第4話 婚前旅行?に行って来ます!

「はあ、面倒だー」

「やっぱりドラゴンて怖いなあ」

「行ってらっしゃいませ」

「急かすなエカリオン」

「行って来ます」


僕は肩掛けカバンをされて格好だけはゲームで有る様な冒険者の服を着せられていた。

全て受け身だ。

こんな強そうな格好で美少年に抱かれて飛んでいくとか恥ずかし過ぎるんだが!


無情にもイルマは飛び立ち、遥か彼方の山々目指して進んでいく。

「適当に休憩するから我慢してね」

「お気遣いなく」


相変わらずピンク色の空で、下は荒野が続く。早く自分の力で飛びたいので、一応空を飛ぶ感覚を意識しながら、羽羽生えろとか念じてるがさっぱり出てこない。

だって、自分が人間では無いと信じられない。外見は何も変わってない。目と耳は良くなった。犬歯がちょっと伸びた気がする。まだ違和感は無い。


何時間か判らないが、イルマが下へ降りた。景色が変わらないので進んでるのか判断できないが、山が近くなった気がする。


僕が掛けていたカバンに手を突っ込むと、マグカップと可愛いヤカンを出して来た。

え、そんなの入って無かったよ?

ヤカンの蓋を開けて手をかざすとざぱっと水が入ってすぐに沸騰している。

少し置いてマグカップに注げは、紅茶だ。


「魔法だ!」

「うん?そうだけど」

「異世界に慣れない」

「魔法も羽も想像が大事さ。そのうちできる」

「早く魔法使いたい」

「うん、便利だよ。まあ、それまで全部俺に頼ってくれ」

「お願いする」


番にして貰ったからか、過剰なほど僕に甘い。

「ちょっとだけ血を貰っていい?」

「…いいよ、少しなら」

飛んでたら疲れたのかな。

僕がシャツのボタンを幾つか外して首筋の辺りを晒すと、イルマがいそいそ寄って来た。


「痛い?」

「多少は」

と囁いてすぐ噛まれた。

一瞬痛かったけど、後は何とも無い。ほっとして身を任せてたら、なかなか終わらないので、「まだ?」と声をかけたら漸く離れた。


「駄目だ、美味過ぎる!琉綺、大丈夫?」

イルマは目をキラキラさせて僕を見た。

「ちょっとふわふわするけど」

「魔力あげる」

ちゅっとキスされ、少し口を開けたら舌を絡ませてきた。魔力が流れ込んでくる。

最初あんなにしんどかった魔力を積極的に受け入れられる。

やっぱり作り変わっているんだなあ。

顔が火照って来たのでイルマの肩を叩いて知らせる。


「僕達、人間の住むところじゃ、住めないの?」

「そんな事ないよ!魔素が殆ど無いから、定期的に魔界に戻るか、魔石を持って行くかしないと駄目だけど」

「食事から魔素は取れない?」

「魔界で育てた物じゃないと、僅かしか含まれてないからな」

なるほど、食べ物はやっぱりオヤツなんだ。


「ああ、でも人間界と魔界の間は人間側が結界を張ってるから弱い魔人は破れない。僕は関係ないけど、琉綺はまだ無理か」

「いつか行ってみたい」

「いいね、行こう」

再び僕等は出発した。


そうして休憩を何回か繰り返し、ようやく山の麓に着いた。

山は鬱蒼と生えた木々に埋もれていた。

木の幹の色は黒くて、葉は白っぽいので、モノトーンの世界に見える。


結局ここまでも僕の羽は生えず、ずっと抱っこされて飛んでいた。せっかく背中の空いてるデザインの服着ているのに、本当に役立たずだ。


イルマに時々確かめられて「背中綺麗」とか言われてペロペロ舐められただけだ。ちょっとくすぐったくて動揺するけど、これは味見してるな。



近くで何か唸ってる音がした。やばい、本当にドラゴンいる!

「さあ、行こうか」

「ちょっと待って、作戦は?」

「作戦?考えてない」

「僕が囮になってドラゴンを」

「無理無理!素早いから、僕が突っ込んでいって殴るから、その前に木の影とかに隠れてて」


美少年なのに、やる事ヤンキーだ。

イルマは僕の腰を抱いて飛び上がった。魔法を使っているのか圧迫感とかは無い。

「頭見えた!ツノが一本生えてた」

「そうそう、そいつ。よし、やろう」


僕はだいぶ離れたところにある大木近くに下ろされた。

「気をつけて!」

僕が声をかけるとパパッと手を振って猛然と飛んで行った。

僕がいないと、見えにくくなるくらい早かった。


「斬!」

掛け声と共に風が吹き抜けていった。

後で聞くと、見えにくいので、風魔法で生えてた木の上の方を軒並み刈ったらしい。

森林破壊だ。魔木?で魔素が多いのですぐ育つから気にしなくて良いらしい。

ドラゴンの頭が見えたところで、本当に突っ込んでいって殴ったらしい。


「琉綺〜今のうちに探すぞー」

イルマは上機嫌で戻って来て、僕を抱えあげてドラゴンの元へ運んだ。

僕はドラゴンをティラノサウルスのように、頭でっかちで二足歩行メインの胴体太長いのを想像していた。

実際は昔創造されていた頭小さめ首から尻尾まで細長い竜だった。そして、羽は無かった。


それを超えたところに窪みがあって、中にカラフルな石がたくさんあった。

降りてみると一つ一つが結構大きくて、鶏の卵位から、両手のひらでやっと抱えられる物まであった。

ドラゴンが目を覚ます前に早く決めようと、遠慮無く探し回った。


結果、直径5センチ位の透明な赤い石と青い石を一つずつに決めた。

イルマに見せると

「綺麗だね、それだけでいいの?」

と聞かれたので良くみると、彼は10個くらい卵大の様々な色の石を取っていた。

「そんなに使うことある?」

と尋ねたら、ふふんと得意そうにする。


取った石、魔石は全て肩掛けカバンの中に入れた。全く重く無い。

イルマを急かし、伸びているドラゴンをそのままにして飛び去った。


「これで帰れるね」

僕は安心してイルマにもたれたら、額にキスされた。恥ずかしくて俯いた。

「実は、まだ終わりじゃ無い」

「え?」

「この魔石を使って指輪やイヤリングを作ってもらう為に、ドワーフの谷に行かないと。彼らは魔石や金属の加工が得意だからね」

「それも自分たちで頼みに行くの⁈」

「そうなんだよ、面倒だろ?」

「このまま向かって行くの?」


「一旦帰って何日か休みたいし,すぐ風呂入りたい」

「そうだね、イルマは汚れたもの。僕が頭洗ってあげるよ」

「ふふ、嬉しいな。それならお互い全部洗いっこしよう!」

「そ、それはちょっと」

とか多少恋人同士のような甘い会話をしながら、また何回か休憩しつつ帰って来た。


離宮に着いたら、早速風呂に直行しました。

洗いっこは頭と背中だけだから!

二人共ふざけて長居したせいかのぼせてしまった。バスタオルを巻いたまま、ベッドでダラダラしていると、エカリオンが食事の用意ができたと呼びに来たので、慌てて服を着て食堂へ行った。


見かけはアレだが、美味しい食事をして、その後居間で魔石を取り出してもらってテーブルに並べた。

向こうでは何とも思ってなかったが、ここで見ると不思議な輝きがある。それが魔石が持つ固有の魔素だそう。


これに魔法を乗せて混ぜ込むと、その魔法の威力を発揮する石になるそうだ。

「指輪、ペンダント、ピアス、ブレスレット、アンクレット」

「それ全部作るの?」

「うん、指輪は6個、それぞれ風・火・水・木・光・闇魔法の補助と加増、ピアスは物理攻撃と毒の防御で最低2つずつ、ペンダントは身代わり、ブレスレットは魅了防止、アンクレットは洗脳防止、後何がいる?」


思った以上に重かった。

「そんなに付けられないよ!イルマは何も付けてないし!」

「俺は必要ないから。まだ発達途中の琉綺には絶対必要だ」

「それ言われるとなあ」


魔石をカバンにしまい、少し早いけど寝ることにした。

相変わらず裸同士で、もう慣れた。

いつもイルマの魔力に包まれている僕だが、多少は僕からも出ているらしい。

現在は加減ができず、垂れ流しらしいが、着実に吸血鬼化しているそうだ。


しかし、二人共裸で寝ているのに、性欲がちっとも湧いてこない。イルマのことだいぶ好きになったと思うのにな。このまま結婚して大丈夫なんだろうか?

イルマも特に何も言わないので、淡白なのか?スキンシップは多めだが、やはり、元人間には発情しないのかな?

少し心配になってきた。


そう思ったのがいけなかったのか、イルマがあの女の子に乗り替えて、僕が捨てられる夢を見てしまった。

我ながら小心だ。


次の日起きたら、周りがいつもより明るい。

部屋の明かりは灯ってないし、窓の外を見るとピンク色の空だけど、やっぱり明るい。

魔界で言う晴なのかなと思って聞いてみたら、毎日朝昼の明るさは変わってないと言われた。

「琉綺の目が吸血鬼並みになってきたんだよ。朝晩で、明るさに差があるの知ってた?」

知らなかった。ほぼ一緒だと思ってた。


僅かな変化だけど、イルマが見ている風景を同じように体験できるのは嬉しかった。

最初はイルマと同じ吸血鬼の魔人にされて気を失う程衝撃を受けたのに、変われば変わるモノだなあ。

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