第12話 里での過ごし方と帰還(R18部分削除)
解呪具ができるまで、エルフの里を満喫した。とは言っても観光地では無いので、ジストに頼んで、水源の湖を見に行ったり、薬草の採取や、狩猟に付き添った。来るべき冒険者生活の予習代わりと、薬草の煎じ方や肉の解体を手伝った。
まあ、結婚したら魔界にいるので、そんな生活はできないが、時々頼んで冒険しに行くかもしれないし、気分の問題だ。
エルフというのは清廉で、無欲で、美形ばかりで、みたいな先入観があったけど、接してみると、確かに美形ばかりだが、世俗的で、感情豊かで、親切な普通の人々だった。本当に、美形ばかりだけどね!誘拐されやすいのも納得だ。森は必要だと思う。
金銀の色と、薄い色の目の人ばかりなので、黒髪黒目(最近赤っぽくなってきた)の僕は珍しいのか、なかなかの歓迎ぶりで、イルマがヤキモチを焼くほどだった。
まあ、滅多にあの森を抜けて来る者がいないからだ。
僕の見た悪夢は、イルマのと連動していたらしく、迷う僕に必死に声をかけたのは、本当にイルマだった。
イルマは最初から僕が離れて行く夢で追いかけたらしい。
僕達はお互い心の奥底では、相手を信用していなかった。それが迷いの森で明らかにされたので、それを埋めるように色々話をしている。
それだけでは無い。
想いを埋めるような連日のいちゃつきは、ついに、ついに一線を超えてしまった…そこからはなし崩し的にやるようになってしまった。
「ああ、結婚まで我慢するつもりが、琉綺のせいだ」
「嘘、イルマが迫ったから、流されちゃったんだよぉ」
「仕方無いなあ、すぐ気絶しないでね?」
「頑張るから」
魔力がどっと体の奥へねじ込まれて全身に広がる。
僕が感じると、それがイルマに魔力となって伝わって、2人共イくのを必死で我慢する。
「イルマ、ああ、好きだ」
「琉綺大好き、俺も」
魔力が流れ込み僕のと繋がり、一つになっていく。体も溶けて一つになるようだ。
絶頂が続いて、気が遠くなる。気絶するとまた文句言われるから、両手をイルマに伸ばす。
「イルマ、抱いて、ぎゅって」
「もう、琉綺、可愛いすぎ」
お互い強く抱きしめ合う。
夜明けが近付き、大抵は僕が先に寝落ちしている。
5日後、ジストがやって来た。手に持っているのは解呪具だった。
「早かったね!」
「私1人で全部作っているのではない。分業している。それに、いつも余裕を持って制作日数を伝えてる」
イルマに無造作に渡す。
三角形の木の土台で、真ん中に白い魔石が埋め込んであり、銀色の金属の糸が三角形の内側に埋め込まれ、魔石にもたくさん巻かれて端と繋がっている。
「錫の糸だ。触媒になる。魔力を注ぎ込むと魔石の力を周りに伝える。半径1メートル位が限度だ」
「まあ、兄さんに近付く機会は普通に有るから大丈夫だろう」
イルマは解呪具をカバンに入れて、更にそこから鶏の卵大の魔石を出した。
「これで支払いになるか?」
「ドラゴンの魔石?」
「そうだ、足りないなら…」
「いや、既にこれの残りを貰っている。貰い過ぎだ。これを」
ジストはポケットから細いブレスレットを出した。
金と銀の細い鎖が絡みつくデザインだ。ドロップ型の魔石が付いている。
「綺麗だね」
「迷いを絶ってくれる。ここへ来るのに便利だ」
「また里に来ていいの?」
「皆が希望している」
「ありがとう!僕もこの里の人達が大好きだよ」
ジストは僕の手首にブレスレットを通した。
「俺のは⁈」
「お前は、もう自力で森を越えられるだろう?」
「え?」
「迷いが無くなった。心が通い合って、連夜琉綺と睦み合ってるだろう?魔力が混じってる」
僕は真っ赤になった。
「わかる?琉綺が離してくれなくて」
「もう!イルマ、ジスト、言わないで!」
「会った人皆わかってるよ」
「えー⁈うぎゃー!!」
恥ずかしさに僕は耐えられなくなってベッドに潜り込んだ。
僕はイルマとヤってますって言い歩いてるのと一緒だったなんて。エルフ達にも要らぬ気を使わせたかも。あー恥ずかしい!
「僕もうここに来れない」
「まあ、そう言わずに、待ってるぞ」
「あー」
ますます縮こまった。僕もイルマみたいに小さくなりたい。
「良いじゃないか、俺と琉綺は婚約者なんだし。悪い事じゃない」
「デモハズカシイ」
顔だけ出して睨むと、2人が口をあんぐり開けて固まった。
「ナンダヨ⁈」
2人が僕目掛けて突進してきた。
「「可愛いーーー!」」ジストまでどうしたの⁈
「ヒエッ」
イルマが抱きしめて頬に思い切りキスした。
「イルマ!ダカラ人前ハ止メテッテ!ン?」
「琉綺の子供の頃って、本当に可愛いなあ」
子供の頃??
自分の身体を見て驚いた。
小さくなってる!!少年を通り越して3歳児くらいになってる。
「何デ⁈」
「凄いな、変身できるようになったのか。成長著しいな。小さくなってるが」
ジストが僕の頭を撫でながら面白そうに言った。
「上手い事言うな、ジスト」
イルマがゲラゲラ笑い出した。
「アレ?ドウヤッテ戻ルノ⁈」
「え?」
何とそのまま戻らず、夜になって、帰る前の宴に招かれた。
僕はみんなのペットのように順番に抱っこされ、酒の代わりに果実水しか与えられず、食べ物は手ずから与えられ、猫可愛がりされた。
終いには無の境地にたどり着いた。
最後の夜は忘れられない日になった。
朝起きて、元に戻っていて心から安堵した。
帰りはスムーズに迷いの森を抜けた。そこから昼間は寝て、夜に空を飛びながら、2日で王都に帰ってきた。
今度は僕も飛べるから、イルマの負担も減るしね。イルマは少し残念がって、横になる時に抱っこしてからじゃないと休ませてもらえない。魔人化が進むと、休む時間も減った。
僕等は日の出前に王宮の屋根に降りて、夜が明けるのを待った。
やがて地平線が赤く染まり、藍色の空が水色に変わり、白く明るくなってくる。そして太陽が顔を出す。
何度見ても美しい光景だ。
魔界だと、魔素のせいでピンクに偏光しているので、これは人間界だけの現象だ。
何故かツキンと心が痛くて、じんわり涙が沸いた。前の世界でも、滅多に見たことがないのに、とても懐かしい。
イルマに気付かれないように涙を拭いたが、どうだったろうか。
明るくなると、下の様子が騒がしくなった。
僕等を見つけたのだろう。
今日は、ノキアを元に戻して、人間達にどうにか魔界への大それた野望を叩き潰す、いや諦めてもらう算段をしなければならない。感傷に浸ってる場合ではない。
下の観客が増えたのを確認して、わざと羽を見せつけてからゆっくり降下した。
「帰ってきたよ。王子とノキアに会う」
僕は赤くなった目を見開いて言った。目の色を赤に変えられるようになったんだ。
ところが、誰も答えない。顔を見合わせて、ヒソヒソ話す様子がおかしい。
「今は2人共いらっしゃいません」ようやく兵士の1人が言った。
「え、どこ行ったの⁈」
僕等は急いで神殿に向かった。
神官に会うと、泣きそうな声で言った。
「お二方を待たずに、魔界へと兵を率いて出立なさいました。すぐに追いかけて下さい。結界を解いて、魔界に入るつもりです」
イルマは鼻で笑った。
「人間は魔素過多で死ぬだけだ。放っときゃいい」
「いいえ!魔素の発生源の場所を森ごと焼き払うと!そこは人間でも耐えられるほど魔素が薄くなったそうです」
「そんなの一時的な事だ!すぐに元通りになる!」
「危険だ!森を焼き払うだって⁈有り得ない!早く行こう!」
僕はカンカンに怒るイルマを宥めつつ現場へ急いだ。界境沿いに行くと、魔法師が待機していた。
「何してるんだ!王子とノキアはどこ⁈」
僕の勢いに飲まれて、土下座している。
「ここを真っ直ぐ進んでいます」
魔法師が指差した先は魔素が普通より若干薄いようだ。
でも、人間には多過ぎる。
僕等は急いで飛んだが、遅かった。
森の木々が燃えていた。白い幹に黒い葉っぱの木が、赤く燃えている。
その横に兵士達が倒れている。
魔法師が風を起こして壁を作っているが、魔素はどんどんやってくる。
「空気が燃やされて流れが変わって魔素が濃くなったんだ」
「火を消さなきゃ!」
「おし、2人で水出すぞ!」
「止めろ!そのままにしておけば魔素溜まりが消える」
ノキアが現れた。その後ろで結界の中、王子が震えている。
「また、違うところで生まれるさ。無駄だ!」
イルマが叫んだ。
「早く兵士達を、ここから連れ出さないと皆死んでしまう!」
「救世主様、お救い下さい」
王子が震えながら頭を下げた。
「だからあ、僕はできないって!2人は黙ってて!えーと、水、水大量、水玉⁈」
イルマは両手を上に掲げていたが、その上に馬鹿でかい水玉ができていた。
「琉綺もやれ!一斉にかける!何回かやるから全部魔力使うなよ!」
僕も見よう見まねで両手を上げた。「水ー来い!」
指輪の力も借りて、出てきた水を火元に落とした。それを何回も繰り返す。
「止めろと言ってるだろう!」
ノキアが逆に火を練りだしたので、僕は突進した。
カバンから解呪具を出してノキアに押し付けた。
カッと、白い光が真ん中の魔石から出て錫の糸へ伝わり、さらに空中に線を描いてノキアを捉えた。
「貴様、何をした⁈」「ひゃっ」王子が変な声を出す。
2人の指と耳から黒い炎のようなモノが上がってパキン、と音がした。手首からもだ。
指輪とピアスとブレスレットが、黒くなって落ちていった。
「やっぱり操ってたな、くそ王子!!」イルマは大量の水を王子とノキアに落とした。
2人共水圧で潰れて倒れて転がった。
その後、2人と、その場にいた魔法師も脅して火を完全に消した。
兵士達はイルマが蔓で幾つか束ねて持ち上げ、人間界に放り投げた。
僕は魔力が少なくなったので、人間界側にいた魔法師に蘇生を頼む。
魔石を飴代わりに舐めてノキア達の元に飛んで行く。
2人共気絶したままだったのでイルマに運んでもらった。
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