第16話 ツイッピーで情報収集

 ツイッピー。

 アワチューブと配信界を二分する、動画配信サービスだ。

 かつてはこの位置にネチョネチョ動画がいたが、徐々にアワチューブに水を開けられてしまい、そこにツイッピーが入り込んできた。


 アワチューブの配信は現在、多数の有名配信者を擁する企業勢が強い。

 対してツイッピーは、比較的個人勢がピックアップされやすい環境だ。


 ということで俺はツイッピーを新たな活動の場と定めた。


「みんなー! どーもこんばんは! スパイスでーす!」


※『いたー!』『スパイスちゃんだー!』『アワチューブ凍結されてどうなるかと思ったよ』


「うんうん、心配かけたね! もう考察とかが出回ってるみたいだけど、配信でパンツが映りすぎて凍結されたよ!」


※『w』『草』『なんちゅうことやw』


「なにわらとんねん! と突っ込んでと。ということで、しばらくはパンツが見えないよう慎重に配信しないとなんだよね。事情があって、スパイスのアバターはダンジョンのどこかに眠ってる断章が無いとスパッツを上から履けないんだ」


※『新しい設定が出てきたな……』『二回目にしてさらなる考察要素を叩き込んでくるぞ!』『全部パンツ絡みやないかいw』『アンスコでも良さそうだが、アンスコをパンツ判定して凍結するくらいアワチューブくんはアホだからな』


 俺が話した内容は本当だ。

 メタモルフォーゼの断章では、この黒胡椒スパイスの姿を作るだけ。

 そこをカスタムするには、さらなるメタモルフォーゼの断章が必要だという話だった。


 フロータいわく、『断章はダンジョンにあるって言っても、ずっとそこにいるわけじゃないんですよー。魔女の力に反応して、近くのダンジョンに移動してきます! そういう生き物みたいなものだと思ってください! だから主様が必要だーって思ったら、向こうから寄ってきますよ』なんだと。


「なので、それっぽい感じのダンジョン情報を求む! あ、スパイスは今のところ、変身するのと、浮いたり浮かべたりするのと、速度を早くすることしかできないからほどほどの難易度のところでー」


※『よしきた!』『まかせてー!』


 ツイッピーまでついてきたリスナーは、およそ200人。

 コメントをしてくれているのはそのうちの10人くらいだけど……。

 他人の力を借りられるというのはなんとも心強い。


 この登録者200人から再スタートだ。

 ツイッピーという配信サービスの特徴は、俺みたいな新規個人勢もランダムでトップページにピックアップされること。

 特に、冒険配信者は優先的に出てくる。


 ある意味、アワチューブ以上に可能性がある場所かもしれない。


 俺自身も、ダンミーをチェック。

 ダンジョン発見者からの写真情報や、今まさにダンジョンに取り込まれた人からの映像が貼り付けられている。

 これらを見て、配信者はダンジョンの危険度をチェック、向かうかどうかを決めるわけだ。


 中には、ダンジョン発生にたまたま遭遇してそのまま解決する配信者や、ダンミーに登録される前に攻略するRTAみたいなやり方をする配信者もいるようだが……。

 そういうのは例外中の例外。


 なお、配信者界では今、VR空間での活動が熱いらしい。

 ダンジョン攻略ほどの危険もなく、注目も集められるということで……。

 本物のダンジョンがちょっとおざなりになっている。


 お陰でよりどりみどりだ。

 いや、世の中的には治安が悪化するし、よろしくないんだけど!


「さて、どれがいいか……? よく分からないな……」


『向こうから寄ってくるとは言え、吟味はしたほうがいいですもんね! 強そうなダンジョンだと、まだまだ主様では難しいですからねえ』


「ほんとだよ。むしろ直接攻撃ができないのにダンジョン二つ攻略してるの、褒めてほしいよ」


『主様優秀~!! ホントですよ? 魔女見習いレベルをこれだけの期間で突破したの、主様が初めてですから。しかも自力ですよ!』


 同じようなことした人、他は死にましたからね、とボソッと言うフロータ。

 なんてことを漏らすんだ!


 この魔導書信用できるのか……?

 そう思っていたら、多分フロータよりは信頼できるんじゃないかというリスナーからのタレコミがあった。


 俺のツブヤキックスのDMに、『耳よりダンジョン情報です! ここ、犠牲者が最後に撮影した写真で、デーモンの尻にページみたいなのが刺さってます』


 犠牲者言うな。

 まだ生きてるかも知れないし、そうだったら助け出せるだろ。

 そして尻か……。


『うわーっ』


 フロータが嫌そうな声を出した。

 顔が無いくせになんて表情豊かな魔導書だ。


『間違いなくメタモルフォーゼの断章です! ですけど……なんてところにくっついたんですか……。あっ、パンツを隠すスパッツになれるから、アピールしてるんですね! なるほどー』


「断章ですら個性豊かなのか……」


 とりあえず、次なる目的地は決定した。

 その後、マシロから夕食のお誘いがあったので、二人で近場のファミレスに行ったのだった。


「先輩、どうッスか最近。あたしはもう、再就職で苦戦してて……」


「まだ失業してから一週間経ってないじゃないか。半年あるんだから焦るな焦るな」


「焦るッスよー! 職歴に穴を開けたくなーい! いや、ここで資格の勉強をする手もあるッスけど、並行して仕事は見つけたいんスよ。でも前の会社、死ぬほど忙しかった割にスキルとかあんま身についてなくて」


「その辺りの社員のスキルアップに無頓着な会社だったからな。潰れて当然だったのかも知れん」


 ひとしきり愚痴とか不安の垂れ流しを聞いてやったのだった。

 フロータ以外の人間と接すると、ちょっとホッとするな。

 魔導書がいるお陰で、日々会話があるのはいいんだが、精神性がちょっと人間とは離れてるからな……。


 今頃、家でネットサーフィンして遊んでいるに違いない。


「それで先輩はどうするんスか? ダラダラするんスか?」


「俺はな、ちょっと小さく起業してチャレンジしてみようかなって……」


「ほへー!! いいッスねえ! 上手く行ったら雇ってくださーい!!」


「人を雇えるほど稼げるかなあ……」


「お願いするッス! この通りッス!」


「わかったわかった。じゃあ上向いてきたらね……」


「よっしゃー! 親からも言われてるんスよねえ。仲良い先輩がいるんなら、そこに就職しちゃえって。先輩が起業してるって知ってたんスかね?」


 そ、それは別の意味の就職だろ!

 親御さんは俺とマシロの関係を勘違いしている。


 こうして情報収集の日を終えた俺。

 明日のダンジョン攻略に備えるのだった。


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