第58話


1件目の目標時間は1時間15分。


しかし僕たちは、先行としての役割を約30分で終えた。


保護対象は緊張とストレスで顔色は悪かったが、無事だ。



普段──ルナでは、だが──ならここで増援が来て引き継ぐ。


しかし、僕らが早く終わりすぎて間に合っていない。

僕らに増援する予定だった隊が、他の場所が終わっていないから駆けつけられていないのだろう。



やはりというか何というか。


僕は通信機で如月に連絡を取る。

その間も手は止めない。

敵はこういう時も待ってはくれない。



「司令官。こちら百鬼きなり

先行完了。保護対象の安全を確認。

増援が間に合っていない。

制圧許可を求める」


『もう終わったのか!?しかも早速さっそく…。

…わかった、無理するなよ』


「了解」



僕は紅に視線で合図を出す。


紅はそれにすぐに気づいた。

2人で一気に畳み掛けていく。



紅は器用だった。


紅が使っているのは本物のナイフ。

刃渡は15センチ。


それで相手をちゃんと生かしてる。


僕も木製のナイフに慣れてきた。

この感触なら、明日から普通のナイフに戻しても良さそうだ。



前方から飛び出してきた相手の手元を撃ち、その銃を弾き飛ばす。

その懐に潜り込んで鳩尾に蹴りを入れた。


間髪入れずに振り向きざま、ナイフを振りかざしてきた相手をかわし、その太ももを撃ち抜く。


それと同時に紅が躍り出る。

僕にナイフを振り上げた敵の手を弾き飛ばし、その足にナイフを突き刺す。


相変わらず見事な連携をしてくれる。

いつもの戦闘も心踊るが、今日の戦闘もぞくぞくするほど楽しい。



「あっはははは!!」



僕は狂ったように笑いながら敵を薙ぎ払った。



ここはそんなに大きな建物ではない。

そのためか、人数も少ない。

制圧にはそこまで時間はかからなかった。



辺りを見回し、残党がいないか確認する。

気力のあるやつはまだポツポツいるが、すでに戦意は喪失している。


よし、と立ち上がって紅とアイコンタクトを取る。



撤収作業は僕らの仕事ではない。


先行開始から約45分。

1件目の制圧が完了した。



「司令官。こちら百鬼きなり。制圧完了。

これから保護対象を本部に移送する」


『はぁ!?…わ、わかった。用意しておく』


「了解」



僕は保護対象に車に乗るよう指示した。

紅には助手席で周囲の警戒を頼み、僕は運転を担当する。



ちなみに僕はスピード狂でもあるが、他人ひとが乗っている時は安全運転である。



急いでいる時ほど、一つ一つ丁寧にゆっくりやる方が早く終わる。






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