第41話 大晦日の会議
「今日は一日、外に出ないでダラダラと過ごす。大晦日に外出してせかせかするなんて人として何か間違っているからな」
俺がそう宣言すると、フロータとイグナイトがやんややんやと盛り上がった。
なんだかんだ言って魔導書はインドア派なのであろうか。
本だし。
『それじゃあ屋内でできる魔法の練習をたっぷりやらないとですね!』
『ん炎の精密なコントロールを伝授するぅ~』
「や、やめろー! 大晦日まで俺に努力をさせようとするんじゃない! おじさんというものは年に何日かは本当に何もしない休みが必要なんだ。あ、今回も暖房代節約のためにイグナイト・スパイスになっておく。メタモルフォーゼ!」
『ん焼結ぅ!』
変身、変身。
あまりにもメタモルフォーゼを繰り返したので、かなり精密な操作が可能になってきた。
具体的には、簡単なアクセサリーやリボンやスカートのタイプを変化させたりが自在にできるようになったのだ。
『好きこそものの上手なれですよねえ。あと、主様が手抜きのために覚えた遠隔フロートとリバースを活用した引き寄せ……。私としては自分の足で歩けえ!とか思いますけど、明らかに成長ですからね』
「必要は発明の母だぞフロータ。だが炎の魔法はまだ初級段階だから活用が難しいな……。燃やしたら防災装置が作動しちゃうし」
『ん無念』
仕方ない。
炎には厳しい時代なのだ。
俺は昼間をベッドの上でゴロゴロしながら、スマホを見て過ごした。
魔導書たちはネットサーフィンをしている。
『ほえー! 次々魔女がこないと思ったら、飛行機にしても船にしても料金がとんでもなく高くなってるんですねえ!!』
『んそうだぞぉ! フレイヤは大金持ちだからすぐ出せたがぁ、他の魔女はみんな一般人のふりしてるからそんな金がないィ』
重要情報が出たぞ!
俺は跳ね起きて、二冊に詳しい話を聞くことにした。
「魔女って海外に住んでるの?」
『大体一国に一人ですねえー。住処が被るとアバズレ同士で殺し合いしちゃいますし』
「なんて物騒な連中なんだ……。それじゃあ、あいつらは空路か海路でこっちに来るしかないわけだ。他が一般人だっていう情報はどこから?」
『んフレイヤが言っていたのだァ。他の魔女どもはあたしみたいに表の世界で光り輝いたりしないから、小娘一人狩るのに移動手段を必死で考える羽目になる! 雑魚だよねえ!……ということだぁ』
「野太い声でフレイヤの喋り方の真似されるの、なかなか来るものがあるな……」
つまり、魔女は頻繁には日本に来れない。
お金がないからだ。
あるいは密航などをする必要がある。
『主様、ダンジョンが発生して、そんなに国と国の間の移動が大変になったんですか?』
「そうだよ。特に長時間閉鎖空間にいることになる飛行機や船、長距離バスは危険だ。だからダンジョンが発生しにくいように結界を張ったり、護符を貼ったりするんだが……。大きい乗り物ほどたくさん必要だから高くなるし、基本そういう護符は使い捨てだし、乗せる乗客が多いほどダンジョン化のリスクは上るしで」
『ひえー、大人数を乗せるビジネスは壊滅ですねえ』
「そういうこと。ちょっぴりしか乗って無ければ、よほど高ストレスな環境じゃない限りダンジョン化はしないんだけどね」
魔女が呼び寄せたダンジョン化という災害が、逆に魔女たちの行動をしづらくしているということなのだな。
祖母と戦うために、魔女たちは集まったみたいだが……。
あそこで全力を使ってしまったために金欠となり、パラパラとしかこっちにやってこれない。
各個撃破の的である。
次はどいつだ。
「フロータ、個々で魔女がやってくるとして、厄介そうなのは誰だと思う?」
『精神の魔導書ですねー。こいつは放送を通しても人間の精神に働きかけるんで、ぶっちゃけると同接を直接減らしてくるやつです』
「うわあ最悪!!」
『ダンジョン配信者界という、現環境メタの魔女ですねえ。性格も陰険で用心深いので、いつの間にか上陸して嫌がらせしてくるみたいな感じになると思いますよ。ただ、対面できればワンパンです。物理戦闘力が全く無いので。先代様と戦った時は、普通に回りに操作できる人間がいなかったのでグーで殴り倒されてましたから』
「ははあ、なるほど……。他に人が多ければ多いほど強いと……。なるほどなあ」
『魅了に精神支配に記憶の書き換え、偽の短期記憶の植え付け、どれも強力ですよー。あとは物理的には弱いですが、マインドクラッシュという相手の精神を一時的に吹っ飛ばす魔法もあるので普通の配信者だと相手にならないんじゃないですかね』
「こわー」
『ん焼けばいい~!! 精神支配など軟弱ぅ~!!』
いきり立つイグナイト!
そんな、話し合いなんて野蛮なことはやめて穏便に暴力で解決を……みたいな事を。
ああ、でも、強烈な暴力は精神を歪めるんで、イグナイトの力で押し切るスタイルもありなのか。
暴力……やはり暴力は全てを解決する……のか?
そんな話し合いをしていたら、充電器に乗っかっていたフロッピーがピカピカ光った。
『お時間近いです』
「おっ、もうそんな時間?」
『何の時間なんですか?』
「早めの夕食だよ。この後しばらくしたら、配信者歌合戦の同時視聴があるんだ。で、それやりながら年越しそばを食べる。そば食いASMRだ」
何もしないつもりだったのに、真面目に作戦会議などやってしまった。
仕方ない。
ダラダラするのは正月にして、ここからは配信者モードで行こう。
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