たら、そんな一言が浮かんできていた。

 俺はそいつを拾って、


「今年どうだったか……。うーん」


 考えてみるのだった。

 祖母の遺産である魔導書を継承し、魔法少女に変身し、気がついたら魔女との戦いに参加して配信者活動をして、チャラウェイと出会って世界が広がり、先輩魔女の薫陶を受けたりし……。


「配信始めるまでは無の九ヶ月間だったけど、配信始めたらこれまでの人生全部足したくらい濃厚な三ヶ月だったかな……」


※『そんなに』『そっか、この人まだデビュー三ヶ月だった!』『この娘は伸びる』『これからも応援するよ!』


「ありがとー! えーと、スパイスはね、今年の反省点で言うと……特に無いかな! 初めて尽くしの中で、よく頑張ってきたなー、生き延びてきたなーと我ながら思うよ! 常に頭脳フル回転で戦ってきたからねー」


 いや、本当にいつ死んでもおかしくなかった。

 配信者生活、ここまで死と隣り合わせなのか。

 ただ、それに見合った実入りがあるのも確かだ。


 俺のサラリーマン時代の給料の、ざっと三倍の手取りがある。

 黒胡椒スパイスとして順調に登録者が増やせて、数万人のペッパーどもを抱えることができているからというのもあるが……。

 噂によると、千人前後でもちゃんと飯を食っていけるようだ。


 命の危険と引き換えに、会社という監獄に人生の時間を管理される、社会人生活とおさらばできる。

 昼に起きても夜に起きても、朝に寝てもいい生活!

 全ては自分次第だが、センスがあれば自堕落でも英雄になれる職業。


 それが冒険配信者だった。


「この仕事を始めるまでは、自分の性分に合ってないかなーと思ってたんだけどねー。まあまあいけてるー」


※『そうなの!?』『そういえばスパイスちゃん、ちゃんと夜に寝て朝に起きてるもんね』『昼夜逆転してる配信者多いのに』


「みんなが仕事をしてる時間に寝て、みんなが学校や仕事から帰ってきてから活動する方が効率的でしょ? でもスパイスは社会人だった頃の癖がまだまだ抜けないからなー」


 お陰でダンジョン配信は昼間や、夕方が多い。

 それでも見てくれるリスナーには感謝しかない。


 さっきのきら星はづきは現役女子高生らしいが、学業と配信って両立できるものなのか?

 それでトップに立とうとしてるなら、彼女は天才か怪物かどっちかということになる。


 俺はとてもとても、この仕事を兼業でやっていけるとは思えないな。

 まあ、そんな俺も昼間は魔法の練習をしたり、昼寝をしたり、新しい食堂を開拓したりして楽しんでいたりするのだが。


「あっ、歌謡祭終わった」


※『年越しだねー』『除夜の鐘だ』『これ本物見たこと無い』『そういう世代も……』


 家の近くに大きな鐘がある寺がないと、見る機会無いもんな。

 俺が幼い頃はまだまだダンジョン禍が浅かったので、遠くまで移動して除夜の鐘を見に行ったりしたものだ。

 なお、とある地域では除夜の鐘がうるさいと中止になったらしいが、そこは新年からダンジョンが頻発する地域になり、今は封鎖されたそうだ。


『主様、ここは一発、来る年の抱負でも……』


 フロータから提案があった。

 さすが、祖母と付き合いの長い魔導書。


「そうだなあ。来年……もう今年になるのか。えーと……」


『んあけましておめでとうございまぁす!!』


※『日付変わった瞬間に野太い声がw!!』『あけましておめでとうございます!』『ございまーす!』『あけおめことよろ!』


「みんなー、どうもねー! スパイスは事情があるので今年はあけおめしません」


 祖母が亡くなってるからね。

 今の時代、ダンジョン禍で亡くなる方は後を絶たないので、あけおめが言える状況はそんなに多くない。


「では、今年のスパイスの抱負ですけど……じゃじゃん!」


 ここで取り出したりますパネルは、同時配信しながらしこしこ作っていた予定表!


「三が日のうちに、新衣装お披露目があります! 炎の魔法を使える新スタイルだよー! クリスマスの時の炎の魔女をぶっ倒して奪い取ってやった力なんだ。まあまだ大した炎は使えないんだけど!」


※『おおー!!』『新衣装きちゃー!』『楽しみすぎる!』『特大のお年玉だ!』


 喜んでもらえて嬉しい。

 それと、スパチャという形でお年玉がもらえるのは俺なんだぜ……!


『主様、これはスパイスちゃんを応援する側からすると、カワイイ新衣装が見られるということでウィンウィンなのではないかと』


 あっ、そういう。

 俺もまだまだ、リスナー心理が分かってないなあ。

 精進あるのみだ。


『ん今年はぁ! 俺のデビューということでぇ~! ペッパーとお肉どもをぉ~分からせるぅ~!!』


※『野太い声出して赤オレンジの本が浮いてる!』『なんだこいつw!』『フロータちゃんの仲間は濃いなあ』


「イグナイトー! 公開前に出しゃばるんじゃなーい! めっですよめっ!!」


 俺のチョップを受けて叩き落とされたイグナイトが、『ウグワーッ』と叫んだ。


「それじゃ、この配信は終わり! みんなはこれからどうする? 寝る? 初詣行く?」


※『徹夜!』『初詣行くんだー』『実はもう初詣並んでる』『寝る~』『今起きた』


「うんうん、スパイスはねー。寝るー」


 というところで、LUINEでマシロからの初詣お誘いが来るのだ!

 なんというタイミングだこの後輩。


「スパイスは今後輩からお誘いが来たので初詣行く……」


※『がんばってw』『今年もよろしくね!』『今年もスパイスちゃん推す!』


「ありがとー! じゃあみんな、今年もよろしくーっ!!」


 配信は終わり……新しい年がやってきたのだった。


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