第60話


彼はこんな時でも静かだ。

僕も静かに見返した。


そして。


僕は笑った。



「先行を立て直したい。僕と君で切り開く。

僕はそれと同時に指揮系統を担当する。

隊員が激減している今、保護対象と共に15番隊は帰還が必要だろう」


「………」


「15番隊はあと一つ目標が残ってる。

僕らは15番隊を帰還させ、残り一つの制圧に向かう」



紅は無言で僕を見つめていたが、ポツリと言葉をこぼした。



「…それは命令違反だろ」


「そうだよ」


「……」



再び見つめ合う。

そうしていると、ふっと紅が息をついた。



「ずいぶん楽しそうだな」



…そんなの、とっくの昔に知っている。

自分がにんまり笑っていることなんて。



情報によれば敵方は200人程度だった。

150人で突撃したとはいえ、今敵は戦闘特化型組織を圧倒して見せている。



それは、相手が何枚も上手うわてだったからだ。


そしてさらに、このあと向かう150人の15番隊が相手をするはずだった現場に、2人で制圧しに行く。



強い敵。

瀬戸際の戦い。


こんなに。







こんなに、

心踊る状況があるだろうか。








僕はきっと酷い顔をしている。

笑みがあふれて。



「さっき聞いてたでしょ。

責任は全部僕がとる。

ここで行かない選択は僕にはない。

ここで死んでも処罰されても本望だ。

君は嫌ならここにいてもいいけど?」



そろそろこの建物の入り口に隊員たちが集まった頃だろうか。


僕は一歩踏み出した。



それを。



紅が後ろから着いてくる。



「俺も、行かない選択はねぇな」



僕はまた笑った。

楽しくなってきた。


これからだ。

ここからが、本領発揮の場面。



「ははっ!

僕らなら、どこまでも行けるさ」



建物の入り口へと踏み出す。








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