第27話 コラボ、美少女とヒャッハー!

「どーもー! こんちゃー! 魔法少女系配信者おじさん、黒胡椒スパイスでーす! 今日はなんとビッグゲストとコラボだよー! いえーい! チャラウェイさんのリスナーさんみってるー!?」


※『うおおおおお』『うおおおおお』『こんちゃー!』『うおおおおお』『あのチャラウェイとついに!』『スパイスちゃんかわいいー!』『美少女とヒャッハーだ!』『スパイスちゃんのセリフがNTRビデオレターするチャラ男のセリフなのよ』


 今日はやけにお肉勢が多いな……。

 チャラウェイ人気だな、これは。

 つまり、彼とコラボすることで新しい層をリスナーに取り込める可能性があるということだ。


 よーっし、スパイス頑張っちゃうぞー!


『内心でもスパイスちゃんが混じってきますねー。いいことです!』


「ヒャッハー! 今日はあの謎の美少女の正体! 黒胡椒スパイスとコラボだぜぇーっ!! モヒカンども、喜べーっ!!」


 チャラウェイのリスナーはモヒカンどもと呼ばれている。

 なんとなくうちのペッパーどもやお肉どもみたいな感じで、シンパシーを感じる……。


 さて、リスナーへの挨拶が終わったところでダンジョンの攻略をスタート。

 今回は古いお屋敷の近くにある、急カーブの道路がダンジョン化したわけだ。


「あー見晴らしが悪い。これは事故になりますわ」


「スパイスも分かる? これちょっちねーよなー」


「うんうん、スパイスはペーパードライバーだけど、一応免許取得者としてこの道の問題点はわかるなー!」


※『運転免許取得系幼女!!』『俺達を乗せてくれー!!』『妙なリスナーが多いぞ!』『なんだなんだ』『スパイスちゃん運転できるの!?』『ゴーカートじゃなく?』


 リスナーの年齢層が混在してるな……。

 いつもよりコメントも多い。


 見晴らしの悪い角を曲がったところで、俺たちの視界が急に切り替わった。

 道から、ダンジョンへ。

 そこは見晴らしのさらに大変悪い曲がり角が、無限に続く作りになっている。


 後ろから、ビビーっとクラクションが鳴り響いた。


「うおっ!! 車が突っ込んでくるぜ! させるかーっ!!」


 チャラウェイがどこからかバイクを呼び出して乗り込んだ。

 棘付きのバイクだ!

 それで真正面から車に突っ込んでいく。


 相手の車も、車体が半分ひしゃげ、あちこちにサビが浮き、乗り込んでいるドライバーはゾンビみたいな見た目になっているではないか。


「あの車がモンスターなんだねー。きもちわりー。あっ、チャラウェイさんがトマホーク(刃の部分がゴム製)で真っ二つにしたねー」


 勝利のヒャッハーが聞こえてくる。

 普段はあんなに常識人なのに、配信となるときちんとアポカリプス世界っぽいキャラを演じる。

 プロだ。


 俺も頑張るぞー!


「と思ったらこっちの曲がり角からもどんどん車が! ここは忙しいダンジョンですねー」


※『スパイスちゃん気を付けて!』『フォークリフトでも分が悪そうだぜ!』


「フォークリフトは本来戦闘用車両じゃありませーん! ということでスパイス、新技を披露しちゃいます!」


 俺めがけて、クラクションも高らかにノーブレーキで突っ込んでくる、廃車のモンスターたち。

 足を踏みしめ、そいつらに向かって手を掲げる。


「捻れろ、スパイラル!」


 ぐにゃっ、俺の視界が歪んだ。

 いや、俺の前の世界が歪んだ。


 そこに飛び込んできた廃車モンスターが、ねじれに巻き込まれてバーンッと跳ね上がる。そしてボンネットから道路に激突して、ひっくり返りながら横合いの電柱にぶつかった。

 後続のモンスターが次々にクラッシュし、クラクション音が連続して響き渡る。


 なんとうるさいダンジョンなんだ!


「うるせー! なんだここー!」


※『やりましたね主様! 新魔法大成功! 本来はああいう使い方しないんですけど、危ないから!』


「えっ? なんだって? クラクションがうるさくて聞こえなーい!」


※『射程距離が数メートルなんで、肉薄しないと使えない魔法なんて危ないですから単独で使う用じゃないんですよ! こんな使い方したの、主様が初めてですねー! いやー、勇気あるなー!』


「なんだってー!? 聞こえなーい! くそー、クラクションやめろー!」


※『フロータちゃんが洒落にならないこと言ってて草なんだ』『スパイスちゃん聞こえてなくてラッキーだなw』『後でアーカイブ見るんじゃない?』


 コメントをちらっと見たら、フロータの話を深堀りしないほうがいいことを察した俺なのだった。

 こんな時だけ念話してこないんだな!


 その後、この廃車モンスターはモノでもあり、フロートで浮かせられることを発見する。

 車を幾つか浮かせながら、上に乗ってダンジョンを進行することにした。


「スパイスやべーな! そんなでかいの浮かせられるのかよ! ヒュウ! それじゃあ俺も浮かせられたりする?」


「生き物は浮かせられないんだー」


「そっかー」


 本当に残念そうなチャラウェイなのだった。

 ここから、俺とチャラウェイの快進撃が始まった。


 何気に俺たちは相性がいい。

 スパイスのフロートを解いて車を落下させ、廃車モンスターの障害にする。

 障害物を飛び越えたチャラウェイが、頭上から火を吹いたりクロスボウを撃ったりして廃車モンスターを仕留める。


 なお、このクロスボウは先端が吸盤になってる安全な矢だけど、ダンジョン内では同接パワーでちゃんと矢として機能するのだ。


 あるいは、チャラウェイのバイクで翻弄した廃車モンスターを、俺が横から飛んでいってスパイラルして横転させる。

 横転したらまた浮かせて再利用。


※『ベストマッチ☆』『二人そろうと超つえー!』『スパイスちゃんも配信ごとにどんどん強くなる!』


「みんなのおかげだよー!」


 俺は撮影しているAフォンに向かって両手を振った。

 で、横にはスマホも浮いてるので、俺の配信が確認できるんだが。

 おやあ?


 背後からトゲだらけの超シャコタンカーが走ってくるではないか。

 乗っているのは、いかつい中年男性とケバい感じの女性だ。

 ダンジョンボスの怨霊と見た!


『どけやあああああ!! チンタラ走ってんじゃねえええええ!! 時速200kmで走れやぁぁぁぁぁ!!』


『あんたぁ、やっちゃいなよぉー!! 急がないと限定品売り切れちゃうんだからぁぁぁぁぁ!! 買い占めてマルカリに流して儲けるのよぉぉぉぉぉ!!』


「うわーっ!! 同情の余地なーし!!」


「すげえー。価値観がアポカリプスだわ! おし、じゃあやるか!!」


 俺とチャラウェイの共同作業、ラストだ!

 突っ込んでくるシャコタンカーにチャラウェイがクロスボウをぶっ放す。


 シャコタンカーはこれを、窓から投げ捨てたゴミ入りビニール袋で相殺したりする。


「最悪なガードだー!!」


※『真似してはいけないよ!』『マナーひでえw』


 で、俺が接近しようとしたら、運転席の扉が開き、空き缶に入った吸い殻がばらまかれて煙を上げて煙幕に……最悪だー!?


「スパイス、これあれだろ。ぶっころ案件じゃね?」


「同意ー!! 徹底的につぶそう!!」


 俺とチャラウェイのやる気マーックス!

 シャコタンカーの突進を回避しながら、俺は近くで潰れていた廃車モンスターを浮かせて……。


「あれー! 車、車体擦ってんじゃなーい? やーい、車のお腹ボロボロー!」


『んだとガキャァァ!!』


 挑発に弱すぎる!!

 突っ込んできたシャコタン怨霊を、浮かせた廃車をスパイラルさせて迎え撃つ!


 正面から回転する廃車に弾かれ、『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』とシャコタン怨霊がウィリーした。

 当然、車高が低いから後部の車体がガリガリ道路にこすりつけられる。


『お、俺の車がーっ!!』


「もっとキレーにしてやるぜぇーっ! ヒャッハーッ!!」


 ここに、後ろからバイクに乗ったチャラウェイが突撃だ!

 バイクの先端に、回転ノコギリみたいなものがついている。

 スポンジの刃が、ダンジョンの同接パワーで本物の刃の強度を発揮する!


『ウグワーッ!!』


 オカマを掘って怨霊化したシャコタン怨霊は、オカマを掘られてスクラップになったのだった。


「話的にもきれいに終わったねー! ダンジョンが解けていくよ!」


「いやー、新しいタイプのダンジョンだったぜ! だが俺たちは最強のタッグだからな!」


「うんうん! 相性いいねー!」


※『スパイスちゃんがチャラウェイと好相性!?』『絵面的には事案!』『だがおじさん同士なんだよなあ……』


 そうだね!

 ということで、俺とチャラウェイのコラボ名は『チャライス』となり、この配信は大変な好評を博すのだった。


 そしてついに……。

 黒胡椒スパイス、配信収益化……!!


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