第18話 探せ断章! 浮遊禁止の配信
『さっきから主様浮いてませんねー』
※『出た! マスコットのフロータちゃん!』『声かわいいー』
『えーっ、本当ですかぁー? うふふありがとうございますー』
「魔導書が照れてる」
※『スパイスちゃんも声カワイイから、ダブルだと脳が溶けるー』『二人でASMRやってほしいなあ』
ふむ、その手が……。
『主様、ASMRとは?』
「レビテーションに関する話題がどっか行っちゃったけど、解説しよう! ASMRっていうのはね、耳元で囁くみたいな音声でサービスするやつ。脳が溶けて死ぬよー」
『ひえー精神攻撃!!』
※『カスの嘘教えてて草』『スパイスちゃんいい性格だw!』『えっ、ASMRってそうだったんだ』『こわあ』『おいやめろキッズが信じてる!!』
ネットで流れてくることを鵜呑みにしたらいけないぞー少年少女たちー。
「で、今日は全然浮いてない理由なんですけどー。浮いたらパンツが見えるので、断章が手に入るまでは浮きませーん。縛りありです」
※『浮いてー!』『飛んで飛んでー!』
「BANされるでしょー! だめでーす! やれませえーん!」
コメント欄とわあわあやり取りしながら、ダンジョンを攻略していく。
同接があればそこまで難易度が高いダンジョンではない気がする。
ゴブリンゾーンを抜けたら、次はオークのゾーンに入った。
オークっていうのは直立したマッチョ豚モンスターね。
『ぶひーっ!』『ぶぶぶひーっ!!』『ぶうぶうぶーっ!』
「うるさーい! 横の襖を引っこ抜いて……おりゃーっ! 飛んでけアクセール!!」
回転する襖がぶっ飛んでいって、オークたちを巻き込む。
『ウグワーッ!!』
※『ナイスー!!』『結構使い勝手いいねその魔法』『武器を飛ばしたら強そう!』
「武器はねー。絵面がスプラッタになるからねー。スパイスの配信はもっと平和的に行くかなー。あっ、新しい敵が! よっしゃー、襖ぶっこ抜き! いっけー!! アクセル!」
※『平和的とは……?』『そっか! でかいもの投げた方がかっこいいもんね!』『いっけー!!』
コメントの年齢層がなかなか若い!!
俺がこれまで見てきた配信者が偏ってていただけだったのかも知れないが、ツイッピーは勢いのある若いっぽいリスナーが多いな。
これは、リスナーのコメントに流されないようにしないとな……!
と言う感じで突き進んでいたら、問題の箇所に到着。
そこはこのダンジョンのもととなった、夫婦の寝室なのだが……。
夫婦は怨霊化し、ベッドや車椅子と一体化したマシン昆虫っぽい外見になっている。
で、こっちを見つけると目を光らせ、『キシャーッ!!』と叫んで襲いかかってくるわけですよ。
「うーわー! 悪趣味な造形!! 誰だよこんな風に改造したのー!」
俺は叫びながら、別の部屋に退避した。
夫婦の怨霊は大型だったり小回りが効かなかったりで、その部屋の前を一次通過していく。
「それで、みんな気付いた?」
※『こわあー!』『めっちゃヤバかった』『なに、あの怨霊、見た目ほんとうにヤバい』『気付いたってなに?』『あっ、奥にもう一体いた!』
「そうそう! ここって、夫婦の家がダンジョンになったんでしょ? だからダンジョンボスは怨霊になった夫婦のはずなんだけど……。スパイスがここに来るきっかけになったのって、デーモンのお尻に断章が刺さってたからなんだよねー」
※『あっ』『デーモンがいるんだ!』『なんでいるの?』
「そう、そこ!」
俺は部屋を飛び出すと、夫婦の怨霊が戻って来る前に寝室に飛び込んだ。
寝室の最奥に、そのデーモンはいた。
前かがみの姿勢で、スパイスを睨んでいる。
見た目は紫色のガーゴイルみたいな感じか。
『グギョギョギョギョ……!』
デーモンっていうのは、ダンジョンのボスである怨霊がさらに進化したものだって言われている。
怨霊よりも強力で、倒したときに得られるダンジョンコアも多いんだとか。
だけど、こいつ、夫婦じゃないよね。
「なんでこいつ、ここにいるんだ?」
『つまりー、ダンジョン化したのは御夫婦が原因じゃなくて、このデーモンの仕業だったってことですねえー。あれれー? きな臭いぞー!』
※『フロータちゃんの名推理が始まるぞ』『ホントだ!』『あのデーモンが全部悪いってこと!?』『倒さなきゃ!』
浮遊してパンチラ要素がないと、大人しくなる勢力がコメントにいるな……。
穏当なコメントばかりだ。
だが、むしろ今はそれがやりやすい。
俺はここで、100円均一ショップ、アイドゥーで買ってきたお得用のボールペンセットを用意する。
『ギョワーッ!!』
デーモンが襲いかかってくる!
「浮かべ、フロート! そして迎撃射出、アクセル!!」
浮かべた五本のボールペン。
その尻を次々弾く。
すると、猛烈な勢いでボールペンが飛んだ。
三本は外れ。
だが二本はデーモンに命中!
『ギョアアアッ!!』
ダメージを受けて、デーモンの飛びかかりが鈍った。
俺は横にダッシュ!
見えた、デーモンの尻!!
だけど、すぐにデーモンは俺の方を向くから尻が見えなくなり……。
『うおおー! 私はこっちですよー! お尻ががら空きだあー!』
フロータが反対方向から叫んだ。
でかした!
『ギョ!?』
デーモンが慌ててそっちを向く。
よし、尻が見えた!
俺はジャンプと同時に……。
「前進、アクセール!!」
加速した!
デーモンの尻の断章に手が届く!
そして見事キャッチ!
それからデーモンの尻に激突!
「ウグワーッ!」
『ウグワーッ!!』
デーモンと二人でぶっ飛んだ。
ぶっ飛びながら、俺は魔導書の操作画面を開いているぞ。
ゴロゴロ転がりながら、メタモルフォーゼの断章が刺さったスロットに、新たな断章を……重ねてイン!
表示が、メタモルフォーゼの断章2になった。
「いてて……。いけるか……? メタモルフォーゼスパイス……スパッツ!」
すると……。
スカートの下が、ピシッと締まった音がした。
これは!
※『ああ~』『なんたるちあ』『いや、スパッツはスパッツで……』
変態紳士のペッパーどもが帰ってきた!
どうやら成功したみたいだ。
これで凍結やBANの危険は回避!
『主様、それはそれとして怨霊も戻ってきますよ! 一対三は変わってないですよー!』
「それはそれ。今は安心して飛べるようになったことを喜ぼう! それじゃあ、今万感の思いを込めて……レビテーション!」
ふわりと浮かび上がった俺の足元で、飛び込んできた怨霊たちと、飛びかかってきたデーモンが激突して『ウグワーッ!?』と鳴くのだった。
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