第30話 あいつは見境がない
スーパーモデルのフレイヤは、本日は新宿のイベントに招かれてファッション関係の話をするのだそうで。
俺はそういうのに興味がある女子たちやカップルに紛れて、会場を眺めるのだった。
場所は特設ステージ。
クリスマスだから、派手にお金をかけてファッションイベントをやっているんだなあ。
俺の今まで知らなかった世界だ。
フレイヤには通訳の人がついて、それっぽく喋っている。
「フレイヤは日本語できるの?」
『全然喋れないと思いますよ。そもそも日本のことバカにしてますねー』
「ひゃーいけすかねえ女だあ」
『主様、今すっごい顔しました? 見えないけどなんとなく分かりまーす!』
フレイヤは北欧出身のモデルで、すらっと長身、白人らしい彫りの深い美貌に長い脚、洗練された身のこなし……と、およそモデルと聞いて想像する姿の全てが詰まっている。
しかも口調もなんとなくエレガントで、なるほど人気が出そうとは思う。
だがその中身は性格が悪い堕ちたる魔女なのだ。
「ずっと通訳を通してお洒落なこと言ってるだけで、全然魔女っぽいこと口にしないな」
『そりゃあそうですよー。あいつだって若いけど一応は古い魔女の側に入りますからねー。表立って行動を起こしたら今まで積み上げてきたものが台無しになるって普通は分かりますし。普通は』
そんな話をしていたらだ。
フレイヤが談笑しながら会場を見回し……。
俺と目が合った。
おやあ?
これは……。
『あー、見つかりましたねー。あっちも顔には出しませんけど、かなり驚いているみたいです』
「そりゃあ、標的が自分から見えるところにやってきて見物してるとは思わないでしょー。いえーい、フレイヤ見てるー?」
俺はギャルピースしてみせた。
一瞬、フレイヤのこめかみに青筋が浮かんだ気がする。
『あっはっはっはっは! やりますねえ主様! いえーい、炎の魔導書見てる~? 見えないところに置かれてるかー! 私は主様と一緒にアバズレの前でお喋りしてまーす!』
公衆の面前で、魔女としては大っぴらに力を振るえない。
これを利用して、俺たちはちょっと挑発をしておくのだった。
後々、誘うにしても仕掛けるにしてもやりやすくなるだろう。
上から目線で、こちらを初心者魔女だと思って慢心してる相手が、怒りでさらに冷静さを失うからだ。
ただ、俺の誤算があった。
相手は後先なんか考えない……アホだったのだ!
「キャーッ! ステージから煙が!」「えっ! 火事じゃない!?」「燃えてる! なんか燃えてるよ!!」
フレイヤは直情径行で、カッとなったら後先考えずに仕掛けてくるヤバい魔女だったのである。
『あっはっは、思った以上におバカでしたねー!』
「笑い事じゃないぞ! フロータの言ってた命の盾状態になるでしょー。そういうの、スパイスはどうかと思うなー」
『じゃあ飛んで、標的っぽくなっちゃいましょうか主様!』
「いい的じゃん!」
そう言いながらも、メタモルフォーゼでスパイスの一張羅、エプロンドレスのミニに変身!
ふわっとレビテーションを使って浮かび上がるのだった。
「あっ! 女の子が飛んでる!」「なんだなんだ!?」「うわーっ、ステージから火柱が!!」
特設ステージは完全に炎に飲まれていた。
その中でフレイヤが一人、凄い形相をしてこちらを睨みつけている。
良くわからない外国語で呪文を唱えているな。
これはヤバイのでは?
『主様! スパイラルは本来守りの魔法ですので!』
「あ、なーる! 捻じ曲げろ、スパイラル!」
次の瞬間、スパイスめがけて飛んでくるでっかい火の玉!
火柱一つが持ち上がり、飛翔してきたのだ!
とんでもないことするなあ!
だけど事前に張ってたスパイラルが、これを空間ごとねじって別方向に飛ばした。
うわーっ、道路に着弾してる!
流石に燃やすものが無いので、道路を溶かしながら鎮火していった。
とんでもねー!
それだけでは終わらず、火柱は次々吹き上がり、周囲に燃え広がっていく。
「フロータァァァァァ!! 魔女のガキがぁぁぁ!!」
あっ、なんか理解できた。
『魔法語ですねー。おや、消防車が出動したみたいですよ!』
俺はと言うと、飛ばされてくる火柱を次々にスパイラルで受け流す。
周りは大惨事なんだが、火柱を人の上に落とさないことで人的被害をゼロにしてるんで勘弁してもらいたい!
いやあ、フレイヤ、本当に見境がないな!
それにこっちも防戦一方だ。
なんか疲れてきたし……。
『あっちは炎を作れば作るだけ、そこから魔力を供給できるので実質無限体力ですね』
「ずるじゃん! チートじゃん!」
『タチが悪いんですよねー! ほんと、あの炎さえ絶てれば勝てるんですけどー』
どうやらそこが勝利の鍵になりそうだなあ。
俺がどうにか踏ん張っていたら、ついに消防車が到着した。
炎上する会場めがけて、放水が行われる。
フレイヤも流石に不味いと思ったか、それともやりすぎたと思ったのか。
急に真顔になって、炎が上げる煙の中に姿を消したのだった。
いやー、敵情視察のつもりが、交戦してしまったな。
飛んでるのとスパイラルがあったからどうにか持ちこたえられたが。
「誰にも被害が出ない戦場を作って誘い込まないといけないな。どうしたらいいかなあ」
俺が考え込んでいると、わあわあと野次馬が騒ぎ出した。
あっ、まずい!
こっちも公衆の面前で飛びっぱなしだった!
慌ててレビテーションにアクセルをかけ、俺は新宿駅のてっぺんまで移動したのだった。
『配信で同接が乗ればもっと勝負になると思いますけどー。でも被害が出ないなんて言ってもですねー。先代様は山の中で戦いましたけど、そういう人里離れた場所でなければ』
「東京の23区内にいるんだから、ほぼ全て人里だぞ。人気がないなんて言ったら、それこそダンジョンしか……あっ」
『誘い込みますか、ダンジョン!』
「それしかないかあ!」
対炎の魔女フレイヤ作戦、練り込んでいかねばなのだった。
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