第11話 配信者になるぞ計画 実行編

 あの後、マシロと喫茶店など行ってパンケーキとコーヒーを食した。


「先輩、スシーバックスとか行かないんスか? このカフェ館ってちょっと高いし、その、ご年輩の方御用達じゃないッスか。あっ、パンケーキふわっふわ! うまぁ……」


「な? 高いだけの理由はあるんだよ……」


 正体を気取られぬよう、配信者に必要な機材を買い込む一日。

 その疲労が癒やされていく。

 やっぱり甘いものはいいなあ。


 これをホットのアメリカンで流し込む。


「あっ、アメリカンお代わりください」


 ということで、その日は無事に終了。

 俺はマシロを送り届けた後、自宅にて道具を広げる。


『あなたAフォンって言うんですか? ふふん、私はフロータですよ! 先輩として敬いなさい。お姉様って呼んでもいいんですよ』


『了解しましたお姉様』


「魔導書とAフォンが意思疎通してる……」


 ただの道具じゃなかったのか。


『現代の魔導書もやるものですねー。写本のまた写本みたいですけど、私の影響を受けて自我がちょっとはっきりしてきたみたいです。ふんふん、そうやって配信というのをやるのですねえ』


 ここ最近、フロータはダンジョン配信を貪るように見ている。

 俺のサポートを全面的に務めるつもりらしい。

 頼もしい。


 そして俺はと言うと。


「あっ、近くにダンジョンが発生してる。小さいのならポンポン出てきてるんだな」


 先ほど登録した、サブスク式ダンジョン探知サービス、ダンミーをチェックしていた。

 多くの配信者がこのアプリをスマホに入れ、日々ダンジョンをチェックしているということだった。

 これ、迷宮省が全面的にバックアップしているサービスなんだそうだ。


 サブスクに加入することで、そのダンジョンの攻略権を得ることができる。

 これは早いもの勝ちで、有効期間は24時間。

 それが経過すると攻略権は破棄され、攻略に来なかった配信者には罰則がある。


 俺は早速、デビュー前からここに配信者として登録をしたところだった。

 そののち、SNSのツブヤキックスとアワチューブにアカウントを作成する。


「メタモルフォーゼ、スパイス! Aフォン、俺を撮影してアカウントにアップしてくれ!」


『了解しました』


『頑張れAフォンちゃん!』


 Aフォンはふわふわと飛びながら、変身した俺を何枚か撮影した。

 その写真をフロータと二人で、あれがいい、これがいいと選別。

 宣伝文句とともにアップした。


『はじめまして! アカウントを開設しました! 新人冒険配信者、黒胡椒スパイスでーす! 明日、デビュー配信をします! みんな見に来てね!!』


 このアカウントを、俺が普段使っているアカウントでリツブヤキ。

 そうしたら、俺のフォロワーの冒険配信者ファンがさらにリツブヤキした。


 みるみるうちに、リツブヤキが広がっていく。

 拡散力すげえー。


『主様についての切り抜き動画、あちこちで上がってましたからね! 正体不明、まだ配信をしていないらしいのにダンジョンボスを倒した、謎の美少女! 何者か!? みたいな』


「……美少女としてあまり名が広がるのはよくないな。なんか俺がそっち方面に引っ張られて、戻ってこれなくなる予感がする……」


 俺は唸った。


「そうだ。配信しょっぱなで、おじさんであることを公言しよう」


『ええーっ! もったいない!』


「俺は嘘をつき続けられる自信がないんだ……」


 アワチューブの登録者も、あっという間に数百人になった。

 すげえ……!

 俺のツブヤキックスのアカウントなんか、七年やっててもフォロワーは100人くらいなのに。


 たまたまその中に、フォロワーの多い配信者ファンがいてくれて助かったかも知れない。

 次々、黒胡椒スパイスとしてのツブヤキにレスが付く。


『ついにデビューですか! 楽しみ~!!』『待ってたよー!!』『どういう配信者なんだろう!』『アイコンも圧倒的にカワイイ!』


 称賛の言葉が付いていく。

 俺の口角も上がっていく。


 な、なんだか嬉しいな。めちゃくちゃ嬉しい。

 他人からカワイイと言われるのがこんなに嬉しいとは……。


 俺は緊張と興奮でその日はあまり寝られず……。

 なんかやたらとチャットアプリLUINEで話しかけてくるマシロの相手をずっとやっていたのだった。


 気づけば朝である。

 準備はもうできている。


 攻略予定のダンジョンは権利獲得済み。

 そういえば弊社のダンジョン、チャラウェイは権利を獲得してたのに、いきなり俺が攻略しちゃったから本当は大問題だったんだよな。


 だが、俺は配信者ではなかった。

 この場合は違約にならないのだそうで、さらにチャラウェイはこの配信で大いに同接を稼ぎ、スパチャをもらい儲けたらしい。

 ウィンウィンか。


 俺もその位置まで行きたい!

 そして生活費を稼ぎたい!


「行くぞフロータ」


『はい、主様! もういきなり変身して現場に行きましょう! 変身する場所に困るじゃないですか。男子トイレで変身しても、女子の姿で出てくるのは問題ですし』


「それもそうかも知れない……。よーし、メタモルフォーゼ、スパイス」


 この間買った姿見の前で、俺は美少女に変身する。


 カラスの濡れ羽のように艷やかな黒髪はツインテールに。

 ぱっつん前髪の下に、月のない星空のような黒く輝く瞳。

 幼さを感じる顔立ちはとてもカワイイ。


 真っ白でもちもちの肌。

 ゴスロリ風エプロンドレス(ミニ)から除く腕や太ももが眩しい。

 そして片方だけ装備した、黒いニーハイ。


 圧倒的にカワイイ。

 俺が……いや、スパイスこそが美少女配信者、黒胡椒スパイスだよー!!


 テンションを上げて扉を開けたら、ちょうどお隣さんが出かけるところだった。


「あっ、おはようございます」


「お……おはようございます」


 お隣さん、呆然としてたな。

 なんか色々すまんな。


 こうして俺の、スパイスの最初の配信が始まるのだ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る