第37話 聖夜といえば! 焼き肉とゲーム配信

 今夜はチャラウェイとのゲーム配信の約束もある。

 炎の魔女撃破に、イグナイト・スパイスへの変身に、マシロとの焼き肉。


 そしてチャラウェイとのクリスマスゲームコラボ!!

 盛り沢山な一日だったなあ。

 これまでの人生で、一番イベントもりもりだったかも知れない。


「うおー! タダ焼き肉! 先輩アザッス!」


「本当にそこは運動部っぽいノリだよなあお前」


 マシロと地元の焼肉屋に入った。

 ちょこちょこカップルで来てるのもいるが、大部分は家族連れだ。

 焼き肉クリスマス、ありだね。


 初手からビールで乾杯。

 ちょっとお高い肉を先に頼み、じゃんじゃん焼く。

 俺はまだかろうじて、肉の脂が辛くない。


 今のうちに食べておかねばな。


 俺もマシロも、米を頼まずにひたすら肉を詰め込む派だ。

 そしてビールで流し込む。

 二杯目から俺はハイボールに切り替えた。


 飲む、食う、飲む、食う、食う、食う、飲む。


「先輩! 黙々と焼いて食べ続けているのよくないんじゃないッスか!?」


「おっそうだな」


 マシロに言われて初めて気付いた。

 ひたすらエネルギー補給に励んでしまっていた。


「最近どう?」


「全然ッス……」


 そこで話題が終わった。

 マシロ、強く生きろ。


「あたしももう、配信者とか始めて自分の可能性に挑戦したほうがいいかなーって思ってるッス」


「危ないぞ……! 配信者は危ない。体が幾つあっても足りないレベルで危ない」


「先輩、まるで経験者みたいに……」


「……という話を聞いた」


「ふーん」


 疑われている!

 だが、どこをどうやっても俺が黒胡椒スパイスであるという事実にはたどり着けまい。

 そんな話をするうちに、酔いが回ったマシロがまた眠そうにし始めた。

 酔っ払うとすぐ寝るからな。


「ううーん、先輩~」


「なんだね」


「来年は……あたしの年にしますよう……」


「そっかそっか。応援してるからな」


 お会計を済ませて、タクシーを呼び。

 マシロと一緒に乗り込んで彼女の自宅に到着だ。


 送り届けるのも実質三回目。

 彼女のご両親にお礼を言われてしまった。


「あのー、先輩さんはお仕事とかなさっているんですか……?」


「あ、はい。まあ、自営業みたいな感じで……。でも不安定ですからね」


 何か良からぬ気配を感じた俺は、スッと回避策を取って逃げたのだった。

 マシロを頼むぞご両親!

 俺はこれからクリスマスコラボだ!


 途中、コンビニでおでんとサワーなどを買って帰宅する。


「ただいま! お待たせー!」


『主様、ギリギリー! 早く変身して早く!』


『俺をぉ~選べぇ~!』


「いきなりイグナイトしてたらリスナーびっくりするでしょ。それは今度、新衣装お披露目するからその時に取っておこうな」


『ん納得したぁ』


 物わかりがよくて助かるよ。

 しかし、帰ってきたら、フロータとイグナイトが完全に和解してるな。

 平和でよろしい。


 今後は二冊で、フロッピーを教育していくんだそうだ。

 英才教育だなー。


「では……メタモルフォーゼ・スパイス!」


 俺がスパイスの姿に変身。

 配信をスタートする。


 今回チャラウェイと遊ぶのは、パーティゲームだ。

 他にも二名の配信者が参加するんだそうである。

 誰だろう?


 俺は配信者界の知り合いなんかチャラウェイしかいないからな。


「どーもー! こんばわー! スパイスでーす! さっきぶりペッパーどもお肉どもー!」


※『きちゃ!』『こんばわー!』『一日二回行動してて偉い』


「うんうん、あのハードな配信の後でまた配信だからねー。しかもクリスマス! スパイスはみんなに娯楽を提供するよー! 今回はね、チャラちゃんとゲームでコラボ! 他の配信者さんも来るって!」


※『ツブヤキックスで見た!』『まさかあの有名人まで!』『大物コラボの中にスパイスちゃんが入ってて、俺誇らしいよ』


 なんだなんだ……!?

 そっちのチェックは全くできてないぞ。

 何せ、イグナイトのチェックとマシロと焼き肉を食べるのに必死で、ツブヤキックスなんか見る暇は無かったのだ。


 有名配信者とは一体……?

 ここでザッコが繋がり、俺たちのパーティゲームが始まった。


 スーパーオクノパーティーというゲームで、すごろく形式だ。

 有名キャラクター多摩川オクノと、彼の愉快な仲間たちが繰り広げる、スーパーピコーンワールド。

 このIPを使ったゲームというわけだね。


『繋がった? 繋がったかな? ウェーイ! みんな聞こえるかー!?』


「聞こえるよー!」


『繋がってまーす』


『聞こえてる聞こえてるー』


 おや……?

 聞き覚えのある声がする。

 俺がデビュー前にチェックしていた動画は、有名配信者のものがほとんどだ。

 ということは、残る二人は有名人なのでは?


『じゃあ自己紹介してくれよな! ヒャッハー! 一番手は俺だけどなぁーっ!! 汚いダンジョンは炎で消毒だぁーっ!! チャラウェイだぜ!!』


『次は僕かな。みんなこんばんは。なうファンタジー所属、天より降り立った御使い、八咫烏だよ。ちなみに夕方まで寝てたから今はバッチリ目が冴えてる』


 八咫烏だー!!

 大規模配信者企業、なうファンタジーの男性配信者でトップに君臨する人物。

 スポンジ弾を発射する、スポーツシューティング用ライフル、ラーフを使ってダンジョンで活躍するその姿は、縦横無尽に天を駆けるカラスのようだ。


『はいはーい、最後は私。みんな、クリスマスも楽しんでいこうね? 熾天使バトラです~!』


 熾天使バトラ!

 配信者グループ・ジェーン・ドゥのトップを張る女性配信者だ。

 ダンジョンASMRという謎のジャンルを開拓した人物で、実際、ダンジョンでASMRを録るととてもいい感じのボイスになるのだ。


「ふおおおお、有名人ばっかだー! 緊張するー!」


『昼間の配信、寝起きで見たよ。スパイスちゃん凄いじゃーん』


『うんうん、私もびっくりしちゃったな。大型新人出てきたなーって』


 うーむ、注目されている……!

 いや、今後稼いでいくためにはちょうどいいのか?

 このコラボゲーム、名を売るために利用させてもらおう。



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