第28話 収益化と敵の来日

 12月も後半に突入した頃合いに、ついに収益化達成!!


「やったー!!」


『やりましたー!』


『おめでとうございます』


 フロッピーも何を他人事みたいな言い方しているんだ。

 Aフォンの撮影のおかげである。


 俺はコンビニで買ってきたサワーの缶をプシュッと開けると、ぐいぐい飲んだ。


「あーっ、酒がうめえー! ついに……ついにだなあ。ファン箱でサブスクはしてもらってたけど、やっぱり配信でサブスクしてほしいもんなあ」


『そう言えば主様はずっとそのこと気にしてましたけど、何か違うんですか? 投げ銭くらいしか分からないんですけど!』


「そうだなあ。スパチャもだけど、月間の会費を払ってもらってメンバー会員になってもらうと、俺のスペシャル配信が見れたりとかするようになるんだ。これはまあ、例えば配信前のリハーサルとかそういうのでもいいんだけどね」


『ほえー、なるほどー! つまり、配信者とより親密になれるみたいなコンテンツなんですねー。なるほどなー。主様どこのメンバーにもなってないから分かりませんでした!』


「昔はなったりしてたけどねえ……。その配信者が引退したりダンジョンで行方不明になったりして……」


 ダンジョン配信というのは危険に満ちているし、肉体的に限界を感じたら引退したりも多いので、とにかく顔ぶれの入れ替わりが激しい!

 この業界で三年以上続けていられるだけで古参面できると言えるだろう。


「つまみのチータラも美味い。こういう料理も、ダンジョン全盛の世の中で流通を頑張ってくれている人たちのお陰だなあ」


『あー、そうなんですね! 運搬してるトラックがダンジョンになったりはしないんですか?』


「昔はあったらしい。だけど、そういう流通の仕事をなるべくノーストレスにする方向で世の中が変わったんだってさ。今は短距離運送ならドローンもあるし、大人数で道路を遠征する……なんてことがほとんど無いから道はまあまあ空いてるし」


 トラックドライバーは道程の途中にダンジョンが発生していない限りは、とてもホワイトな仕事になっているのだ。


「それはそうと、配信を始めるかな……」


『お酒片手にですか? 凍結させられません?』


「……おじさんを公言してても、見た目がスパイスなら配信飲酒は控えた方がいいか……」


 俺はサワーを飲み干してから、チェイサーで水を飲んだ。


『飲み干すんですね?』


「開けた瞬間から酒の劣化は始まっているのだ。さて……メタモルフォーゼ・スパイス! おぉ~! スパイスになると酒の回りが早い気がするよー!」


『肉体的にちっちゃくなってますからね! 肝臓の機能は主様のままですし!』


「な、なるほどぉ~! それじゃあ配信スタート! あ、フロッピー、背景はこの間ペッパーどもが描いてくれたやつ使ってー! お洒落なスパイスの部屋の!」


『かしこまりました。これかな?』


 背景が切り替わる頃合いで、配信スタート!


「どーもーっ! こんちゃー! スパイスでーす!! 今日は収益化記念配信! みんなありがとー!!」


※『こんちゃー!』『スパイスちゃん今日もかわいい!』『ちょっと顔赤い?』『背景がこの間募集してたやつだ!』『ほんとだ! ファンシー!』


 俺のバックに広がるのは、リスナーが描いてくれたスパイスの部屋をAフォンに取り込んだもの。

 今回はふわふわもこもこのクッションやソファがある、カワイイ女の子の部屋……。


※『ファンシー&アポカリプス!』


 なにっ。

 俺は慌てて画面を確認した。

 それは……。


 ファンシーなソファや棚があると同時に、チャラウェイっぽい木造の十字架やスパイクがついたバギーが鎮座しているカオスな部屋の背景だった。


「フロッピー!」


『ミキシングしてみました』


「しないで!?」


『かしこまりました』


 アポカリプス世界一色に染まる背景。


※『うわーっw!!』『大変なことに!』『スパイスお前チャラウェイのものになったんか!』『染められちまった……』


「違う違う違う! 逆だーっ!」


『失礼しました』


 ファンシーな背景になった。


※『さっきから画面外で喋ってるの誰』『ロボットっぽい声!』『ドジっ子なことは分かる』


「うちのAフォンが喋るんだよー。フロータの妹分でフロッピーって呼んでるんだ。あっ、スパチャだ! みんなありがとー! 後日メンバーシップ開設もするからね! そっちではスパイスの配信リハーサルとか、配信前の準備とか見せちゃう」


※『うおおおお素顔のスパイスちゃん』『素顔はおじさんでは?』『スパイスちゃんは幼女だろ』


 当然メンバーシップで見せる姿も演技だよ!

 普通のおじさんが酒のんだり弁当食ってる姿見て面白いか?

 いや、面白い配信者もいるな……。


 だが、俺は魔女なのでちゃんと魔女としての筋を通す。


「スパイスがお弁当を食べる姿も配信します」


※『うおおおおおおお』『うおおおおおおおお』『待ってた』『助かる』『もぐもぐ助かる』


「なんだこいつらー!? うわああああ高額のビッツありがとー!」


 ビッツっていうのは、ツイッピーにおけるスパチャのこと。

 投げ銭ね。

 これ凄いぞ。

 スパイスがカワイイ仕草をするだけで、どんどん送られてくる。


 誰だ、スパチャは収益のほんの一部だなんて言ってたやつ。

 洒落にならない量じゃないか!


『主様はカワイイですからねー。すっかりご自分のカワイさに慣れてしまっていますけど、端から見るとけしからんくらいカワイイので、ちょっとした仕草が投げ銭を呼びますねー』


※『フロータちゃん来た!』『背表紙カワイイ!』


「何を言ってるんだお前ら」


『えへへー、ありがとうございますー!』


 喜ぶのか!

 だけど、さらにビッツが投げられてきたので、これはまあファインプレーであろう。

 よし、このお金で焼き肉食いに行くか!

 マシロも誘ってやろう。


 ホクホクしている俺、心なしか酔いも回り、いい気分になる。

 コメント欄とのやり取りも楽しい。


 そんな時、フロッピーがニュースを表示する。


『主様、報告です。炎の魔女が来日しました』


「あっ、ついに? ごめーんみんな! 配信はここまで!」


※『えー!』『炎の魔女ってなに?』『何の話?』


 俺は画面に向かって指を立てながら、ウィンクして見せた。


「スパイスの宿敵だよー」


 俺は何もかも公開で配信しながら、戦っていくと決めたのだった。

 だって、その方が受けそうだから。



 

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