第9話 城にて無双?
目を開けたら、明るかったが、何時なのかわからなかった。
朝だよな。
僕のいる部屋はベッドとサイドチェスト、椅子が一脚あるだけだ。
扉が二つあり、バスルームと居間へ繋がっている、かもしれない。
部屋の中には、誰もいないが、外にはいるだろう。多分。
そう言えば、異世界というのに何の不自由も無いと今更気付いた。これが異世界チートか。他のは魔人になってからの、指輪の補助あっての力だからなあ。
まだだるいので、うとうとしていると、誰か入って来た。
無視して寝たふりを続けていると近付いてくる。
イルマじゃ無いなとがっかりしていると、顔の両脇に手をつかれたので驚いてつい目を開けてしまった。
ノキア!
じろっと見下ろされ、キスされた。
払い除けようとしたら抑え込まれて、半開きになった口の中に舌が入ってきた。
嫌悪感で吐きそうだったが、魔力が流れ込んできたので、つい受け入れてしまった。
が、イルマと違って忌避感が多いのと、別の変な、嫌な気配がしたので、渾身の力で暴れたら、やっと離してくれた。
「何するんですか!僕はイルマの婚約者ですよ」
起き上がって叫んだ。
ノキアは全く悪びれた様子無く足元に移動して腰を下ろした。
「まだ、魔力が戻ってなかったから、足してやったんだ」
「余計なお世話だ!」
「これから王太子と神官に会う。ふらついてたら行けないだろう」
「勝手に連れてきて何故わざわざ僕が行かなきゃならないんだ!僕に会いたいなら、ここに来させればいいだろう⁈誰のせいで具合悪くなったと思ってるんだ!」
「…そうか、気が付かなかった。呼んでくる」
「え?」
拍子抜けするくらいあっさりと、ノキアは足早に去って行った。
僕は手持ち無沙汰にベッドにいたが,寝巻きみたいな服に変わっていることに気付いた。
慌てて自分の服を探したら、サイドチェストの上にたたまれて置かれてたので、急いで着替えた。
二つある扉の一つを開けてみたら、バスルーム(トイレ付き)だった。
もう一つの扉を開けたら、すぐ前に人がいた。
お互いわかってたけど、やっぱり驚いて、2人共後ろに飛び退いた。
向こうは魔術師らしく、20センチくらいの杖を僕に向けた。
「部屋から出ないで下さい」
口調はきついが、杖の先が少々震えている。
隣の部屋は居間の?ようで、真ん中に丸いテーブルと周りに1人がけのソファーが4脚置かれている。
「ノキアが、王子と神官を呼びに行っただろ?こっちで待っててもいいじゃないか」
僕は強気で言って、わざと杖の先が触れる距離に進んだ。
「それに、起きてから何一つ口にしてないんだけど?お茶すら飲んでない。早く持って来て!!イルマにもね!!」
「…はい」
魔術師は素直に返事すると、杖を下ろして部屋の真ん中の扉から出て行った。
「え?」
僕は拍子抜けして突っ立っていた。
扉から入れ違いに兵士が入ってきて、僕を見ると同じ様に
「あちらの、寝室の方に入っていて下さい」
と言う。
ついでに、こいつにも言ってみよう。
「ここに居る!アンタはイルマを連れて来て!僕はイルマに会いたい!無事なんだろうね⁈」
「…はい。隣の部屋です。連れて来ます」
そして、誰も、いなくなった。なんちゃって。
いや、本当に要求が通った。
僕が廊下で待ってると、相変わらず手錠をはめられたイルマと兵士が隣の部屋から出て来た。
「琉綺!」
「イルマ!」
僕は駆け寄って抱きしめた。
「良かった、無事だったんだ!」
「どうして部屋から出られたんだ?」
「みんなに用事言いつけたら、それの為に出ていって、この人も頼んだら言うこと聞いてくれたんだ」
「ええ?魅了が使えるようになったの?」
「別に何も考えてなかったけど?」
「ん?琉綺…兄さんの臭いがする…」
思わず身体を離すと、イルマが僕を睨んだ。
僕は渋々ノキアに魔力を無理やり渡されたことを白状すると、イルマは案の定怒った。
「魔人のモノに躊躇いなく手を出すとは、あいつは一体何を考えてるんだ!」
「それだよ、お兄さん、おかしくない?」
僕はノキアの中から嫌な感じがしたことを話した。
「もしかしたら、呪いを受けた?魔人で、しかも魅了を使える吸血鬼が、逆に呪われることがあるのか?」
「わかんない。それで、みんな戻って来るけど、また出て行ってもらう?」
「早く部屋に戻ってください」と兵士は口を出した。
「そうだ、イルマの手錠外して!」
「それは、魔術師しか外せません」
イルマはニヤリと笑った。
「これ?さっきまで外してたけど?」
カチッと音がしてイルマが片手でもう一方を掴むと、すんなり取れた。
「それならサッサと脱出したらいいのに!」
「琉綺が魔力切れで苦しんでんのに、置いていけるか!兄さんに勝てないのは本当だしな。それにあそこで暴れたら、魔界対人間界の全面戦争になるかもしんねえだろ?」
「イルマも一応考えてくれてたんだ」
「戦争とか面倒だし。早く出ようぜ。兄さんに会いたくねぇ」
「このまま城から強行脱出して、逃げるときに人に怪我させたり、城を壊したら、それこそ戦争の引金にならない?」
「あー、なるかもな。でも、そうなっても仕方ないだろ?」
「お兄さん達の話を聞いてからにしない?僕を保護してどうしたいのか。事によっては穏便に済ませることができるかもしれない」
イルマは迷っていたが、
「穏便ねぇ?じゃあ、隣で待機してるから、何かあったら指輪で呼べ」
イルマは隣の部屋に帰って行った。
「あの、早く部屋に」
「兵隊さん」
僕は兵士をじっと見つめた。
「あなたは、ちゃんと僕を監視してたから、良いんだよ。僕は部屋に居るから、外を見張っといて」
「わかりました」
僕が与えられた部屋に帰ると、兵士は外から戸を閉めた。
「何なんだろう?」
僕がソファーに座っていると、魔術師が帰って来た。メイドさんにテーブルワゴンを押させている。
「持ってきました」
魔術師が僕の方へ来て、メイドさんはソファーテーブルにサンドイッチとフルーツらしきものを一口大に切って盛り合わせたボールを置いた。
紅茶も淹れてくれたので、僕はメイドさんと手持ち無沙汰に立っている魔術師に「ありがとう」と礼を言った。
「お礼など、とんでもございません」とメイドさんは恐縮して壁まで後退した。
魔術師は軽く頭を下げてソファーの近くに立ったままだ。
イルマにも持っていったか尋ねると別のメイドさんが持って行ったと返事したので安心した。
食べ終わって、紅茶のお代わりを飲んでいると、やっとノキアが二人を連れて戻ってきた。
王子は金髪で青い目、身長は俺よりちょっと高いから180センチ位。歳は近そう。
もう1人の白髪のおじいさんが神官だろう。
僕が立ち上がるとシュクル王子とナハト神官はそれぞれ挨拶した。
「遠い世界より、よくぞ参られました。救世主様」
「救世主様、魔王から我ら人間をお救いください」
「話にならない」
僕はイラッとしてノキアに言った。
「僕が何者かは言ったでしょう?」
「少しは」
「少しじゃない!何故僕が救世主とかになってるんだ、有り得ない。聞いて下さい!」
王子と神官は神妙な顔をしている。本当に聞く気有るんだろうか逆に不安になる。
「僕は、確かに異世界から来ましたが、魔界に来て死にかけたところを魔王の息子、イルマティーノス王子に救われて、それが縁で婚約しました。結婚すると魔王様は僕の義父になります。そして既に僕は人間では無く魔人で、吸血鬼です。しかも、成り立てで弱い。
人間の救世主ではありませんし、何の力も無いので協力もできません」
僕は言い切って深呼吸した。
「そんな、あなた様は人間にしか見えません」神官は否定的だ。
「魔人になったのに、何しに人間界に来たんだ?」
ノキアが馬鹿にしたように言うので思わず睨んだ。
「僕とイルマの結婚式にあなたを招待する為です!魔王様に連れて来いと命じられて探してたんです!」
「わざわざ、それだけの為に?父は俺に戻って欲しいと思ってるだろうが、俺は魔界に戻る気はない。こっちで人間と結婚して子供もいる」
「えっ⁈それ聞いてない!」
「お前達以前に来た使者には言ってなかったからな」
「魔人に襲われた私と妹を助けてくれたのだ。私が2人の仲を取り持って結婚させた」
王子が口を出す。
「ノキアは魔人だが、優しくて、もちろん強いから、私の筆頭護衛騎士にしている。妹には、夫を危険にさらすなと不評だがな」
こっちで要職についてるなんて思いもしなかった。
「魔人と魔界対策の責任者でもある。ノキアに協力してもらって、魔界を人間の地に戻したいのだ、救世主様」
「だから、僕は!」
「元々人間なら、人間の方を助けるべきだろう」
「それなら、魔人のあなたは魔人を助けるべきじゃ無いですか?」
「人間を襲う魔人は最低な奴らだから、排除して当然だ。魔界も元々人間界の土地で魔素の少ないところがある。人間界の土地を取り戻しても、何も悪いことはないだろう」
ノキアは平然としているが、僕は首を傾げる。
え?良い悪いって、こっちの都合だよね?奥さんが人間だからって、あまりにも考えが偏ってないか?
王子を見ると微笑んでいるが、目が笑ってない気がした。
やっぱり何かおかしい。
「そうだな、兄さんもてめえらも、軍人でも無い琉綺に魔王討伐を押し付けるのはおかしい」
不意に僕の後ろで声と気配がして、僕は飛び上がった。
イルマだった。
「イルマ、びっくりしたよ!まだ僕何もサイン出してないし」
イルマは僕を後ろから抱え込んだ。
「待ちきれなくなった」
「手錠は?」
3人がイルマの手首を見て後ずさった。
「兄さんと一緒に居た子供の頃ならいざ知らず、今なら軽く外せる」
「甘く見ていたな」
「まあまあ、人間界の土地を増やす、魔素を少なくする方法は無きにしも非ず、だ」
「魔王様を倒すの?」
「いや、魔道具を使う。エルフの里にあったはずだ」
ノキアは少し考えて
「では、お前が取ってこい。救世主は―」
「簡単に言うな!琉綺は連れてくに決まってっだろ!俺だけで借りれるわけ無え!」
「僕もイルマを手伝いたい。そのまま逃げたりしない」
僕はイルマの腕をそっと掴んだ。
「その代わり、土地が手に入ったら正式に通商条約を結んでお互い貿易する約束をして欲しい。略奪はお互い無しで!」
「信用できん」王子は顔を顰めた。
「魔界の事もお座なりにしないで。魔王を倒しても魔素は無くならない。そうだよね?」
「魔素は自然発生するもんだ。オヤジは濃すぎる場所で発生する魔獣を間引いてるだけだ」
2人で得意げにふふん、と鼻を鳴らした。
結局、反対しても城を壊して出ていくと脅した結果、僕たちが行くことが決まった。
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