第19話 鎖から解き放たれたスパイスを見よ

 足元でぶつかり合うデーモンと怨霊。

 そうしたら、怨霊を構成するベッドや車椅子のパーツが壊れて舞い上がるよね。


 スパイスの手がそれに触れて、「浮かせて、レビテーション! これを、加速、アクセル!」まとめてデーモンに叩き込むのだ!


『ウグワーッ!?』


 強烈な攻撃を受けて、慌てて部屋の奥へ逃げ去るデーモン。

 すると、御夫婦の怨霊の動きが鈍くなった。

 あれ?

 もしかしてこれは……。


※『デーモンがダンジョンボスだったんだ!』『あいつをやっつければ!』『いっけー!!』『スパッツもこれはこれで』


 スパイスどもの中にセンシティブを愛するご年齢層高めが混じっているな……。

 こいつらはお肉どもと呼んでおこう。

 スパイスなしでは煮ても焼いても食えぬ連中めー。


 ともかく!

 部屋の中にあるもの全てが武器になる。


 壁に掛かっていた名画のレプリカが!

 タンスの引き出しが!

 床に落ちているステッキが!


 全部スパイスの弾丸だ!


「それそれそれーっ! ぜーんぶ加速してゴーゴーゴー!!」


『同接パワーで主様の力が強くなってますー! いいぞー! そこだー! やれー! つぶせー!』


『ウグワーッ!?』


「フロータが物騒だな……」


 だけど、実際にこちらの攻撃は着実にヒットしている。

 ゴブリンジャイアントや、以前の怨霊よりも効きがいい気がする!


『主様が魔女として成長なさっているからでしょうね! 断章を手に入れるのみならず、今ある魔法を自分のものとされてますから! あと、メタモルフォーゼの断章が2になったなら、ご自分の姿も全然違うものに変えられるように……』


「全然別のもの……? 例えば……メタモルフォーゼ、フォークリフト!」


 足元から白黒の螺旋が飛び出してくる。

 それがスパイスを包みこんで……!


 うおー!

 部屋の鏡に映った姿が、フォークリフトの被り物を身に着けたスパイスなんですけどー!!


「うおおおおおいくぞいくぞいくぞ、フォークリフトだあー! アクセルしてごー!」


 フォークリフトの被り物を纏い、突撃だ!


※『出たあああああフォークリフト!』『やっぱりあの魔法少女はスパイスちゃんだったんだ!』『いけー! 世界一カワイイおじさん!!』


 熱い応援に力がみなぎる。

 アクセルも加速する。


 デーモンは逃げようとするけど、スパイスの方が早いね!

 先端の固くなったフォークで、ガツンとデーモンにぶつかった!


『ウグワーッ!! ギャギャギャギャギャ、ウグワアアアアアッ!!』


「ぐわーっ、衝撃で今むちうちになりかけた!! 自分が突撃するのはなし! 今後はなし!」


 こっちのダメージも大きいんですけど!

 でもまあ、眼の前でデーモンが固まり、光の粒になって消えていく。

 あとにはコロンと、手のひらサイズのダンジョンコアが転げ落ちてきた。


『おお……わしらの姿がもとに……』


『ありがとう、ありがとうねえ……』


 後ろから声がした。

 振り返ったら、怨霊だった二人がおじいさんとおばあさんの霊に戻って、スーッと成仏していくところだった。


「お疲れ様でーす! よかったよかった」


※『こんな平和的にダンジョンが終わることあるんだ』『スパイスちゃんの人徳ー』『きれいな光景』『泣ける』『前々から思ってたけど、スパイスちゃんの戦い方は凄く計算されてる』


 鋭いペッパーどもがいるな……!

 限られた攻撃手段しかないからね。

 今いる環境で最大の攻撃は何だと考えて、いつも行動しているのだ。


 今後は当たったら痛そうな道具を揃えておかないと……。

 でもかさばるからなあ。


『主様、いつまでフォークリフトのままなんです?』


「あっ、これ自分で解かないとずっとそのまんまなの!? メタモルフォーゼ・スパイス!」


 もとに戻った。

 もちろん、スパッツ装着のまま!


 完璧じゃないですか。

 あと、メタモルフォーゼの使い方がよく分かった。

 これ、全部被り物みたいな感じで姿を変えることができるんだ。


「じゃあみんな、これで配信は終わりでーす! ダンジョン化も解けてるねー。でも、危ないからダンジョン跡には近づかないでね! それじゃーまたねー!」


 Aフォンに向けて手を振ると、コメントからもワーッと返答があった。

 ツイッピー、かなり民度が高い気がする……。


 いや、でも後半に向けていつものアワチューブ的リスナー、お肉どもが集ってきてたな……。

 今後はペッパーどもとお肉どもを使い分けて行こう……。

 センシティブ勢はお肉どもだ!


 外に出ると、ウェイな感じの男女が待っていた。


「配信見たー! 超よかったー!!」「マジ応援してるんで頑張ってください!」「あっ、このあとで飯とかどうっすか!」「おめースパイスちゃん口説くのかよ!」「おじさんだぞー」「こんなにカワイイならおじさんでもいい!!」「目がマジだ……」


 分かり合うといい子たちではないか。

 配信が終わり、冷静になった俺。


「応援ありがとねー! スパイスは流石に疲れたから、帰ってお風呂入って寝まーす! アーカイブ残るから感想とか書いてね!」


 そう告げて別れることにしたのである。

 電車に乗り込む際、彼らから、


「アワチューブには戻ってこないんすか!?」


 みたいな質問が来た。


「恩赦が出て凍結が解けたらね……!! そうしたらアワチューブの初配信やり直す……!」


「ネチョネチョ動画配信とかしないんすか!」


「あー、そっちは手つかずだったなあ……」


 マネタイズの手段は複数用意しておいた方がいい。

 とにかく収益化を早めて、お金に変えないと。


「じゃあそっちはすぐやるねー! ありがとー!」


 てなわけで。

 ここからは休息ではなく、収入確保へ向けた活動を開始することになるのだ。


『ネチョネチョ動画関連は私がやるんで、主様は別のサブスクサービスありましたよね? あっちをよろしくお願いします』


「フロータ、すっかり詳しくなったな……。よし、ファン箱を開設しよう。プランはえーと」


『どこかの配信で低価格プランはやめておいたほうがいいって言ってました!』


「俺よりネットのこと詳しいんじゃない……?」


 幸い、ガラガラな電車の中。

 俺とフロータの作戦会議が始まるのだった。


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