第42話 配信者歌合戦を同時視聴しよう

 配信のスタイルには、ダンジョン攻略配信、動画配信、雑談配信、歌枠、そして同時視聴というものが存在するようで。

 この同時視聴というのは、リスナーとともにコンテンツの視聴をし、感想を言うというような配信である。


 正直、俺は以前までこの配信の良さが分からなかった。

 著作権故に音も映像も流せない状況で、これを見ているだけの配信者を見る。

 そのリアクションだけを視聴することの何が楽しいのか。


 楽しいのである!


「というわけで予告通り! 配信者歌合戦? 歌謡祭?を見ながら年を越すぞー! ペッパーどもー! お肉どもー! 準備はいいかー!」


※『いえええええい!』『年越しだー!』『楽しみー!』


「みんな、配信者歌謡祭は別窓で開いた? スマホだから別窓できない? その場合はこのアプリを使うか、WEB用ブラウザで開いてねー。はいスタート!」


『皆様、今年も一年お疲れ様でした! 今宵は歌って騒いで、今年最後の大イベント! 配信者歌謡祭でございます! 楽しんで参りましょう!』


 蛙飛クロロという女性配信者が司会を務める。

 現代魔法を用いたカエルの能力再現により、ダンジョンで活躍する異色の個人勢だ。

 実は元、民放の女子アナだったという経歴持ちで、そのコネをフル活用してこのイベント開催にこぎつけたのだとか。


 それもなんと、今回で第五回!!

 最初はごくうちわの小さなイベントで、それが回を重ねるごとに注目を浴び、第三回からは企業が協賛。

 第四回から迷宮省も全面バックアップすることになった。


 そして第五回。

 ついに巨大なホール会場を貸し切りにしての開催だ。

 いや、本当に素晴らしい。すごい。


 やり手だよなあ。

 クロロの中の人を知っている俺としては、引退してもこうやって活躍できる場所を提供する、配信者というスタイルは有りだなーと思う。

 テレビの中の芸能人は、年令によって自分の売り出し方を変更していかねばならなかったりするものだ。

 だが、そう簡単にやり方を変えられない人もいるわけで……。


 そういう人たちがアバターを纏うことで、若い頃に培ったスキルを活用できる。

 それが配信者なわけだ。

 アバターを被ると、どういうことか身体能力は全盛期のそれに戻るらしいし。


「クロロさんはねー、スパイスはデビューした十年前から知ってるけど、本当に配信者で活動できるようになってよかったよねー」


※『十年前って俺まだ幼稚園なんだけど!』『そんなにベテランなの!?』『中の人の話はご法度だゾ』『スパイスちゃんは幼女のはずだから十年前なんかない』


「わはは、オフレコってことにしてくださーい! あー、ここ切り抜かれるなあ。それでね、今日はクロロさんの相方の司会がみんなも知ってる人で……。あ、出てきた!」


『ヒャッハー!! みんな、年忘れイベント、楽しんで行こうぜぇーっ!!』


「いいぞー! チャラウェーイ!!」


 俺はやじを飛ばした。

 魔導書たちも、やんややんやと後ろで騒ぐ。


※『スパイスちゃん個人の同時視聴配信なのにやたら賑やかだw』『魔導書元気だなーw』


「魔導書は基本的にお祭り好きだからね」


※『そうなの!?』『もっと落ち着いた性格かと思ってた……』


 そうなのだ。

 少なくともフロータは根明で、イグナイトは声と喋り方こそ特徴的なもののジョークを愛する明るいおじさん的人格だ。

 他の魔導書はどんなキャラクターしてるんだろうな。

 楽しみだ。


 だが、魔導書を手に入れるために他の魔女と死闘を繰り広げなければならないので、ちょっとしんどい。

 せめて対策を練る時間が欲しいもんだ。


※『スパイスちゃん長考に入りました』『配信者は30秒黙ってたら放送事故だぞw』


「あっ、ごめんごめん! 他の魔女の対策のこと考えてた! あと六人敵がいるからねー。こうやってスパイスが配信することで向こうをちょっとずつ引きずり出して、各個撃破していきたい!」


※『いいね!』『がんばれ!』『だが配信でそれを口にするのはどうだろうかw』『手の内見せてるじゃんw』


「そりゃあもう、スパイスがこう言うことで、向こうはスパイスの言葉は本当かな、嘘かなーって疑うじゃん。疑わないで来た炎の魔女はバッチリ対策してやっつけたし!」


 スーパーモデルであるフレイヤは行方不明になった。

 何故か捜索も行われること無く、彼女のいた国からも抗議などは全くない。

 ファンの人達の残念がる声とか、国が彼女の失踪を調べる動きさえ見せないことに訝しがる人などはいる。


 それに関する陰謀論も流れていたが、年末になったら忘れられ始めて来ているようだ。


 おっと、同時視聴に戻らねば。

 次々と、歌謡祭のゲストの人たちが紹介される。

 審査員というわけじゃなくて、本当にゲストとして来てるだけみたいな。


 歌うゲストと、見てるだけのゲストがいるんだそうだ。

 まずは迷宮省長官が挨拶した。

 やっぱあのバイクの人、長官だったんだなあ。


 スーツを着ているとビシッと決まっている。

 いやあ、実に強そう。

 生身でも普通の配信者より強いんじゃない、この人?


 そしてお次は……。


「おっ、声優の野中さとなじゃん。人気だよねー」


※『さとなさんかわいい!』『俺すき』『声すきー』『配信やってくれないかなー』


「声優さんは配信者向きだよねえ。喋るの得意そうだし。それで次は……」


『そしてサプライズゲストです! 今年度の配信者と言えばこの人! 全世界を震わせた、アメリカでの配信は記憶にも新しいことでしょう!』


「盛り上げてくるねー! もう誰が来るか分かりきってるけど!」


※『はづきちゃんだ!』『緊張して座ってる!』『かわいいー!!』


 めっちゃキョロキョロしてる。

 自分が紹介されるって分かってない。


『紹介しましょう! もはや新人ではない大物配信者! きら星はづきさん!!』


 スポットライトが彼女に当たった。

 ピンクの髪をした女の子で、今日は歌手の衣装みたいなドレスを身に着けている。


「今年は凄かったよねえ。なんか、配信者界で最大の事件が起こった年だったんじゃない? はづきちゃんがさ、アメリカに行ってそこにいた大罪? っていう最強のデーモンを倒して、カリフォルニア州を解放したやつで」


※『凄かったよね!』『飛行機がきら星はづき号になったの震えた』『今の時代のヒロインじゃん』『やばいよね』


 恐らく、今年度もっとも派手に活躍したのが彼女だ。

 現役女子高生らしいが、真相は分からない。

 だが俺は、彼女の仕草や喋り方から、本当に見た目通りの年齢だろうと予想した。


 案外、この間行った名門女子校に通っているようなお嬢様かも知れない。

 なんとなく細やかな動きが上品だし。


「はづきちゃんが表で派手にやってくれてるから、スパイスは裏で好きなことできるっていうのはあるねー。敵の魔女もはづきちゃんを無視できないし。万一間違って彼女と当たったらヤバいもんね!」


※『スパイスちゃんと戦う前にやられちゃう!』『ゴボウ一閃だ!』『スパイスちゃんとはづきちゃんのコラボみたいなー』


「ははは、スパイスはおじさんだから事案になっちゃうなあー」


 そんな話をしつつ、彼女の存在も利用して魔女との戦いをやっていくのはいいな、と考えるのだった。

 世界を動かすような規模のことを彼女はやっている。

 なので、その余波だって小さくはない。


 これを読み切り、利用して、個人的なバトルを有利に進める。

 今後、配信活動を進めていくためには必須のやり方だろう。


 時代の流れを読むのは、やり手のおじさんの必携スキルなのだ。


「あっ、フロータが沸かしてくれたお湯ができたみたいなんで、スパイスは年越しそば食べまーす! おそばASMRだぞ」


※『助かる』『助かる』『助かる』『私もおそば呼ばれた! 行ってくるね!』『いってらっしゃ~い!』


 まあ、この同時視聴配信そのものは、和気あいあいと進んでいくのでありますが。


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