第17話 明らかにリスナーの顔ぶれが違う
晴れてツイッピーに転生した俺。
本日は予約したダンジョンの配信の日だ。
待機画面を見ていると……。
※『おじさんってマジ!?』『一発凍結笑う』『でもカワイくね?』『俺の方がカワイイ』
なんだ……?
コメント欄の年齢層が若いような……。
明らかにアワチューブのコメントは、それなりの年齢層が混じっていた。
だがツイッピーは若い。
具体的には十歳くらいコメントが若返っている気がするぞ!
『そこまで極端じゃないですけど、ツイッピーを主に見てる方は学生さんや女性の方に多いそうですねえー』
「フロータ、すっかり詳しくなって……」
『主様が情報収集なさっている間、私はずーっと動画見てましたからね!』
「勤勉なのか怠惰なのか……」
『今の時代ってほんとに楽でいいですよねぇ~』
「怠惰だった!!」
そういうことで、配信スタート。
今回のダンジョンは、自宅からいくつか駅を下ったところ。
いわゆる、都心への直通列車が出ない辺りだ。
ここで、老老介護の状態だった御夫婦がまとめて怨霊化し、ダンジョンになった物件が目的地です。
す、救いがない……!
訪問介護みたいにやってきた人が発見者で、その人は情報を流した後にダンジョン内で犠牲になった。
す、救いがない……!
配信者になると、そういう裏の事情みたいなのがどんどん入ってくるね。
これをいつも明るいコンテンツに仕立てて同接を集めてたの、本当にプロ配信者は凄いわ。
「よっしゃ、気持ちを切り替えよう! 幸いなことに無人駅。物陰なら無限にあるので……メタモルフォーゼ・スパイス!」
俺は素早く変身を終えた。
いや、変身すると白黒の螺旋が飛び出してきて光り輝くから、超絶目立つんだけど。
「あれ!? 今の光ってもしかして」
若い声が聞こえて、誰かが見に来た。
若い男女の一団だ!
あぶねー!
もう少しで見られるところだった。
『やっぱり変身を終えてから電車に乗ったほうがいいですねこれ』
「そうかもな……。でも出発時、お隣さんには二度見られてしまったからな」
『きっと覚えてませんからセーフですよ!』
「そうかなあー」
そんな俺たちを、男女が指さして「うわーっ!! スパイスちゃんがいる!!」と盛り上がった。
こ、こいつらリスナーか!!
「どーもーっ! こんちは! 黒胡椒スパイスでーす! もしかしてみんな、ペッパーどもなの?」
「そーっす!」「やだ、本物超カワイイんだけど!!」「おじさんだって思えねえー!!」「お肌すべすべ……ファンになりそう」
なんたるノリだ。
元の姿の俺ならば、勘弁してくれとなったことだろう。
だが……スパイスちゃんである俺は、この中で一番若い!!
「もしかして、スパイスが配信するって知って追っかけてきてくれたのー? 第二回なのにありがとー! ファンが増えてうれしー」
ニッコニコでちょっと体を傾けて、手のひらをパタパターっと横に動かす。
「かっ、カワイイ」
ノリのいい男子がなんか恋する男の目になって、隣りにいた彼女に肘で小突かれていた。
ははは、おじさん、君の恋を奪っちゃったかな!
ということで、現場まで彼らを引き連れていく。
ここから配信開始というところで、画面から退いてもらった。
「どーもーっ、こんちゃー! ツイッピーに転生しました、黒胡椒スパイスでーす! おおーっ、でも同接集まってんねー!」
※『うおおおおスパイスちゃんスパイスちゃん』『こんちゃー!!』『第二回目でかなりこなれてきてる!』
そりゃあな、何度もイメトレしたからな。
あとは、俺の精神を引っ張ってくれる黒胡椒スパイスと言うキャラクターに任せる!
「情報提供ありがとー! 今日はこのダンジョンに潜ってくねー。ダンジョンって見た目は普通の建物だからホントたち悪いよなー」
ここで、イエーイ、とか映り込んで来ようとする現場のペッパーどもを、フロータがガツーンと突撃して食い止める。
画面外から「ウグワー!」と声が聞こえた。
※『なんだなんだ!?』『もう戦い始めてる!?』『あ、現場に突撃したバカがいたんだ!』『配信映るのいいなー!』『よくないよ! 危ないんだって現場!』
そうそう。
配信者と同じ画面に映ろうとダンジョンに突撃したリスナーが犠牲になるの、普通に毎月ありますからね。
ダンジョンは洒落にならないくらい危険なので注意してもらいたい。
「それじゃあ行ってみよう! ごめんくーださい」
※『ごめんくーださい、かわいいw』『今日はパンツ見えるかな』『ばか、パンツのせいで凍結しただろ』『今日はパンツ見えないようにするための配信だもんな』
みんなわかってるー。
凍結は避けねばならないのだ!!
扉を開けたら、古びた木造の家の外見から想像もつかないほど広大な空間が広がっている。
半ば朽ちかけた黒い板張りの廊下はどこまでも続き、その横には無数の引き戸が並んでいる。
天井にはたくさんの裸電球が揺れ、昼の配信だって言うのに薄暗い。
「雰囲気たっぷりだねー。こわーい」
『ゴブブーッ!!』
「早速出たな雑魚ー! おりゃー!」
ゴブリンが横から出てきたので、俺は玄関に落ちていた靴べらでその頭をぶっ叩いた。
『ウグワーッ!!』
昏倒するゴブリン。
やっぱり、同接が集まっているとこのレベルなら脅威ではない。
配信者は同接を集めることで、とんでもない強さになっているのだ。
※『物理攻撃で行ったーw!』『魔法じゃないw』『スパーンといい音したなあ!』
「スパイスの魔法はまだ、物を飛ばしたりしかできないからねー。それにこのダンジョンは天井が低いから、飛んでいくのも難しそうだし。拾ったものを武器にしながら進んで行くよー!」
公式のAフォンなら、物品を収納できるらしい。
だが悲しいかな、我が家のは民生品のAフォン。
配信機能しかないのだ。
最近はフロータに教育されて、簡単な会話ならできるようになっているけどな。
で、喋る民生Aフォンって例は他に存在しないそうだ。
あれ? なんかおかしなことが起きてる?
まあ、配信中のAフォンは仕事に集中しているので静か静か。
『私の教育がいいですからねー! うーん! 妹ができた気分!』
「Aフォン、女性格なの……!?」
『どうなんですかね? でも教育すれば妹になると思います!!』
「この魔導書、Aフォン界に革命を起こそうとしてやがる」
念話でのフロータとの会話と……。
「あっ、ゴブリンがみっしり詰まってるー!! なんだこれー!!」
※『シュールだw!』『スパイスちゃん嬉々として床板剥がしてる!』『床板で攻撃する気だw!』
『ゴブゴブー!!』『ゴブァーッ!!』
「うおおお、ぶっ飛べ床板、アクセール!!」
『ウグワーッ!!』
配信も同時進行。
忙しい!!
このテンションのまま、断章を探しに突き進むのだ。
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