第11話 エルフの里

僕達が外と言うのも忘れて熱いキスと抱擁等を交わしていると、咳払いがした。

「イルマ、誰か居る」

「今更?放っておけ」

「駄目だって、んん、こら!」

首筋を舐めるイルマを慌てて引き剥がす。


「助けてと声が聞こえて、近い所にいたので迎えに来てやったんだが?」


まだキスしてくるイルマを押さえつつ、声のする方を見ると、超絶美形の長身の男が近付いてきた。

銀色のストレートの髪が腰近くまであり、エメラルドのような煌めく緑の瞳と高い鼻、色白で赤い薄めの唇。

繊細な顔立ちと違い、意外と筋肉質な体型だ。


「私は何を見せられているんだ?」困ったような声だった。

「俺達の愛情深さだよ、思い知れ」

「間が悪いね。せっかく盛り上がってたのに」

僕はイルマに小さな声で言った。

僕達は起き上がって乱れた服を整えた。裸にはなってないが、上はほぼ脱げてた。


「この森、何とかしろよ。不便でしょうがない」

「この森があるから下手な侵入者が来ないんだ」

2人で言い合いになりそうだったので口を挟んだ。

「ところで、お互い自己紹介しようよ。初対面だし。僕は琉綺です。琉綺・水面杜と申します」

「ジスト・フォレスだ。狩人で、長の孫だ」

やっと挨拶できた。

「イルマティーノス・サマエル。魔王の息子」

ジストは納得の顔で言った。

「成る程、強い魔力だと思ったら、王子だったのか」

「イルマと呼べ。それで、また迷い出す前に早く案内しろ」

「承知致しました、イルマ王子殿下」

「そのすました面、ボコボコに叩きのめしてやろうか?」

「もう、止めなさいったら!」

僕達は立ち上がって歩き出すジストに従った。


今度は惑わされずに到着したエルフの里は思ったより小規模だった。あちこちの森に点在していて、魔道具で連絡を取っていると知った。

「俺、ここしか知らなかった!」

長の家は村の中心にある巨大な木の切り株をくり抜いた所が玄関で、寄り添うように丸太小屋が増築されている。


「魔界王の2番目の息子、イルマティーノスと申します。そばに控えますのは婚約者の琉綺です。突然の訪問お許し下さい」

長にあった途端、片膝を付いて片手を胸に当てて頭を下げる礼をしたイルマに驚いて、僕は両膝をついてお辞儀した。

流石王子様、優雅な振る舞いも完璧にできるんだ、とちょっと見直した。


長は高齢の為立ち上がれないとかで、椅子に座ったままだったが軽くお辞儀した。

「迷いを経て辿り着きし客人よ。お主達に二心無き事認めよう。歓迎する。夜にささやかだが宴を開くので、受けて欲しい」

イルマは顔を上げてにっこりした。

「有難うございます。喜んで参加致します」


僕たちは静々と退出し、ジストの後について客間に案内された。

「客人は稀だから、至らない所もあると思うが」

「大丈夫です。十分です」

僕は室内を見回した。

清々しい木の香りがする室内は綺麗で、ベッドと椅子があるきりだったが、ベッドにかけられたパッチワークのカバーが可愛らしい。

あちこち下がっているタペストリーも、緑を中心に彼らの生活の一部の様子を織り込んだもので、微笑ましい。


「さて、宴の前に、お前達の目的を聞いておきたい」

いきなり確信を突かれたが、イルマは一向に狼狽えなかった。

「俺の兄さんが、多分呪いにかけられている。人間に都合の良いことしか言わねえ。解呪する魔道具を求めてここに来た」 

「ほう、兄弟愛なんて、魔人にもあるのか」

「そんなんじゃねえ!」

イルマは不貞腐れて言った。


「俺達の結婚式に兄を呼ばなきゃなんねえ。なのに、今のあいつが来たら、そのまま魔界を破壊してオヤジを消しかねん。そうなったら俺じゃ止める自信が無い。だから、正気に戻してえ」

「解呪するための魔道具って有るんですか?」

「今は無いが、作れない事は無い。長の許可が出たら作ってやってもいい。呪いなら、呪具を身に付けている筈だ。思い当たる物はないのか?」


僕達は顔を見合わせた。お互い首を振った。

「裸にすりゃ分かるかも」

「どうやって裸に?入浴中に突撃するしか」

「結界位張ってるだろう」

「それなら、呪具は結界を破壊する必要もあるのか」

ハードルが上がってしまった。


ジストは、別のエルフに呼ばれて出て行ってしまった。

僕達はベッドに腰掛けた。

呼びに来たエルフが代わりに置いて行ったレモンの風味がする水を飲みながら話をした。

「呪具って、例えばどんな形をしてるの?」

「色々だな。魔石に込めるから、どんな物にも付けられる」

「それじゃ、お兄さんが身に付けてるなら、やっぱり裸に…」

イルマはくすくす笑った。

「解呪は呪具の威力を上回らなければ効果無いから、兄さんの身体に接触させれば良いと思うが?琉綺はいやらしいな」

「うえっ、呪具に直接触れないと効かないと思ったから!」

僕は顔が赤くなるのがわかって手で頬を押さえた。


「ねえ、さっきの続きしない?」

イルマが蠱惑的な笑みを浮かべた。

僕は赤い顔のまま両手を伸ばすと、イルマが飛びついてきて、そのままベッドの上に倒れ込んだ。

「琉綺最高!」

イルマは顔のあちこちにキスしてから唇を啄むように押し付けてきた。


僕が舌を出すとちゅっと吸われて、そのまま口の中まで舐められた。

あまりの気持ち良さに目を閉じて集中して味わった。

「ああ、我慢できない!琉綺!」

のしかかったイルマが重くなり、鼻先に何か当たってくすぐったい。

不思議に思って目を開けたら髪の毛が垂れて鼻に当たっていた。

髪の毛?イルマのはせいぜい襟足くらいで…


「誰⁈」思わず叫んだ。

「俺だ、イルマだ」

声は若干低くなり、髪の毛は背中まで伸びている。身長も僕より大きい。身体付きも細マッチョになってる。

「え、何で髪の毛、いや身体も伸びてる、大人になってるのか!」

僕はプルプル震えていた。

「大人だって!つい変身解けちまった」

「え、今までのイルマは?」

「それも俺。昔のだけど、お気に入りで、普段ずっとそれにしてる、けど」

「けど…?」


「琉綺に欲情したら、つい」

言いながら、僕のシャツのボタンを次々外している。

「僕、この姿初めて見るんですけど⁈」

「そうだな、もう何十年も少年の姿だったし」

「見慣れなさすぎて、怖いよ、誰って感じする」


イルマはボタンを外し終わり、バッと前を開いた。

「じゃあ、見慣れるまで、さっきの事と続きするぞ」

剥き出しになった首筋に噛みつかれた。

「イルマ!イルマさんだよね?ちょっと待って…」僕はイルマからの魔力の流れに言葉を失った。

いつもと違い、全身をぐるぐる駆け巡る。


「ああ⁈嘘、駄目だよ、人が、エルフさんが来たら」

「何故『さん』付け?」


僕は恥ずかしくてうんうん頷くのが精一杯だった。

その後、しっかり大人のイルマに慣らされ、自分が抱かれる側だと認識してしまった。


僕は疲れてうとうとしているのに、イルマはまだ物足りないのか、あちこちいやらしく触ってくる。

結局、迎えが来てから、慌てて起き出して服を着る羽目になった。

イルマはいつの間にか野獣から元の美少年に戻っていた。服が無いからだって!


宴は長の乾杯から始まり、和やかに行われた。出された料理は素朴だが美味しかった。

特に木の実と鳥っぽい肉(何のかは不明)の炒め物が気に入った。野菜も緑黄色なので、躊躇わずに食べたら、一種類強烈な味のハーブが入っていた。パセリとコリアンダーとローズマリーとわさびを足したような、これは無理。と思ったら、香り付けで食べないでね、と言われてたのを思い出した。僕のリアクションに周囲の人に「だから言ってたのに」と笑われた。


宴がだいぶ進んでまったりし始めた頃、漸く長は僕たちの要件を切り出した。

「エルフの魔道具は貴重だ。ましてや結界の破壊と解呪となると大きな物になるぞ?」

「魔石なら、大きいのを持っている。結界については2人でも試みるから効果を増幅させてくれたら良い」

「真の目的は?」

「兄さんの解呪ができればいい。魔界に侵攻しないよう説得する」


「僕は、人間から救世主って呼ばれたけど、そんなの無理だし成りたく無い。逆にお兄さんを倒したいわけでも無い。人間の奥さんと子供もいるんだ。ただ、心から結婚する僕達を祝って欲しいだけ。人間が魔界をどうこうするのは間違っている」

「魔界を手に入れて、次に違うところに行かれたら困るだろ」

「平和が一番です。僕達の結婚式は平和に行われるんです!」


「ジスト、頼まれるか?」

「はい、お祖父様。僕が結婚式には行ってきます」

「えっ⁈嬉しいけど、魔界大丈夫なの?」

「問題無い」

「この場合は解呪具を作ってくれるか、だろ?」

ジストはゆっくり杯を掲げた。

「1週間以内には」

「ありがとうございます!」


最後に乾杯をして締めくくったが、その頃には多くのエルフが伸びていた。


僕は周囲のエルフに請われるまま、何度目かの乾杯して飲んでたら、終いにイルマに取り上げられ、その後の記憶は無い。





(18R部分を削除している為、18歳以上の方で琉綺がイルマに具体的にされた事に興味のある方は、ムーンライトノベルズに載せてますので、そちらをご覧ください。本編には影響ないと思います)

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