センスZEROの地図師 序
ム月 北斗
迷宮迷子:罠編 前
ここはとあるダンジョン。かつては魔王討伐の旅に出た勇者一行が通過したと噂されている。そのおかげかここには数多の冒険者たちが挑戦しているのだが・・・・・・これまでに無事に帰って来れた者は一人としていない。
別に死んだとかそういうことではなく、腕の骨が魔法で消えたりとか、足の片方が触手になりもう片方はニワトリの足になったりとか、そういう職業上における致命傷みたいなものだ。当然冒険者を続けることなどできやしない、ダンジョン近くの町にはそういった呪いの類を解呪できる解呪師がいないからな。遠くにある大教会までいけば解呪できるが、それまでにその醜く変わってしまった姿を見られ、辱めを受けるくらいならばと冒険者を辞め隠居してしまうのだ。
以前まで冒険者で今は町の酒場を切り盛りするおっちゃんも、呪いが原因で今に至る。「俺も昔は冒険者だったんだがな、膝に呪いを受けちまってよ・・・・・・」口癖のように新たに訪れた冒険者たちにそう言うと膝を見せるんだ―――そこにあるのは破れたズボンなんかに母親が縫い付けてくれたアップリケみたいに貼り付いた、笑う口。
おっちゃんはそれを見せるたびに言うんだ、「笑ってくれよ・・・エッッッロイサキュバスに見惚れてたら踏んづけた罠のせいでよぉ・・・・・・この膝、マジで笑うんだぜ?」
それを聞いた冒険者たちは笑い、おっちゃんを蔑む者もいれば同情する者もいる。自分はこうはなるまいと、おっちゃんを反面教師にする者もいる。そんでダンジョンに挑んで・・・・・・呆気なく帰ってくる。
誰も笑ったりしないさ、蔑んだり軽蔑もしない。憐みも励ましもない。ただ黙って、その後の選択を見届けるのさ。
ただ、オレはこう思うんだ。どのパーティーも、とある
その職業は・・・・・・『
この職業のやつはダンジョン内を観測、地図にして閲覧することが出来て、仕掛けられた罠や呪い、宝箱に擬態したミミックなんかも見破ることが出来るんだ!まあ、それくらいしか出来ないもんだから?戦闘面は先述通りのカス!子供のパンチが会心の一撃になるレベルだ。
オレは一週間前からギルドで地図師を雇いたいと頼んでいたが、なんと今日!このダンジョンに入る前に一人、地図師を迎え入れることが出来た!!
オレの雇った地図師は女の子だった。名前はフェノン。ギルドが言うには超優秀らしい!
当然、雇用金額はバカ高いと腹を括っていたんだが、ギルドから提示された金額は・・・・・・傭兵を雇った金額の百分の一!!激安ッ!!残った金で豪遊できるレベル!!
だぁがまだ早い!こんな超優秀な地図師を雇ったんだ、必ずあのダンジョンを攻略し、町で凱旋した後にオレは町で有名・・・いや!その他諸々のダンジョンをクリアして見せて、大陸イチの超有名人になるんだ!!そんで・・・そんで・・・・・・
いや、やめておこう。これはまだオレの胸の内に仕舞っておくべきだ。
ふとフェノンの方を見るとオレを見つめてキョトンとしていた。おっといけない、オレだけが勝手に舞い上がって自己紹介をしていなかった。
「オレはアドネスってんだ。よろしくな!」
オレはそう言って手を差し伸べたんだが・・・フェノンはポケーッと上の空。
「フェノン」
ようやく自分の名前を言ったかと思えば、ずいぶん気の抜けた声だった。
大丈夫・・・・・・だよな?と、一抹の不安がよぎったがまあいいさと、オレは残りのメンツのもとへフェノンを連れて行った。
ギルドのすみっこにあるテーブルでそいつらはオレ達を待っていた。
一人はオレの昔からのワル仲間で剣士のブラ。男同士気が合うもんだから、ガキの頃から近所でイタズラばかりやっていた。魔法使いのじいさんが居眠りしてるうちに、帽子の中に鳩を入れてやったのはメチャクチャ楽しかったのは今でも覚えている。
もう一人は元盗賊で今は足を洗って狩人をやってる女狩人バンディ。何年か前から町に住み始めていて、ちょくちょく狩りの仕事に付き合っている。酔っぱらうと「アタシは元”大”盗賊のウィキッド様なんだぞ~!敬えよ~!」と、ダル絡みをしてくる。酔っぱらいの扱いは得意だから相手にはしていない。
ブラ達にフェノンのことを軽く紹介すると、そんじゃ行きますかと全員でダンジョンへと入った・・・・・・のだが・・・・・・
オレはここで、フェノンの雇用金額の安さに隠された真実を目の当たりにしたのだ・・・・・・
「よぉし、じゃあフェノン!早速何だがお前の地図師のスキルでこのダンジョン一帯を調べ上げてくれ!!」
「いやはや、うちのリーダー殿は悪知恵を働かせれば優秀なことで」
「ただでさえ戦闘能力皆無の地図師なんて、誰も雇わないものね」
ブラとバンディがなんか言ってるがどうでもいい!オレは、このダンジョンを『攻略』さえ出来ればよいのだ!!
「さあ!!」
オレはフェノンに催促した。地図師はそのスキルで知らない場所すらも探知、観測することが出来るからな。おまけに超優秀ときたもんだ!!
―――――三分後。フェノンはまだポケーッとしていた。おそらく現在、そのスキルでダンジョンを観ているんだろう。
―――――十分後。フェノンはやはりポケーッとしている。もしかしてこのダンジョン・・・・・・深い?
―――――三十分後。ブラとバンディは焚火を囲って本を読んだりナイフを研いでいた。フェノンはというと・・・ポケー、である・・・
―――――一時間経過。ブラとバンディが近くで追いかけっこを始めていた。フェノンは・・・・・・変わらない・・・・・・きっとダンジョンがヤバいほど深いんだろうな。超優秀だからこそ、念入りに観てるんだよな。そうだよな?
―――――十二時間g、「フェノンさんんんんんんんん!!!???」
ついにオレは我慢できなくなった。いや、十二時間も待つとか忠犬過ぎんだろ?!え?世の中には死ぬまで待った犬もいるって?知らねえよ!!こっちは退屈過ぎて死ぬわボゲェッ!!!
こんなにも感情をあらわにしてるというのに、フェノンはやはり『ポケーッ』なのだ。
「なぁよぉアドネスよぃ」
暇すぎてさっきまで寝ていたブラが言った。
「そいつ、フェノンだっけ?スキル使ってんの?」
「使ってるに決まってんじゃろがい!ですよね?!だよなぁ!!??」
オレはフェノンにキスでもすんのかっていうくらい顔面を近づけて言った。フェノンは身じろぎ一つせず『ポケーッ』だ。
「ねぇアドネスさぁ、アタシは昔の職業柄色んなやつらの技とかスキルを見てきたけどね、そいつ・・・・・・ずっと前からなーんもしてないよ?」
バンディは焚火の近くで捕まえたカエルの頭を指でつつきながらそう言った。
いや、いやいやいやいやいや、いやあああああああああッ!!違う!絶対、違うッ!!そんなことねえっしょ!?十二時間っすよ!!??十二時間もこいつはポケーッってしてたってぇのぉぉぉぉ??!!
「違いますよねぇ?!そんなことないっすよねぇぇぇ??!!フェノンさんんんんんん!!!???」
オレは再びガチ恋距離ならぬブチ切れキス距離で近づく。するとようやく、フェノンは言葉を口にした。
「・・・・・・・・・ふぇ?」
ふぇええええええええええええええええ????!!!!
ふぇ?ってお前、なんだゴラアアアアアアァァァァァァァ!!!???
「スキル使ってねえのかよテメエエエェェェ!!!???」
普段のオレは持ち前の悪知恵を働かせて魔法の罠を作ったりする冷静な魔法使いなのだが、脳内は怒りのアドレナリンで溢れかえっていた。
「・・・・・・・・・スキルって?」
スキルってなにかって?こっちが今のテメェに聞いとんじゃボゲエエエェェェ!!??むしろ聞きてぇわああああぁぁぁぁ!!!???
「おめぇのスキルぅ!!あるでしょ?!地図師のさぁ!!」
聞いちゃったわボゲエエエェェェ!!!
「・・・・・・・・・あぁ、そういうのね」
フェノンはそういうとカバンの中から一枚の羊皮紙とペンを取り出し、なにかをスラスラと書き始めた。
なんだよぉ、書けんじゃーん。オレの直前までの怒りはウソのように消え去っていた。
「おいおいブラさん、バンディさん。見なさいな、彼女の今の行動を。書いているじゃあないですか。やっぱりオレの目に狂いはなかったんすよ」
と、安堵のどや顔でそう言ってると、フェノンが「出来た」と言ってオレに羊皮紙を渡してきた。
「さあて、あとはこの地図を見ながらダンジョンを歩くだけですよ。楽勝楽しょ・・・・・・・・・」
渡された羊皮紙に視線を落とすと、そこに書かれていたことにオレは驚愕した。
『周囲五メートル以内に罠は無い・・・・・・たぶん』
ん?は?へ?オレは羊皮紙を二度見、三度見・・・・・・十回くらい見直した。
「イヤイヤイヤイヤイヤ、フェノンさん?あの、地図ってのはさ、もっとこう・・・・・・通路とか、部屋とか、家の間取り図みたいに書くもんじゃあーりませんか?」
「書けない」
書ーーけーーなーーいぃぃぃぃ???!!!再び煮えたぎったオレのアドレナリンの雄叫びが、静かなダンジョン内に木霊した。
「書けねえってことはねえでしょぉがあああぁぁぁ??!!なんかの冗談かよ、テメェェェ!!」
オレの怒りの言葉に、フェノンの返事は変わりはなかった。
「書けない」
「超優秀なんだよなあああぁぁぁ??!!」
「ん、村の地図師ギルドでは一番上手だった」
「ならさあああぁぁぁぁ??!!」
怒りのボルテージが上がっていく中、バンディが話に入ってきた。
「ちょーっとごめんねアドネス。ねねフェノンちゃん、フェノンちゃんはどこ出身なのかしら?」
「北のエルデリー村だよ」
村の名前を聞いた途端、バンディは「あっ」と何かを察した。そしてそれを、近くにいたブラに耳打ちすると、ブラも同じように察した。
「なんだよ・・・・・・その、エルデリーって村はなんかヤバいのかよ?」
オレはいてもたってもいられず、バンディに聞いた。
バンディはため息をつくと、その重い口を開いた。
「あのねアドネス・・・エルデリー村ってね、お年寄りばっかりの村なの」
お年寄り・・・・・・ジジババってことだよな?
「でね、そこには確かに地図師のギルドがあるのよ。でもねアドネス、もう一回言うけど・・・お年寄りの村なの」
「そ、それがなんだって・・・・・・」
「アドネス・・・・・・教える人もまた、お年寄りなのよ・・・・・・」
「で、でも技術の継承とかってのに変わりは・・・・・・!」
「アドネス、想像してごらん。久しぶりにおじいさんおばあさんに会いに行ったら、あなたのことをどうしてくれる?」
「どうって・・・・・・お菓子とかお小遣いとかくれたり・・・・・・」
「じゃあそれをフェノンちゃんに当てはめてごらん」
そう言われて頭の中で考えた。フェノンのような若い子が、どういう風に扱われるのか。
イメージの中のギルドのおじいさんがフェノンに地図師の勉強を教えている。おじいさんがフェノンの試験結果の採点をしていた。
『うーむ・・・ここも違う、ここも違う・・・・・・じゃがあの子は若いし、いずれは間違いに気づくじゃろうし・・・・・・マルでいっか☆』
「ノオオオオオオォォォォォ!!!!????」
脳内イメージの世界はビッグバンが如く爆ぜた。
「気づいたかしら?」
「いいわけねえぇだろうがあああぁぁぁ!!!試験の結果を!採点結果を!!将来見据えて花マルはぁッ!!出世払いで世界が滅ぶぞおおおぉぉぉ!!!!!」
「滅ぶことはないにしても、現実って甘くて厳しいものね。ハズレくじを引いた人限定だけど」
「大ハズレじゃあああぁぁぁ!!!あんのギルドのクソババアあああぁぁぁッ!!!!騙しやがったなあああぁぁぁ!!??」
提示された激安の金額、そこに秘められたフェノンの秘密を目の当たりにし、オレの怒号はダンジョン内にドラゴンの咆哮よろしく響いた―――――後編へ続く
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