迷宮迷子:罠編 後
これだけ騒げばダンジョン内の魔物たちがわんさか寄ってくるものだが、『なんかヤバそうなやつには近寄らない』というのは魔物も同じで、幸いにもオレ達が魔物に襲われることはなかった。襲われたところでオレの怒りの矛先がそちらに向くだけだろうが。
騙されたとはいえここで騒ぎ続けていても埒が明かない。あくまで目的はダンジョンの攻略だ。フェノンが使えないとしても、それならばこちらの残ったメンツのスキルをふんだんに使えばいいだけ。
バンディは元盗賊なだけに罠や鍵の開錠などはお手の物と言う、ブラは腕っぷしがいいから魔物をバシバシ蹴散らしてくれるだろう。オレはオレで魔法で援護できるしな!
フェノンは・・・・・・おと・・・・・・いやいや、いくら使えないからってそんな囮にするほどオレも薄情じゃないさ。少なくとも?スキルは使えるっぽいし?もうそれで割り切るしかねえじゃん?
オレは一先ず怒りを鎮めるべく深呼吸をした。焚火の残り香とダンジョン内の埃っぽい空気で肺が満たされる・・・・・・何度か咳き込んだがとりあえずは落ち着いた。
「うっし!とりあえず進もうじゃねえか!もうこの際だ、引くより進め、だぜ!」
「おいおいアドネスさんよい、やけっぱちはやめとくれよ?」
やれやれと、ブラは呆れ気味に言ってきたが構いやしねえ。オレはみんなを連れてダンジョンの奥へと進んだ―――
焚火ポイントからニ十分ほど歩いた、ここまでに何度か魔物に遭遇したが、ブラとオレの攻撃にすぐに逃げ帰っていくのでたいして消耗はない。非常に快適な道程だった。
道中で酒場のおっちゃんの言ってたサキュバスにも遭遇した。胸は大きくはないが確かな膨らみが見て取れる、しかし最もエロさを感じさせたのは・・・脚だ。身に着けた黒いタイツがその柔肉を挟み足の肉がムチっとしている。おっちゃんは脚好きだからな、確かにエッッッロい。だが・・・・・・
「趣味じゃねえな」
オレとブラは攻撃すらもせず、ただサキュバスの前を素通りした。サキュバスにもプライドがあるのだろうか、素通りするオレ達の前に何度も回り込んできては誘惑してくるが・・・・・・
「俺ちゃんさぁ、肌がもっとこう・・・・・・小麦色の娘が好きなんよねぇ」
「オレは髪が短くって元気な感じのがいいな」
オレ達の包み隠さない突然の性癖開示、サキュバスは答えるほど能力が無かったのか、自身のサキュバスとしてのプライドに傷でもついたかのように地べたに力なく落ちた。そんなサキュバスも他所にオレ達は進むのだが、バンディは「うわぁ・・・」みたいな顔をして引いていた。
さらにそこから三十分歩くと、ひと際大きな部屋の中に辿り着いた。中央には大きな戦闘でもあったのか、床が大きくひび割れている。
魔物との戦闘に警戒したが、バンディのスキル”気配探知”にはそれらしきものは引っ掛からなかった。だいぶ歩いたし周りの安全確認をして休むことにした。
―――――それが間違いだった。
ブラが手際よく焚火を起こしていると、フェノンはまたしてもポケーッと上の空だった。ホントに何考えてんだか分からない奴だ。
「おいフェノン!ボケーっとしてると、魔物に連れてかれちまうぞ?」
オレはそう言って少しビビらせてやろうとしたが、全く反応がない。それどころか、オレの事を無視して紙に何かを書き始める始末。もういいやと、ブラの起こした焚火の前に座り込んだ。
パチパチと薪が燃えてゆくのを前に、オレ達はこの後の計画を話し合っていた。フェノンが使えない以上、戦闘も進行も慎重にならなくてはいけないからだ。
ここまでの道程を描いた手書きの地図を眺めながら話し合う。地図には遭遇した魔物や起動済みの罠など、確認してあること全てを書き込んである。ダンジョンのクリアも目的だが、こちらも同等に大事なことだ。今後、このダンジョンに挑もうという冒険者たちに役立つからだ。役に立つってことは・・・・・・金になるってことだ。キラキラチャリチャリ・・・・・・金はいくらあってもいいからな。
「この先の道をさっきチラッと確認してきたけど、特に罠とかは無かったわね。・・・魔物はいたけど」
「俺ちゃんは焚火作ったあとに軽く見てきたぜ、バンディが見た別の道な。そっちは罠っぽいのが見えたぜ」
ふむ、魔物か罠か、か・・・・・・。罠だったらバンディが何とかしてくれるだろうけど、魔法系の罠は解除できないからな・・・・・・それに、一番厄介なのは変異罠だ。化け物みたいな見た目になって隠居、なんてイヤだからな。未発見の罠も多いことだろうし出来得る限り避けたい。だからといって多数の魔物を相手にしていると、オレとブラの消耗が激しくなる。うーん・・・・・・
オレが地図とにらめっこしてた時、いつの間にか横にやってきていたフェノンは、オレに一枚の紙を渡してきた。
「地図・・・・・・書いた」
はいはい、地図ね。おめーの書いてるのは地図じゃなくて文字だっつうの。考え事をしてる時に割って入って来られたので少々イラッときたが、手渡された紙に視線を落とした。紙にはこう書かれていた。
『この部屋全体が罠』
・・・・・・・・・はい?
「ちょいちょいちょいちょおおおおおい!!フェノンさんンンン??!!どういうことっすかねえエエエ?!」
放り捨てた紙をブラとバンディも見た。二人とも「あちゃー」とした顔で呆れていた。
「スキル・・・使ったよ?」
「スキル使ったのね?そりゃどうも!だが情報が遅い!!おめーが女子じゃなかったら引っ叩いてんぞ!!!」
「女子で得した」
「喧嘩売ってんのかゴラアアアァァァ!!!」
ここに来てオレの怒りが再燃、状況も状況なのでのっけからハイボルテージ!
そんなオレを治めようとバンディが割って入ってきた。
「まあまあ落ち着こアドネス?で、フェノンちゃん。この部屋にはどんな罠があるか分かったりするかしら?」
そうバンディが言うとフェノンはコクッと頷いてスキルを使い始めた。地図師の持つスキル”地形把握”である。個人差があるが腕の立つ者は、知らない土地すら看破できるんだとか。まあそれを期待してギルドに地図師を要請してたんだがな。来たのはもうお察し。
スキルを使いスラスラと紙に書きだすフェノン。期待なんてしてないさ、どうせ『魔物がたくさん寄ってくる~』とか『みんなの眠気が増えてくる~』とかそんなもんだろ。何が起きてもいいように警戒していると、書き終えたフェノンは紙を渡してきた。
『罠:迷宮迷子。部屋から出る際に選んだ道、その先に進めない罠。解除方法:なし。同名の罠を経験した冒険者『カエル顔のイドル』曰く、脱出に三日を要した、とのこと。長期戦を想定し、準備すべし』
・・・・・・・・・いや、これだけメッチャ丁寧に書かれてるうううぅぅぅ??!!
「なにお前!?なんなんお前!!初めからこの位書けるんだったら書けやアアアァァァ!!!」
「・・・言われてない」
「言われなくてもやるの!!社会人の常識ィ!!!」
「・・・古い」
「うるせえエエエェェェ!!!」
マジでなんなんだよコイツ!?間取り図みたいな地図は書けない、簡略的にしか書けないと思いきや、突然化けやがって!!
オレが再び怒りに燃えてるのを他所に、渡された紙を見たブラが、燃やす前の薪を一本部屋の外に通じてる通路の前に置くと、そのまま通路の奥に行った。
そして・・・・・・オレの後方、この部屋に入ってきた通路から出てきた。
「うっは、すっげ!マジで出られねえや!」
謎の現象に興奮してるのか、ブラの奴は笑ってやがる。その後も何度も部屋を出ては入り、出ては入りを繰り返して遊び始めた。
「でも困ったわ・・・・・・いつまで出られるかなんて保証もないし・・・・・・そのイドルさんとやらは三日かかったって言うけれど、アタシ達もそうとは限らないでしょうし」
オレは湧きあがる怒りを抑えるべく、焚火で沸かしていたお湯を一気に口に流し込んだ。口の中が火傷しまくったが、痛みで怒りが逆に引いていった。
「おいフェノン!ホントに打つ手なしなのか?」
そう言うとフェノンは考え込んだ。腕を組み、ウーンと。その姿勢は綺麗にまっすぐで、揺れを感じさせない。そして何かを閃いたのか、口を開いた。
「・・・イジワル魔女」
「は?」
「イジワル魔女って・・・・・・童話よね?」
それは、オレ達は一度は聞いたことのある童話だった。イジワルな魔女が迷い込んだ旅人に「二つある道のうち、どちらかは外に通じてるよ」と、選ばせるのだ。旅人は何度も道を選んだが、全然外に出られないという話だ。だが、どんな童話もそうであるように、ハッピーエンドであることには違いない。さて・・・・・・どんなオチだったっけ?確か・・・・・・・・・
「・・・選ばなかった」
フェノンがボソッと呟いた。そうだ!旅人は道を”選ばなかった”んだ!道を外れて草木を掻き分けて進んでるうちに、村の近くに出たんだった!
もしそれがこの罠にも通じるというなら・・・・・・試す価値はあるだろう。こんなところに三日もいてたまるか!!
オレは持っている杖に魔力を集中させた。
この部屋は全体が岩で出来ている。壁も天井も、そして・・・・・・”床”も。
ただ、オレの魔法でも何の変哲もない岩を砕くことは出来ないだろう。
しかし・・・・・・一カ所だけ、可能性がある場所がある!
魔力を練り上げて作った爆発魔法、それをオレは床のひび割れ目掛けて解き放った。
「砕け散れェ!!」
大きな爆発音とともに、ひび割れた床が砕け散ると、床には大穴が開いた。
ブラが試しにと薪を一本大穴に放り込んだ、しかしその薪は部屋のどこにも現れることはなく、大穴の向こうから地面に落ちた薪の弾む音だけが響いてきた。
そう、これこそがこの部屋本来の”通路”だったのだ!
オレがホッと安堵していると、バンディはオレの脇を小突いてきた。
「アドネス、なんかフェノンちゃんに言うことあるんじゃないの?」
「うっ・・・」
オレはバツが悪かった。ついさっきまで怒鳴り散らしていたからだ。だが実際は、フェノンのアイディアがなければこの部屋から脱出することは叶わなかっただろう。
オレは申し訳なさそうに頭をかきながら、フェノンに向き直った。
「まぁ・・・その・・・、ありがとよ。助かった」
それを聞いたフェノンはオレを叱責することもなく、ただ一言「ん」とだけ返した。
「じゃあ・・・・・・とりあえず進むか!」
オレがそう言うと、待ってましたと言わんばかりに真っ先にブラが大穴に飛び込んだ。それに続いてバンディが飛び込んだのを確認すると、オレはフェノンの手を引いて魔法でゆっくりと大穴の下へと降りて行った。
どこまで続くか分からないダンジョンの奥へと、オレ達は進む―――――
センスZEROの地図師 序 ム月 北斗 @mutsuki_hokuto
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