第59話

〜・〜


「司令官。こちら百鬼きなり。制圧完了。

保護対象の安全を確認。移送します。

それと、本日分の目標達成しました」



はぁ…と力無くため息をつく如月の声が、通信機から聞こえた。



本日の目標は8件。

午前3件、午後5件。

全日程の終了目標は18時だった。



僕はちらりと、壁にかかっていた時計を見る。


時刻は14時。

休憩なんていらぬとばかりに暴れ回った。


ちなみに一番時間がかかったのは、保護対象の移送時間である。




如月は僕らが生きていてほっとしたのか、ふぅと息を吐く。



『おつかれさん。帰還してくれ』



その言葉に僕は間髪入れずに言い返した。



「すみません。提案があります」


『提案?』



今度は資料をめくる音がする。

如月は何を提案されるのか予想したらしく、は?と言った。



『まさか、そのまま別の隊と合流するつもりじゃ、…』


「はい。その方が効率がいい。

僕と酒匂しゅこうの意見は一致しています。

僕らは2人で、身軽だ。

補助に回れば効率的に保護できる」


『嘘だろ…。アクティブすぎる…』



再びため息が聞こえた。

それと同時に、「木田はいつもこんな気分なのか…?」と聞こえたような聞こえないような。



『…15番隊と連絡が取れない。

場所はリストに書いてある。向かえるか?』


「了解。

保護対象を移送し次第、合流を目指します」



僕は通信を切って紅にグッドサインを送る。

そうして蜘蛛の本部に保護対象を移送し、15番隊の元へ向かった。



そして。



これは確かに。


蜘蛛側は死者が多いのか、多勢に無勢って感じになっていた。

足元に転がる死者が多い。


それを眺めながら、15番隊へ通信機に話しかける。



「こちら百鬼きなり。支援に到着。

15番隊指揮官、応答願う」



ざざ、ざざ、とノイズが聞こえた。

指示の声がない。


と、そこで一際大きくザザッ!ガサッ!と音がした。

まるで通信機を取り上げたような。


そうしてまたざざ、ざざと音がして、次に声が聞こえた。



『…ご、…い、こちら15番隊!

司令官っ、…誰か、…応答願う!』


「こちら百鬼きなり。15番隊の現場に到着。

指示をお願いします」


『あ…』



通信機の後方から怒号が聞こえる。


僕らは指示なく突撃はできない。

辛抱強く待った。


紅も異変に気づいて通信機に耳を傾けている。



『こちら、…15番隊っ。

指揮官、副指揮官、両名、死亡。

…司令官と、連絡がつかない。

指示できるものが、ここには、いない…。

独自に対応している』


「………」



僕と紅はちらりと互いを見た。

そして僕は如月へのコンタクトを試みる。



「司令官。こちら百鬼きなり。応答願う」


『…………』



…なるほど。

ジャミングされているのか。


元から押されていたのに、指揮官と副指揮官の死亡でさらに状況が悪化したのかもしれない。




僕は思考をめぐらせる。


指示がない以上、僕らは動けない。

今はルナから蜘蛛へ駆り出された身だ。


如月の指示も指揮官の指示も仰がず、独自に行動すれば、違反行為になる。




しかしこのままでは、蜘蛛の戦闘を見て楽しむどころか、15番隊は全滅する。

そうなれば保護対象うんぬんも無理だ。


15番隊はこの後の戦闘も1つ残っている。

それもこの状態じゃ次の一件は無理だろう。



「……こちら百鬼きなり

15番隊。状況説明願う」



再びざざっ、ざざっ、と音がなる。

ジャミングの中、まだ15番隊とは通信が取れるのは奇跡だ。

これをこぼしてはいけない。



『こ、…ら、じゅ…い。

こちら15番隊っ!

150人で突撃し、開始早々に指揮官が撃たれ死亡。

副指揮官が司令官と連絡を取ろうとしましたが、繋がらず。

しばらく副指揮官からの指示で動いていましたが、…30分ほど前に連絡が途切れ、その後死亡を確認。

こちらの戦力は150人から約40人に』



その言葉を聞いて、ぼくは決断する

一度瞳を閉じ、息を吐き出す。


そして、にっと笑った。



「了解。全員入り口まで退避」


『……え?』



僕は袖口からいつものナイフをするりと滑らせた。


やはり木製のナイフは軽すぎる。

この重さが好きだ。



「指示権利を"一時的に"僕、百鬼きなりに移行。全員入り口まで退避。合流する」


『っ、です、が、』


「全責任は僕が負う。

さっさと退避して。

今より戦力減らして死にたくないならね」


『……っ。りょ、了解』



僕は紅に視線を向けた。

そうして今後の動きについて話す。



「紅」


「…………」








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