第36話 変身、炎の姿イグナイト・スパイス
来た!
戦った!
勝った!
というわけで、炎の魔女フレイヤを撃破した俺。
「いやあ……一歩間違えたら大変なことになる戦いだった。チャラウェイと同接に感謝感謝だなあ」
『ほんとあのヒャッハーはいい人ですよねえー。お陰で我が陣営に炎の魔導書が加わりました。おい! 炎の魔導書! なんか言ってみなさい! 負けてみてどう? 今どんな気持ち!?』
「表紙のへりでツンツンするのやめてあげなよ」
ここは帰宅した後の我が家。
今日は大変疲れたのでお別れし、後日一緒に打ち上げしようという話になっているのだった。
なお、今日の夜にはチャラウェイとクリスマスのゲームコラボをするぞ。
で、自宅で変身を解いた俺の前で、フロータが炎の魔導書に洗礼を浴びせている。
『こら魔導書! イグナイト!』
『ン黙秘するぅ~!』
「えっ!?」
野太い男の声がした。
魔導書って男性人格のもいるんだな!?
『あんたさー、あんなアバズレにいいように使われて恥ずかしくないわけ!? 魔女の風格もない黒魔女じゃない!』
『炎が出せればそれでよしぃ~!!』
『コラーッ!!』
フロータのストンピングを、スッと横に動いて回避する炎の魔導書イグナイト。
フロータがテーブルに激突し、『ウグワーッ!?』と女子らしからぬ悲鳴をあげた。
そしてイグナイトはふわりと舞い上がり、喋るAフォンたるフロッピーの背後に移動した。
『大人しくしろぉ~! お前の妹は泣いているぞぉ~!』
『お姉様ー』
『き、汚いぞイグナイト~! 主様、あの生意気なイグナイトに折檻を加えてくださいー!』
「仲がいいなあ。Aフォンまでちゃんと茶番に付き合うとは……」
大変感心してしまった。
「それでイグナイト。これから俺と契約する方向でいい?」
『一向に構わぁん! 魔導書としての代表はフロータに一任するぅ~!』
「おっけーおっけー。では契約……」
『契約の証にぃ~! 変容の断章を差し出すぅ! フレイヤが星の外にふっとばされた時に俺がちぎり取ってきた力の一端であるぅ!』
「変容の断章、そんな形でも増えるの!?」
俺の眼の前に、魔女としての力がコントロールパネルの姿で出現する。
変容の断章を、断章2のスロットに差し込む。
変容の断章3になった。
気分次第で『メタモルフォーゼ』とふりがなも振られることがあるので、読みは曖昧だな。
「よし、では試してみるか! メタモルフォーゼ・スパイス!」
魔法の名を唱えると、俺の眼の前に表示が出てきた。
→ ◯モード・フロータ
●モード・イグナイト
「おほー、なんじゃこりゃ。じゃあ……」
→ ◯モード・イグナイト
選択した次の瞬間、足元から炎のようなエフェクトが螺旋のように巻き上がった。
これが俺の体を包み込み、変身させていく……!
そして変身終了!
エプロンドレスの色が赤とオレンジとイエローに変わっている。
姿見には、黒髪にオレンジのメッシュが入った、炎カラーのエプロンスカートなスパイスが映っている。
「な、な、なんたることだー!」
『カワイイー!』
フロータが部屋中を飛び回った。
そして、イグナイトの姿はどこにもない。
『イグナイトと合体した状態ですねー。魔導書が増える度にこのモードが増えますよ!』
「そっかー。魔女って凝ったシステムしてるんだねえ」
『いーえ、私も千年以上生きてきて初めてですよー! 全然仕組みが分からん、なんだこれ』
「な、なにぃーっ」
とりあえず、謎のパワーが湧き上がってきているのは分かる。
今なら炎の魔法がかなり使えそう。
ホログラムみたいな形で炎の魔導書が浮かび上がり……。
パラパラとページがめくれた。
あっ、30ページくらいまでしかめくれない。
こっちも精進しないと使いこなせませんか。そうですか。
『主様がっくりしないで! 私の新たなる力、第二章が使えるようになってますよ!』
「あ、そっちは朗報!」
『リバースです! 狭い範囲の重力や電磁気力、弱い力と強い力を反転させます』
「とんでもないことを言ってない? 大丈夫? この魔法のどこが浮遊なの……?」
『あれ? 浮遊の魔導書は空間を構成する力を自在に操る本だと説明したはずですが……』
「されてないよ!?」
『あっ、フロータったらうっかり! まあごく小さな範囲に留まりますし、一歩間違えると核爆発みたいなのが起きるんで重力だけにとどめておいた方がいいですねー』
「こわあ」
第二章でとんでもない魔法を解放するんじゃないよ!
スパイスまで巻き込まれて死ぬやつじゃん!
それに、浮遊の魔導書なのに、まだ自在に飛行するフライトなんかが開放されない。
もったいぶるなあ。
「そんなことよりも! 今日はクリスマスなのだった。ちょっと我が後輩にお礼をしておかねば」
『そうですね! ナイスなアイデアもらいましたもんね!』
マシロに電話を掛けようとして、今がスパイスの姿である事を思い出した。
いかんいかん。
少女の声で話し始めるところだった。
元の姿に戻ると、イグナイトがパサッと床に落ちた。
『ン力尽きたァ』
『主様との融合は魔導書のパワーも消耗するみたいですねー。普段は分離モードでイグナイト形態を運用ですかねこれは』
『ん問題はなァい。炎をたくさん生み出せば回復ぅ』
「住宅地で炎を生み出すのダメだからな」
『無念ン』
個性的なやつだが、コントロールしきれないとフレイヤみたくなっちゃいそうだな!
俺はイグナイトをそっと難燃性の布でくるんで本棚に差しておいた。
そこでお休みしているがいい。
その後、マシロに連絡だ。
『先輩? どうしたんスかクリスマスに』
「マシロ、急で悪いんだけど、ご両親とクリスマス過ごす予定ある?」
『いやー、そんな年じゃないですし、何より身を固めろって超うるさいからちょっとウザいんスけど』
「そっか。じゃあ夜から俺とクリスマス焼肉パーティに繰り出さないか?」
『クリスマスに焼き肉!? それ、もしかして……』
「俺の奢りだ!」
『行くッス!!』
話は決まった。
俺とマシロのクリスマスは、焼肉屋で過ごすことになりそうだった。
『ロマンっちゅうもんが主様には欠けてるんですよねえ~! あー、もどかしい! 早く他のロマンが分かる魔導書を集めて主様をプッシュしないと……!! やっぱ男女の感情の機微は精神の魔導書かなぁ!』
何をプッシュしようと言うのだ。
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